「Fine WoodWorking」と雑誌リテラシー
米国から定期購読の雑誌が届けられた。「Fine WoodWorking No.178」だ。
今日はこの雑誌について取り上げる。
木工に関わる人、興味のある人の中で海外のテキストに興味のある人のほとんどはこの雑誌を知っていることだろうし、定期購読している人も多いと思われる。海外の関連雑誌では最も購読者数が多いのではないだろうか。
The Taunton Press という出版社の発行によるものだが、この雑誌の取材を元にしてカテゴリーごとに多くの単行本(ハードカバー、ソフトカバー含)やDVDソフトも豊富に再構成され出版されている。
その内容と性格はアマチュアからプロまでを対象とした幅広い総合雑誌といった感がある。
ボクも木工を始めた頃から定期購読しているが(バックナンバーを確認すると No.65 からだ。7巻/ 年)、最初の頃は仕事を終えると紙面に穴が開くのではないかと思うほど飽く無く見ていたものだ(今は届けられてもざっと拾い読みする程度になってしまったが)。
日本でも類書雑誌もいくつかあるようだが、なかなか出版社としてはペイするだけの購読者数の確保が難しいのか、休刊、廃刊という憂き目に遭うことも多いようだ。
この木工関連出版界における日米の差はどこにあるのか、いくつもその彼我の差異を列挙することは可能だろうが、誰しもが否定できない事実として「木工を含めたDIY 文化の成熟度の差」ということが言えるだろう。
「Fine WoodWorking」はアマチュアからプロまでを対象とすると先に述べたが、これはその内容がビギナー向けから、ハイレベルに至るまで様々な技法の紹介、チップス、機械、工具の最新情報(試用報告含む)、デザイン、樹種の情報、さらには工房運営のケーススタディーまで広く深く記述されていることからだ。
なお最近では拾い読みで済ますようになった理由だが、技法についてはあまり参考になる情報が無いと言うことになるかな。チップス、デザイン、その他ハードウェア情報については参考になることが多いものの、技法についての情報は、やはり日本の伝統的な技法に一歩も二歩も譲るような気がする。
かつてジェームス・クレノフ氏の唯一の日本での木工セミナーに参加させていただいたときの事だが、ボクが丸鋸昇降盤でホゾ取りの加工をしているとき、彼が近づいてきて、危ないからこれを使え、とホゾ取り用のジグを寄こすと言うことがあった。
これはボクら日本の職人が当たり前のように作業している工程があまりにも危なっかしく見えたのだ。
しかしボクらからすればこうした工程にいちいちジグなど使っていたら作業性は悪くなるし、もっといえばその加工精度も落ちる。
こうした作業例が「Fine WoodWorking」には実に多く紹介されている。もちろん参考になることも少なくないものの、多くは日本の伝統的作業環境では無意味なものと言っても良い。
日本人の器用さ、からの手作業 VS 西洋人の不器用さ、からのジグ発展
という構図が成り立つのだろうか。
若い木工家、木工志願者にはこの「Fine WoodWorking」から受ける影響は少なくないものと思われるが、ぜひどっぷりとはまり込む前に、1度、近隣のしっかりとした木工所の職人仕事を経験することのほうがプロとしてのスキルを付けるプロセスとしては賢明だろう。
木工などという工芸は、なんだかんだと言っても、所詮、どんくさい技法の積み上げの上に成立しているということだけはいつの時代になっても変わることはないようだ。
MAC POWER (マックパワー) 05月号 [雑誌]
掌田 津耶乃
ところで先週末ある雑誌を購入しようと思ったが、未だ決断できずにいる。「Mac Power 7月号」だ。これまで定期的に毎号購入していたが、今年の5月号からRenewalしちゃった。全く編集内容が変更された。
一言で言えばクリエイターって言うんですかね、デザイナー達を対象にしたMacフリーク雑誌になっちゃった。
以前は多くの出版社がMac関連雑誌を出版していたが、現在は2社4種(?)。
MacPowerが最も読み応えのあるものだったので愛読していたものの、どうもボクたちには縁遠い雑誌になってしまったのだろうか。
現在定期購読している雑誌はいくつになるだろうか…。
10誌にもなる。惰性で取っているだけのものもあるだろうから、少し整理しなくちゃ。
因みに「Fine WoodWorking 」の定期購読料金は以下のよう。
・1年分(7誌):$41.95
・2年分(14誌):$73.95
・3年分(21誌):$104.95
少し批評めいたことにもなったが、良書であることには全く異論はない。日本から投稿する人もいるようなので(デザインブック、チップスなど)あなたもぜひどうぞ。
otake.o
2005-6-21(火) 09:27
FWWは私も以前購読していました。バックナンバーが増えて、置き場に困るようになったので、今は取ってませんが。
私もこの雑誌を読んで、DIY文化の成熟度の差を感じたものでした。特に印象に残ったのは、読者からの投書のコーナー、工作法に関するアイデアを寄せるコーナーが、冒頭に設定されていることでした。読者からの多様な情報を載せることで、自由闊達な技術交流を演出しているわけですが、それをトップに持って来るところがすごい。とかく権威主義的で押し付けがましい国内の出版物と比べると、えらい違いだと感じたものでした。これが気に入り、投稿したこともありました(No104)。
ところで、ご指摘のように、加工方法やジグに関する記事が「これでもか」と感じるくらい登場するのには、いささか辟易しました。しかしそれも、彼等の木工文化の一断面のように思います。作品を作ることよりも、加工方法を考えることの方が大事と捉えているようなふしもあります。プロセスに重きを置くのは、欧米文化の特徴かも知れませんね。
artisan
2005-6-21(火) 12:58
otake.oさん、コメント感謝 ! です。
覚えていますよ、No.104 投稿。
「Methods of Work」というコーナーですね。
とても参考になり、うちでも取り入れたものも少なくないです。
技法の紹介はアマチュアには大変参考になるものです。
しかし職業木工職人として取り入れるべきかどうかは、よくよく考えてみませんと、先人に笑われてしまうものになりかねません。
「日本ではそんなやり方ではない、もっと精度が出て、仕事の速いやり方があるだろう… !? バカヤロウ ! もっと日本の木工を復習え。」などとね。
aiko
2020-12-24(木) 17:19
Finewoodworkingというキーワードを探していてたどり着きました。
本題とはズレるのですが、欧米におけるFineWoodWorkingとは、無垢の家具造りを指すのでしょうか?
ランバーや合板で作る家具に対し、無垢の家具にFineWoodWorkingという文字が当てられてるようにも思うのですが、この雑誌が検索で引っ掛かってしまい確証を得ません。
もしご存知でしたら教えて下さいm(_ _)m
artisan
2020-12-25(金) 22:32
aikoさん、コメントありがとうございます。
“Finewoodworking”という語彙が意味するところへのお尋ねですね。
問いはシンプルなもののようにも思えますが、
私の記述能力の問題もあり(苦笑)、別途、新たに記事を起こすことにしましょう。
数日中に上げますので、暫くお待ちください。
aiko
2020-12-26(土) 09:02
なんと記事にまで!? ありがとうございます。
何となくですが、無垢制作だけの意味ではなく細かい手仕事や仕口などを入れた伝統的なものの意味も入ってるような気もします・・。楽しみにしております。
artisan
2020-12-29(火) 10:25
遅くなりましたが、新たな記事として、aikoさんからの問いに回答しました。
https://koubou-yuh.com/blog/?p=10201