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菅新政権とガリレオ裁判(日本学術会議の会員任命拒否)その2.

任命拒否された6名の教授の面々

NHKの記事 から参照

以下、今回 任命拒否された6名の学者のプロフィールを簡単に確認しておく。

芦名定道(京都大教授 ・キリスト教学)

『宗教学のエッセンス―宗教・呪術・科学』北樹出版

専門はキリスト教学。「現代神学の冒険」などの著書。
おととしから宗教倫理学会の会長を務めているほか、宗教哲学会の理事。
「安全保障関連法に反対する学者の会」の賛同者の1人。


宇野重規(東京大社会科学研究所教授・政治思想史)

『民主主義とは何か』講談社 現代新書

専門は政治思想史と政治哲学です。
「民主主義のつくり方」や「政治哲学的考察―リベラルとソーシャルの間」などの著書。ことし4月からは東京大学社会科学研究所の副所長。
6年前、集団的自衛権の議論をきっかけに憲法学や政治学などさまざまな分野の学者たちが発足させた「立憲デモクラシーの会」や、「安全保障関連法案に反対する学者の会」の呼びかけ人の1人。

因みに、この宇野さんの父親・宇野重昭(1933年)氏は、成蹊大学で法学を教え、後に学長になれた方だが、安倍晋三前首相も宇野重昭氏の教え子という関係にある。
「安倍首相の恩師・宇野重昭氏が死去、生前涙ながらに「安倍くんは間違っている」「勉強していない」「もっとまともな保守に」と批判」 (excite)
こうした属人的な因縁もあったためか、前首相・安倍晋三氏による意趣返しとの見方を語る人もいる。

岡田正則(早稲田大大学院法務研究科教授・行政法)

『国の不法行為責任と公権力の概念史』弘文堂

行政法が専門の法学者。先月、早稲田大学比較法研究所の所長に就任。
法務大臣から直接任命される司法試験考査委員を3年前まで10年間にわたって務めたほか、現在は国立国会図書館の事務文書開示・個人情報保護審査会の会長代理。

岡田さんは、アメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐり、沖縄防衛局が取った手続きを批判する声明をほかの行政法の専門家とともに2度にわたって出しています。「安全保障関連法の廃止を求める早稲田大学有志の会」の呼びかけ人の1人。


小沢隆一(東京慈恵会医科大教授・憲法学)

『憲法を学び、活かし、守る』学習の友ブックレット

憲法学が専門の法学者で、「歴史の中の日本国憲法」などの著書。

5年前、安全保障関連法案を審議する衆議院の特別委員会の中央公聴会に野党推薦の公述人として出席し、「歯止めのない集団的自衛権の行使につながりかねず、憲法9条に反する。憲法上多くの問題点をはらみ廃案にされるべきだ」と述べた。


加藤陽子(東京大大学院人文社会系研究科教授・日本近現代史)

『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』 新潮社

日本近代史が専門の歴史学者。11年前から東京大学大学院人文社会系研究科の教授。

1930年代の外交や軍事を研究テーマにしていて、「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」など当時の歴史について数多くの著書。
6年前、集団的自衛権の議論をきっかけに憲法学や政治学などさまざまな分野の学者たちが発足させた「立憲デモクラシーの会」の呼びかけ人の1人。
この会は、安全保障関連法や、「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法律、それに東京高等検察庁の検事長の定年延長に反対した。


松宮孝明(立命館大大学院法務研究科教授・刑事法)

『刑法総論講義』 成文堂

過失や証券取引などが研究テーマで、2010年から5年間、立命館大学大学院法務研究科の研究科長。
3年前、「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案をめぐり、参議院法務委員会に共産党が推薦する参考人として出席し、「何らの組織にも属していない一般市民も含めて広く市民の内心が捜査と処罰の対象となり、市民生活の自由と安全が危機にさらされる戦後最悪の治安立法となる」



ご覧のようにいずれの方も誇るべき業績をもたらした蒼々たる学者ばかりで、日本学術会議法・第17条の「日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者・・・」に恥じない面々で、いったい彼らの研究成果のどこに問題があるというのか。いまだにこの疑問に答える政府側の答弁は出されていない。

任命拒否されるのであれば、逐一、そうした学問業績に照らし、17条で謳う「優れた研究又は業績」にそぐわないことを、説得性を持って説明がされねばならないのは、日本学術会議法が求めるところだ。

言ってしまえば、菅首相や、官邸の官僚らに、この種専門的分野を極めた方々についての評価を下すだけの専門的学力、識見があるのだろうか。

残念ながらそこは持ち得ないというのが実際の処だろうから、首相の任命とは、したがって上述の審議録にもある通り、あくまでも形式的なものであるとの理解が法的合理性からもしても当然のものとなっている。

事実、前回の改定案の審議録の引用にもあり通り、中曽根内閣時代から、日本学術会議法・第17条の「・・・内閣総理大臣に推薦する ものとする」という条項は、あくまでも日本学術会議が専門的立場から人選した学者について、首相はこれをそのまま「推薦する」するものであり、首相の「任命権」なるものも、あくまでも形式的なものとの確固たる了解が国会において踏襲されてきたものである。

そこを菅首相の得意の「前例踏襲はしない」「行政改革」などとの立場から、100歩譲り、人選における新たな規範を設けるのであれば、日本学術会議法を変えるとか、日本学術会議側との綿密な事前の協議などが無けれおかしいのであって、これをクーデター紛いに いきなり「任命拒否」を結論的に突き付けるのは、どう考えても法治国家とは言えない暴挙とする批判が殺到するのは当然だろう。

日本学術会議 任命拒否を巡る一連の経緯

以下、少し整理のために、簡単ながら日本学術会議を巡る経緯を時系列で振り返ってみる。

9月16日 菅義偉政権発足

10月1日 『しんぶん赤旗』「学術会議への人事介入。菅首相が拒否した6人の氏名分かる」と速報

大手メディアは、潤沢な記者を擁しながら、赤旗記者の後塵を拝するという恥ずかしさに笑ってしまったが、その後、全国津々浦々、多くのメディアが一斉に報ずることとなり、蜂の巣を突いたかのような大騒ぎに。(赤旗、対象記事

【日本学術会議】山極寿一 前会長の会見

10月2日 日本学術会議、6人の任命求め総理宛に文書提出

NHK,記事
学術会議推薦者外し問題 野党合同ヒアリング
任命を外された岡田正則教授、小沢隆一教授、松宮孝明教授の出席(YouTube,12)

「野党「法解釈変更か」追及 学術会議、任命除外でヒアリング 政府側は否定
(朝日)

「学術会議推薦除外の教授ら「禍根残す」 野党聞き取りに」(朝日)

学術会議は任命問題で総会を開き、理由の開示と6人の任命を求める要望書提出を決める
「任命しない理由、開示を 日本学術会議が首相に要望へ」(朝日)

除外された加藤陽子氏学問の自由の観点のみならず、学術会議の担うべき任務を首相官邸が軽んじた点も問題視」と(朝日

10月3日 菅首相、パンケーキレストランで内閣記者会に所属する記者と懇談会

菅内閣発足後、2週間を経ても国会を開かないばかりか、記者会見すら行われ無いという異例の経緯を辿り、そしてこのオフレコ(首相が語った事は一切外部に報じないという条件での開催)(ハフポスト)

日本学術会議の政府に対する要望書(日本学術会議 総会)(PDF

官邸前での抗議行動

「任命権≠人事権」 学術会議人事、官邸前で数百人抗議」(朝日)

Change.orgのネット署名運動が開始
この頃から各学者、研究者団体の抗議声明が続々と始まる
日本科学者会議 歴史学研究会 日本パグウォッシュ会議 日本社会学会 社会政策学会 日本映像学会 ・・・・・・・・

映画人有志 「「任命除外を憂慮し、怒り」 是枝裕和監督らが抗議声明」(朝日)

10月5日 菅首相、内閣記者会の「グループインタビュー」

「個別の人事に関するコメントは控える」 「総合的、俯瞰的活動を確保する観点から判断した」とだけ語り、記者からの質問にも具体的理由は一切答えない(TBS:YouTube

この「グループインタビュー」なるものもまた記者会見とは言え、実に異質なスタイルのものだが、国境なき記者団が公開している《世界報道自由度ランキング》では、ここ数年、日本は60位台後半で推移しているが、この一般的な記者会見すらまともに開けない菅政権の状態ではコソボや、ペルー、エチオピアといった、低開発国並みの低位に甘んじることになるのは必至なのでは。(wiki・世界報道自由度ランキング)

少し旧いですが、近年の「報道の自由度」ランキングのグラフ

見ての通りで、2010年をピークにジェットコースターの如くに低落しているのが見て取れる。高いところは民主党政権の時期で、下がっていく時期は、安倍政権以降(つまり 安倍前首相のお得意のフレーズ「悪夢のような民主党政権」時の方が圧倒的に報道の自由が確保されていたということになる)

10月6日 加藤陽子氏「国家が国民の私的領域を侵そうとしている」

加藤陽子さん、かなり独自の視点を提起していて、ぜひ彼女のいわんとするところに接近していただきたい)(朝日

任命拒否、学問の自由に違反」 首相出身大 田中優子総長が声明」(朝日)
        総長メッセージ全文

国立大学協会の永田会長、6人除外対応への批判
「学長ら「危惧」「残念」 政府に説明求める声 学術会議6人除外」

10月7日 〈衆議院 の閉会中審査〉 任命しなかった理由について内閣府は「総合的・俯瞰的」と説明

理由をまともにこたえられないがたけに「総合的・俯瞰的」などと、さっぱり要領を得ない話を持ち出している。上述の法改定案の審議過程すら顧慮するどころか、読みもしないで、高〜いところから睥睨するってわけですか。バカも休み休み言い給え。(朝日

10月8日 自民党 下村博文政調会長「学術会議の課題やあり方を議論するPT(プロジェクトチーム)を設置する方針を示す。

官邸 山極学術会議会長を門前払い 選出根拠の説明要望に「会う必要ない」(毎日)

この権力者然とした強権的な振る舞いはスゴイよね。
これじゃ、学術会議もいっぱしの学者団体であれば硬直化し、フツフツと怒りが湧いてくるというものではないだろうか。

10月9日 学術会議を行革対象に(河野行革相)

菅首相、推薦リスト「見てない」 会員任命で信条考慮せず―学術会議会長と面会も」(時事)
「推薦リスト見てな」くて、どうして総合的・俯瞰的」な判断ができちゃうのだろう?わけわかんない。

学術会議任命拒否問題 野党合同ヒアリング
YouTube

10月12日 「官房長官「推薦者名簿は添付されていた」

学術会議・首相発言巡り」(毎日)
首相の理解不能な答弁に、官房長官が一生懸命、補足説明しているわけだが、宮仕えも大変だなぁ

10月13日 「杉田和博官房副長官が拒否の判断に関与」政府関係者明らかに

首相に経緯報告」(毎日) 

10月16日 菅首相、日本学術会議の梶田隆章会長と会談。

梶田会長は、6人の速やかな任命と、任命しなかった理由の説明を求める要望書を首相に提出
ただ、梶田会長、あまりに弱腰で、要望書出したものの、口頭での理由説明と任命するようにとの要請はしていないというので、暗雲漂うのですよね。

10月26日 臨時国会召集

菅内閣発足からなんと40日経過しての召集 ¯_(⊙︿⊙)_/¯
内閣が改められた場合、通常、1週間〜10日ほどで召集されることが一般的

菅首相、〈NHKニュースウォッチ9〉に出演

日本学術会議の任命拒否の理由説明が無い事に対し、有馬嘉男キャスターが「国民への説明が必要」と求めた事に「説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか。105人の人を学術会議が推薦してきたのを政府がいま追認しろと言われているわけですから。そうですよね?」と開き直る。
行政府によるこれまでの慣例を破る異例の人事について問われ、「説明できないことがある」とはこれ如何に。

ある狭い範囲の仲間内に押し通す手法であれば許容される物言いかも知れないが、国のトップによる重大な人事発令に、こうした暗闇を押しつけるというのは民主制度の下では到底許されるものでは無いだろう。

「あなたたちには見えないところで、こっそりやるんだ」、との宣言のようなもの?
日本の民主主義が頭から腐っていってるということだね。

10月27日 「菅首相 日本学術会議「会員一部大学に偏り 多様性の確保必要」

(NHK)
出ました !!!!「多様性」

10月28日 衆院本会議 学術会議、人選に「偏り」

 任命拒否の理由明かさず―代表質問で菅首相 (時事

10月29日 【学術会議】山極前会長「2年前も難色 理由示さず恐ろしい」

NHK

11月2日 〈衆議院予算委〉菅首相は、会員の選出方法について「閉鎖的で既得権益のようになっている」と答弁

出ました !!!!「閉鎖的、既得権益」(読売

11月4日 衆院予算委 本格的論戦始まる

大変興味深いので、議論の模様を貼り付ける。
辻元清美 vs 菅義偉内閣総理大臣
・・・日本学術会議問題は14分〜、

ポイントは・・・
・105名のリスト、見ていない。
・決済の際、6名の名前を知ったのか、
・誰から聞いた、 菅首相から杉田副官房長官の名が出る

35分〜菅首相は6名のうち知っているのは加藤陽子氏だけ。
・政府関連の委員を長年務めていることも知らなかった

杉田副長官が任命拒否方針を報告 首相が答弁、決裁前に6人把握 (共同通信) 11月4日

11月5日参院予算委

蓮舫 vs 菅首相 日テレニュースから
蓮舫「結果として、若手も、女性も、私立大学に所属している人も外された。言っていることと、バランスが真逆の結果の人事をどうして納得したのか」



11月6日 学術会議任命見送り 人文・社会科学系学会220余が共同声明

(前回の記事、冒頭の共同声明参照)
人文・社会科学系の学会が研究分野の枠を超えて今回の規模で意見を表明するのは初めてとのこと。

以下、次回に続く

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