工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“手作り家具”と機械設備(その5)

木材加工機械をどこまで導入すれば良いのか(その3)
これまで整備した方が良いだろうと考えられる機械をリストしてきたが、ここであらためて整理してみる。

必須の基本セット

  • 〈丸鋸傾斜盤〉
  • 〈手押し鉋盤〉
  • 〈自動一面鉋盤〉
  • 〈角鑿盤〉

導入を検討した方が良いと考えられる機械

  • 〈ヘビーデューティールーターマシーン(ピンルーター)〉
  • 〈縦軸面取り盤(SHAPER)〉
  • 〈ストロークサンダー(2点、あるいは3点ベルトサンダー)〉
  • 〈ホゾ取り盤〉

基本セットについては概説してきたところだが、次のお奨めしたい方についてもこの後、概説したいと思う。
ただその前に何故かリストされていない機械にお気づきの人もいると思われるのであらかじめそれらの機械について少し触れておきたい。

  • 〈帯ノコ盤〉
  • 〈テーブル移動横切り丸鋸盤〉
  • 〈糸ノコ盤〉

などについて。

まずは〈帯ノコ〉からいこう。


これも可能であれば設備しておくのが望ましい。

電動工具でもジグソーというものがあり、これが帯ノコの機能の一部分を代替させることができるものの、昇降盤では手に余る板幅の挽き割りなどはジグソーなどでは無理であり、帯ノコならではの機能となる。

帯ノコの能力は様々だが、挽き割り性能としてはうちで使っている小さな帯ノコ(日立75F)でも305mmまではいける。
また刳り型切削、正円切削など、いずれにおいてもジグソーよりも切削性能は高く、また安全で使い勝手も良い。ジグソーのメリットは、帯ノコ定盤に載せることのできない大きな被加工材の場合、あるいは板の途中から切り込みさせるといった特殊なケースなどであろうか。
こうした帯ノコが有する能力からすれば、あればとても有用な機械であるので、必須の機械セットに次いでリストすべきものかもしれない。

次に〈テーブル移動横切り丸鋸盤〉。
この機械も工場床面積によほどの余裕が無いところを除き、比較的普及している機械だろうと思われる。確かに安全で便利な機械だ。
ただこの便利な機械、という評価については注意が必要かも知れない。

またいくつかの理由において決して必須の機械というものではない。
このことについては既に昨年11/21のエントリ(「テーブル移動横切り丸鋸盤は無用?」)で言及しておいた。
したがってここでは簡単に整理するに止めよう。

うちにやってくるアシスタント希望の若者に簡単な実技、框モノ制作の課題を与えた場合、このうち胴付き加工などをこの横切りで行う人がいることに驚くことがある。
尋ねてみるとどうも訓練校の教官によってはそうした指導がされているところもあるらしい。
さてその後、この若者を採用し、横切りに替えて然るべく丸鋸傾斜盤で胴付き作業をやらせるようになると、見違えるほどに加工精度があがり、生産性も飛躍的に向上するという経験をすることで、それまでの機械選択についての誤りに気付くということになる。

〈テーブル移動横切り丸鋸盤〉は長さを切る、パネルを切る、傾斜でカットする、などといった“丈決め”に特化すべき機械(手元にある訓練校で使用するテキストにもそのような記載があるが)であり、そうした工程においては高精度の切削が可能であり良い機械だ。
しかしほぞを付けるなどの様々な複雑な切削加工は〈丸鋸昇降盤〉の方が圧倒的に作業性は良く、高精度で高い生産性が得られる。

いかにレールの上をスムースに摺動するとはいえ、わざわざ100kgを越えるような移動定盤を使ってのっそりのっそり鈍重に切削加工をやるのと、数Kgの三日月定規(Mighter gauge)ですいすいと行うとでは、その軽快さには雲泥の差がある。

あるいはまた機械の構造上の問題(レールの位置)から作業者の姿勢との関係において細かな切削作業には向かないということも無視できない問題である。

なお11/21記事では触れなかったことだが。
複数人の職人がいる工場では一般に丸鋸昇降盤は各人に与えられ、一方〈テーブル移動横切り丸鋸盤〉は工場に1台だけ設置、というところが多いようだ。
いちいち細かな加工工程に〈テーブル移動横切り丸鋸盤〉を一人の職人が占領するというのはこうした設備環境ではあまりにも非合理的、ということになる。

エクステンションテーブルソーなお〈テーブル移動横切り丸鋸盤〉に替え、海外の木工関連雑誌などでよく見かける、丸鋸昇降盤に合板などで延長定盤を付加させたり、あるいはまたフェンス固定定規の延長バーを設けるなどで、横切りと同様の機能を持たせるようにして活用している職人も多いはず。

事例:画像は小型のテーブルソー(丸鋸昇降盤)にエクステンションテーブルを巡らせたもの。フェンスのスライドレールも延長させる(Taunton『Workshop Book』より)

この機械は設置面積も大きいものだし、J・クレノフからの警句(11/21記事)を待つまでもなく、工房スタイルでは決して必須の機械セットというものではないようだ。
むしろ上述したように機械使用の選択における誤りを呼ぶということでは、その使用方法において注意を要する機械ということにもなるだろう。

これに替えぜひ大いに〈丸鋸昇降盤〉を活用させ、使い倒していこう。
汎用機械というものは多目的に用いることができるということにおいて有用であるが、その選択においては高い精度、高い生産性、高い安全性、高い作業性を確保するための視点が必要。経験知と頭脳を柔軟に働かせ、快適な木工環境を楽しみたいものだ。

糸ノコ盤
木工加工において糸ノコ盤はどのようなケースで活躍するのか。
まずは刳り型を作る上においては必須の機械だ。もちろん糸ノコという旧来の手鋸があるので、これで代替させることができるが、やはり切削能力においてその差は圧倒的。
象嵌などの切削加工においては傾斜させて切らなければならず、こうした求められる機能からしても機械の方が向いているのは明らか。
また型板を作るのにも便利な機械だ。
性能は懐の深いものが高いのは言うまでもない。
また木製の旧いタイプを見かけることもあるが、プロはむしろこちらのタイプを愛用する職人も多い。

うちでは750mm懐の国産メーカー(旭工機)のものを設備している。
主に刳り型の倣い型板作成、あるいは透かし引き抜きなどに用いている。
比較的設置面積も少なくて済むので、導入できれば良いだろう。
鋸刃は2種類も用意すれば良いだろう。
・18山 あさり付き:型板合板など、その後鉋などでの仕上げの前段階での荒い切削
・24山 あさり付き:仕上げ用

次はお奨めしたい機械についての概説だが、その前に脱線序でに機械のセッティングの問題について触れていきたいと思う。
長くなったので次回に。

hr

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