工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

器のためのミズメのチェスト

先日来制作していた器のチェスト、塗装もほぼ最終段階。

この依頼者は器のコレクションをしており、これを納めるためのチェストとして設計。

最上部の浅い抽斗はシルバーを整理するため、細かく仕切られる。
抽斗は半被せ。インセットで隙間が空くことを嫌った。
またフルエクステンションのスライドレールを用いる。
器の収納ともなるとかなりの重量になるためである。

こうした框組構造でのチェストは自家薬籠中のもので、全てがスムースに運んだが、最後思わぬ伏兵に悩まされることになった。
ミズメチェスト2

塗装も終わり、スライドレールを取り付けて仕込もうとしたのだが、いくつかの抽斗がとても堅く入って行かない。スライドレールの嵌め合いがおかしい。
抽斗から金具を取り外し、単体でテストするも、同様にやはり堅い。

あらためてレールをつぶさに見るも、これといった変形があるわけでもなく、判然としないな不具合だった。

販売店に訊ねても、お前はクレーマーか、と言った雰囲気の応対で埒があかない。

何とか自力更生で行うしかないと、あらためて検証。
思わぬ事が原因だった。
Lotが異なることで、嵌め合いに違いがあったのだ。


駆体に取り付ける際、抽斗側レールを取りはずすわけだが、これは当然にも全て同一とばかり考えていて、抽斗側に取り付ける時もただ無意識に委細構わず取り付ける。嵌め合いなど無視して・・・。
同じ商品でこのようなことが起きるなどとは考えないからね。

記憶からは消え去っているのだが、在庫してあったこのレールは2度に分けて購入されたものなのだろう。
外形仕様は全く同一でありながら、嵌め合いの寸法をチェックすると、わずかに0.3〜0.5mmほどの違いがあった。

HÄFELEというメーカーのものだが、このメーカーは問屋みたいなもので、多くの金具メーカーのものを仕入れ、Hafeleブランドの刻印を打ち込み販売している。
このスライドレールも恐らくは異なるメーカーのものが混在しているのだろう。
メッキの仕上がり精度に明らかに違いが確認できたことも、これを裏付ける。

HÄFELEのスライドレールは信頼性も高く、比較的安価。
しかしこうしたLot違いによる嵌め合い問題があるようなので、注意を要する。

この後、暫く乾燥期間を経て納品となるが、この依頼者を満足させられるか。
依頼者の実家は家具販売店だったそうで、一般の客とは明らかに異なる審美眼を持ち、仕様にも、加工、仕上げ精度にも一家言を持つ。
しかし一昔ならともかくも、現在ミズメで500mm近い1枚板の甲板を含む良材で構成された上質なチェストを所有できるのは簡単ではないはず。
因みに裏板は、前回のキャビネットで紹介したものと同じく無垢板を嵌め込んだ框組で構成。

このチェストはキャビネットのように内部が見えてしまう訳ではないが、これ見よがしにやるわけではないので、良質な家具制作の証しのようなものか。

mizume_chest

ミズメチェスト

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  • ミズメ独特の美しさがありますね。
    樺類は赤身と白太がはっきりしていて使い方によっては
    違和感がありますが、この作品(この木?)はうまくまとまっているように見えます。
    大径木だからでしょうか?
    次の材料候補として少し探してみたいです。

  • acanthogobiusさん、ミズメという材種ですが、以前もお話ししましたように他の樺属のものが○△カバと称されるのに対し、固有の名称を持つわけですが、他のカバ類と較べ明らかに似て非なるものに思われてなりません。
    重厚緻密でその色調も濃厚。
    加工はやや難度も高くなりますが、その分仕上がりは他のカバと較べより高い美質を醸します。
    樺材の需給を考えますと、一般に流通しているのはいわゆる雑樺(ザツカバ)がほとんどで、本来の主たる材種である真樺(ウダイカバ)も入手困難になりつつあり、ミズメともなりますと今ではとても稀少材となっております。
    広葉樹に関わる仕事をされる方、あるいはacanthogobiusのように木工家具のハイアマチュアの方には、機会がありましたらぜひサンプルとしてでも手元に置かれることをお勧めしますよ。本来は北海道を除き広く分布している樹種ですので、広葉樹の専門業者に声を掛けておけば品質はともかくも入手できないことはないでしょう。
    小径木はどうしても白太が多くなりますので、できるだけ太いものを。
    500mmを超えるものはちょっと難しいと思いますけれど。

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