工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

真夏のおだやかな工房で

成形仕上げ
木工加工の一連の工程で楽しいことを上げれと言われたら何と答えようか。
まず答えに窮してしまうだろうね。
辛いことが多いばかりで、楽しいことなんか何も‥‥、ということではない。
一方、多すぎて、困ったねェ、というのは本音と強がりが微妙なバランスで拮抗している物言いかもしれないが‥‥、
昔、親しくしていた陶芸家を訪ねたときのことだが、うちの若いアシスタントとの間で次のような会話が交わされた。
陶芸家の先生:修行は楽しいか?
アシスタント:(やや間があって)ハイ楽しいです。
陶芸家の先生:バカヤロ ! 楽しい修行などあるか。厳しい修行を乗り越えてこそ、楽しい日々が待っている、かもしれないのだよ。
(ボクの方を向き)杉山くん、ちょっと甘やかしすぎだぞ‥‥。
ハハハ、ちょっとこのアシスタント、気の毒だったかな。嵌められた、という感じだ。
さて話しを戻し‥‥、木工加工の一連の工程だが、留保など一切不要な楽しいこともある。
手鉋で一定の造形物を成形加工することもその1つに入る。


画像はテーブルの脚部の成形仕上げ。
小鉋、反り台鉋、南京鉋、などでシュッ、シュッとリズミカルに鉋屑を吐き出しながら仕上げていく。
うちでは縦軸面取り盤(Shaper)で倣い成形しておくので、実質、仕上げの鉋掛けだけで済ますことができるのだが、それでも目的とする造形のラインがシャキッとし、ブラックウォールナットの滑らかな木肌が出て、美しく輝いていく過程に立ち会えるというのは木工職人ならではの特権。
あぁ、それと画像にあるように、こうした手加工プロセスにおいて、被加工物をしっかりと抑えておくことは安定した作業環境を確保するためにとても重要なことになるが、このスカンジナビアンタイプのワークベンチはその点において最良だ。
この場合はテールバイスという部分のアゴでの圧締になるが、他にも様々な有用な機構があり、とても優れた作業台である。
そうそう、昨日の画像の、テーブル甲板を立てての辺材部分のチョウナ掛けの方はショルダーバイスという部分を使っての圧締。
いわゆるどちらもバイス(万力)の機構であるが、アゴの下に通常見られる機構上不可欠な数本のバーというものが全くない。自由空間。
そのためにこのように上下貫通させての圧締が可能となりその活用性は高い。
このように求められる様々な機構をしっかりと満たし、かつ快適な作業環境を与えてくれるのがこのワークベンチ。
工房の設立直後、ワークベンチの制作に入る前、これをよく知る先輩に言われたものだ。
君が倒れるの先か、ワークベンチの方が先か、というぐらいの積もりでしっかりしたものを作らなければダメ !
アドバイスに従い、訓練校在校時に買い求め、桟干ししていた樺の3寸板、3寸角材を主材として制作した。
おかげで、この作業台、まったくびくともせずに頑固一徹で居座っている。
甲板部分に付着してしまうボンドなどをスクレーパーなどで削ぎ取るぐらいのメンテナンスで、20年にわたる過酷な作業環境にも全く動ずることなく、しっかりとボクをサポートしてくれる賢く強いアシスタントである。

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