工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

真夏の桟積み作業は止めよう

チェリー材

写真は先に名古屋で製材したチェリー材。
製材後、いくつかの展示会が続くという事情があり、しばし材木屋で預かっていただいていたものの、そこも限界で引き取ってくれという。
運送屋が清水まで搬送してきてくれたものを自車で引き取りに行った。
つまりはこの後桟積みをせねばならないということ (>_<) 以前、真夏の炎天下で数人係りでトチの3寸板を桟積みしたことがあったが、この時は2人がぶっ倒れた。あんなこと2度とするものじゃない。 今回は1.8寸厚がメインで、幅もさほどのものでもないので、何とか気合いを入れてやってしまわねばならない。 明日、早朝の涼しいうちにやってしまおう。
材木の製材、管理というものは決して簡単なものではない。
同業の木工家でも原木丸太から入手して製材、管理しているものは決して多くはないかも知れない。
何故にこれほど大変な作業が伴う製材・管理を行うのか。理由は至極単純なこと。

  1. 一般に流通している材木では、様々な丸太から製材されたもので、材質、木味が揃わない。
  2. 一般に流通している材木は小径木からの製材のものが基本で、板幅も狭く、若い木なので暴れやすく質は低劣なものが少なくない。
  3. 一般に流通している材木では材種によっては厚い板が無い。
  4. 幅広の良質の乾燥した板材を求めるとなると、銘木屋扱いのものとなり、大幅に高価なものになる。

と言ったところだろうか。
以前家具のグループ展で、一緒に参加した木工家がボクのウォールナットのテーブル脚部を見て「こんな厚板、良く手にはいるな…」とうらやましそうに見ていたが、確かにこの時の3.5寸(≒105mm)厚の材木など一般に市場からは入手不可能だ。市場で流通している乾燥材ではせいぜい2″(50mm)止まりだろう。
その人の出品しているテーブル脚を見れば薄い板厚のものを2枚接ぎ合わせて厚く見せていた。
一般に量産家具ではこのように厚み方向での矧ぎ合わせも通常行われるようだ。
しかしボクにはこのような構造部分に矧ぎ合わせのものを使うというコスト意識、美意識は無い。
設計、デザイン上そのような厚みが必要であれば前もって自身で製材、管理せねばならないというのが、基本的考えだ。
矧ぎはしょせん、いずれ切れる。
天板など幅方向での矧ぎ合わせは、材木の世界的逼迫事情、高価格、などの理由から仕方ないものであろうが、3.5寸、4寸 厚ほどの材木など原木から製材すればいくらでも確保できるものだ。
木工への関わり方の意志。それを成すために必要な先行投資への努力と汗だ。
楽してもうけよう、などということの対極にあるのがこうした工芸を志向する人の基本姿勢なのかもしれない。
工芸とは、その作家の美意識、教養、知力、技法を様々な素材を通して表現するものであるだろう。したがってその素材(材質)の善し悪しはストレートに作品に反映されることとなり、ここから逃れることは容易ではない。
さて材木市に出掛けると年々、その質量とも悪化する一方だ。
有限の自然界からの調達である以上、仕方ないものだろうが、これからの若い木工家には厳しい環境だ。
今からでも遅くない、ぜひ良い材木を確保して、明日の仕事に備えよう。
もし明日のエントリーが無いときは桟積み作業でぶっ倒れているものとしてお許し頂きたい(笑)

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  • ご無沙汰。暑いのに、いつも精力的な活動、脱帽します。
    今回から、当方のハンドルネームを、partisan に改名。
    ふだんは名もなき市民ですが、いざとなれば必要なものを
    手にして、闘います。partisan は、artisan の亜流で、
    p は、pseudo-(偽の、仮の)と受け止めてください。
    さて、《真夏の桟積み》お疲れさん。うまくいきましたか?
    「そのような厚みが必要であれば前もって自身で製材、管理せねばならない」
    「必要な先行投資への努力と汗」や、よし。
    「楽してもうけよう、などということの対極」にあるのが
    artisan の哲学で、貴君はそれを実践しているからえらい。
    「工芸とは、その作家の美意識、教養、知力、技法を様々な素材を通して表現するもの」とあるけれど、実際には、さらに「気力、体力」もいるんだね、とわかりました。
    当方、7月に論文式(2次)試験がおわり、9月の発表まで、針のむしろです。この《狂おしい夏》の反語として、
    『幸せな夏』というタイトルで、92枚の創作を仕上げました。機会があれば、読んでください。再見

  • 桟積み 無事終えてちゃんとブログエントリーもしたよ。
    ピーカンでもなかったので、ぐぁんばれました。ばてばてやったけど…。
    自称partisanですか、ムムッ、含意あるのか無いのか解りませんが、ぐぁんばりましょう。いずれも"art"を含んでるところがいいじゃん。

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