アリの枘(ホゾ)について(Chips)

欧米の木工クラフト家具には、ダブテールによるホゾ接合を見掛けることは比較的多いようです。
私も含め、日本の木工では、多用されることは無いと思われます。
その理由を考えますと、加工合理性の判断がまずあるでしょう。
ホゾ加工は比較的容易で、接合度も、嵌め合わせが杜撰でなければ、強度を出せます。
他方、アリの場合、メス側はホゾ加工と異なり、丸ノコ傾斜板での加工はできず、ルーター盤、ハンドルーターなどに依りますので、こちらは容易ではありません。
また、アリの嵌め合いでは、相当程度の高い精度が要求されます。
この精度が必要なレベルに無いと正しく組むことはできません。
嵌め合わせがキツ過ぎれば、オス・メスを組む工程で破断を招くでしょうし、
緩すぎれば、接合度は大きく劣り、胴付きも隙間が空いてしまうことになります。
こうして、ホゾの設計においては、2つの特性を良く理解し、それぞれ個別具体的な対象にもっともふさわしい技法を選択する事になります。

さて、今回紹介する事例ですが、これは間口4尺のキャビネットのベース部分になります。
高さ、わずか5寸ほどの脚に、1.5寸幅の幕板(前後はなだらかな円弧状)を四方に廻し、構造体とするものです、
この脚部と幕板んお接合のホゾを今回はアリとしました。
理由ですが、この脚部と幕板の接合分にはかなりの重量物となるキャビネット本体を支えるだけの強度が求められます。

しかし、わずかに1.5寸ほどの幅の通常のホゾで、しかも外へと流れるテリ脚ですので、
この枘下部にはキャビネットの重さから、ホゾを緩め、抜け方向への圧力が定常的に掛かることとなり、通常のホゾでは経年劣化を併せ考えた場合、破断リスクが高くなります。
その点、アリという形状の特性から、高精度の嵌め合いであれば、抜け落ちのリスクは限りなく少ないので、このアリ枘を選択するのが望ましいだろうとの判断です。
こうして、長手、妻手、いずれもアリホゾで首尾良く、良い加工を施すことができています。

長手、妻手、両方のアリホゾは問題アリ、かも
さて、しかし、ここには1つの問題があります、
長手、妻手が90°の関係で納まる脚部のアリの部分、断面にそれぞれのピン先が接近していることが見えますね。
これは良くありません。
破断のリスクがあります。
画像のように首尾良く嵌め合いが成功していれば、継続使用で問題が起きることはまず無いと思われますが、
組み上げ工程で少しでもキツ過ぎ、クラックが入ってしまえば 、もはやそれまで。
例え、その場は凌げても、定常使用、経年変化で、この組み上げ時に起きたクラックは破断へと向かって行くのは必定。
ではどうすれば良いのか。
今回のホゾの選択は、このベース上にある重量物を長期間にわたり支える構造体で無ければならず、そのためのアリ枘でした。

したがって、この要請を断念することはできず、破断のリスクを回避するには、妻手側の枘を一般的な枘にするという選択があります。
これにより、長手、妻手の枘の絡みによる破断リスクは大きく改善されることになります。
なぜ妻手側かと言えば、重量による枘の抜け落ち問題は、妻手側では長さが1/3しか無く、完全に無視することはできないとはいえ、まず問題が起きることは無いと判断して良いと考えられるからです。
次に同様の機会があれば、そうしようかな😓

木ネジの下穴について
因みに、画像に見えている10φほどの開口部ですが、
ここに結合されるキャビネット本体は無垢材の板差しで、対し、ベースの方は框方式ですので、上部板差しの伸縮への対応を考慮せねばならず、そのため、上下の接合に用いる木ネジが板差しの板の伸縮に対応可能なように多少、動くような構造にしています。
この開口の穴、幅方向、下は木ネジ頭が潜り込むよう1/3の深さでネジ頭が入るサイズで開け、上は木ネジが多少動くよう、太めに開けておく、と言うわけです。
残り1/3ほどの中間部がスクリュー部分の太さに合わせた径で開孔されています。

なお、以前、どなたかの木工分野のBlogで見たことがあるのですが、
A.B 2枚の板の接合の場合、上側Aの下穴はスクリュー径よりやや細く開けるのが強い緊結力を発揮する方法、などと書かれていて驚いたことがあります。
その方が緊結力が高まる、というです
建築に用いる杉、ヒノキなど針葉樹の場合、下穴不要で、ガンガンと打ち込むことが一般的ですが、家具など硬質な木材を用いる場合、この下穴開孔は必須です。
さて、この木ネジの下穴ですが、スクリュー径よりやや細く開ける方が緊結力が高まる、というのは間違いです。
上側Aの下穴はスクリュー部分がスムースに入る程度の太さで開孔します。
例えば、3.8mm仕様の木ネジであれば、4mmの下穴を、2.4mmの仕様であれば、2.5mm、といった風にですね。
そうで無いと、木ネジを締める際、A.の部分で既に摩擦抵抗が起き、肝心のB.の板にスクリューを廻し込んだとしても、2枚の板同士は強い結合力は生まれないばかりか、隙間が空いてしまう結果になるでしょう。
上.A.の板の下穴はスクリューからフリーにさせることで、上A.を貫通させ、下.B.の板にスクリューは強く締め付けられ、A.B.は強力に結合させることができるのです。
ただ、Web上にあるテキストでは、スクリュー径の7〜8割の太さで開けましょう、などという書き込みが多いようですが、これはDIYの世界で用いられがちな、針葉樹の場合とお考えください。
硬い広葉樹を用いる家具制作の世界では、まったく良い考えではありません。
右図は FineWoodworking #288 から拝借しました。
なお、右図の〈Pilot hole〉ですが、これは手回しのドライバーで作業する場合には必須ですが、
現在のように、強力なドリルドイライバーを使う場合は、多くの場合、不要と思います。
また、こうした木ネジの締め付け作業では、以前はスクリュー部分にワックスとか、石鹸などを用いましょうと言ったテキストもありましたが、気乾比重が0.6程度の材種で、しかもステンレス製の木ネジであればそのようなこともしなくなりました。
ただ、ステンレスと鉄では固さも違いますので、適宜、使い分けるということでしょうか。
