工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

iPhoneショット・美と食

昨日はこの日が最終日という美術館の企画展を2つはしごした。
まず開館時間に間に合うようにと急いだのが、静岡県立美術館。
6月中旬から開催されてきた「トリノ・エジプト展」

行かねばという意思は持っていたものの、日常の活動範囲の場所でもあり、いつでもいけるだろうという無計画さが、最終日まで繰り延ばすことになってしまった。
この報いか、朝早くから異様な混雑ぶりで驚く。
静岡県民がこれほどにも古代美術に関心が深いとは、ついぞ想定することさえしなかったボクが馬鹿だった(こういう場合はなぜか自分を埒外において考えるのが習わしだね 笑)

トリノ・エジプト

画像はファサードから正面入り口ドアをくぐった広いロビーを埋め尽くすチケット購入のためにとぐろ巻きに並ぶ観覧客の行列。
この美術館でこれほどの混雑ぶりは未体験ゾーン。
(公式Blogによればこの企画は美術館始まって以来、2番目の来場者数を数えたという)

しかし、そのコレクションの規模、品質、陳列様式、ほとんど全てにおいて期待を裏切らないもので、混雑を突いて出掛けた意味もあったようだ。

ボクは古代エジプト文明に関して、ここで触れるだけの見識は持たないので深くは記述しないが、B.C10世紀前後の文物、大型彫像、ミイラ、など、歴史教科書から学ぶテキストの何と薄っぺらさかと思わされるほどに、ビビットに往事の王宮芸術家の優れた造形感覚、高度な美意識に圧倒されてしまった。
それとやはりミイラに示される死生観、あるいは絶対王政社会への興味があらためてもたげてくるものだった。
陳列スタイルの斬新さということも、この企画展の大きな特徴と言えるようだ。
企画、運営関係者に感謝を !

(まぜっ返す積もりはないが、こうした古代遺跡の宝物への、本来の所有国からの返還要求はどうなっているのかな。昨今、何かと話題になるテーマだけれどね)

2つめは、登呂公園内にある芹沢美術館。
1つめが混雑したこともあり、予定時間を大きく超えてしまったので、昼食に。
今季、まだ行っていなかった「石橋のうなぎ」にした。

これまた大混雑。待ち時間40分を超えたかな。
でも、ここのウナギは待つだけの価値はある。
混雑していたことで、指定された席は小さな調理場に接するカウンター席。
ここのお品書きはアルコール、肝焼きくらいしかなく、うなぎのメニューはただ1つ。
要するにただ黙って座れば、やがて甘辛く香ばしい香りをたててやってくる。

待つ間、大将のウナギ庖丁による捌きを楽しむ。
千枚通し様の刃物をめんたまにグサリ。脇から包丁を入れると、一気にしっぽまで2枚開き。
内臓を取り除き、肝を取り分け、背骨を取り去る。この背骨は素揚げにする。
わずかに数分。これを次から次へと淡々と繰り返す。職人の人である。
大きな寸胴のステンレス容器にあふれんばかりに50本以上も納まったかと思われるところで、一休止。
包丁、まな板などを亀の甲たわしでごしごし水洗い。

ここでは蒸すことはしない。一気に焼き上げる。焼きは夫人が担当。
石橋のうなぎ
黒織部の角皿からはみ出し、折り込まれ、お頭が付いたままの黒光りした長焼きのウナギが運ばれてくる。
漆の丸型メンパ(曲げわっぱ)のご飯。肝吸、香の物、
甘からず辛からず、ふくよかに焼き上げられた格別のウナギ。満足 !

最後は芹沢美術館。
もうお腹いっぱいで、この記述もどうでも良いようになってきちゃった。
芹沢美術館
ここでは最終日とは言っても、静かに、静かに佇んでいて、ゆっくりと芹沢ワールドに浸ることができた。
企画の「ぬくもりのあるかたち ─ 芹沢けい介が選んだ木工 ─」ということで、大小様々な民芸風の木工コレクションが展示されている。

多くのものは、何度か同会場で観た既視感のあるものだったが、欧州、アフリカ、南アジア、朝鮮半島などから収集された木工品は、農夫が自家用のものとして作られたと思われる下手物(柳宗悦による民藝の定義の1つ)から、かなり洗練されているオーストリアのペザントチェアまで様々だったが、使いこまれたことによる人の生活の痕跡が感じられたり、それぞれの生活の背景にある風土、あるいは宗教、呪術的被支配などを基軸とする精神世界の多様さも伺える品々であり、楽しむことができた。

しかし芹沢のコレクションは良いよね。素晴らしいと思う。
元々鑑識眼の鋭い人であることは疑いないが、柳宗悦との交流も大きかったのだろうな。
1つ残念なことを。

キャプションが不十分なものがいくつもあったこと。
年代、地域などが不詳のままであったことを指すが、彼自身が記録していなかったことからのもので、美術館側にその責任があるわけではない。
そもそも、こうした公開を前提としたコレクションではなく、自身が楽しむという発想からだろう。
でも素晴らしいよね。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • エジプト展、最後に落ちがついてしまったようですね。
    しかし、artisanさんが色々吸収した物がどう咀嚼されて
    やがて作品となって表現されて来るのか興味がありますね。
    鰻、蒸さないということは関西風でしょうか?
    やはり腹開きですか?

  • acanthogobiusさん、残念なことに撤去作業中の日通美術品支店の作業員がリフターで吊り上げた「オシリス神をかたどった王の巨像頭部」を落下、破損させてしまったようです。
    美術館の1Fのメインロビーにこの1点だけ、まさに代表作として展示されていたものでした。
    詳細は不明ですが、オペレーターの操作ミスでバランス崩したのでしょうか。
    プロ中のプロ、日通美術品支店スタッフのはずですが。
    石橋のウナギ、蒸さないというのは仰るように関西風ですね。したがってまた腹開きでもあります。パリッとした皮と、柔らかくふっくらとした一本焼き、ぜひ一度ご賞味あれ。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.