工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

FIFA 女子ワールドカップ 日本初優勝の背景で(追記あり)

世界を驚かせた日本女子サッカー

FIFA Women’s World Cup 2011 決勝戦、劣勢を跳ね返し、何度も追いつき、ついにPK戦まで持ち込んだ結果、初優勝を飾った日本チーム。本当におめでとう !

今大会、決勝リーグ以降はビデオ録画観戦で楽しませてもらったが、この決勝戦は、後半5時頃からLIVE観戦。ハラハラドキドキの1.5時間。
最後は各選手の笑顔での泣きじゃくりに、こちらももらい泣き。

恐らくはスポーツ専門のオッズ、あるいは巷間でも日本チームがこれほどの戦いぶりを見せてもらえるとは考えていなかったはず。
ボク自身、この女子サッカーには男子サッカーほどの関心も無く、日本代表チームがFIFAランキング4位と言われてもピント来なかったし、男子サッカー、世界戦レベルにおける血湧き肉躍る戦いほどの魅力を感じることも無かろうと考えていた節がある。

しかし決勝リーグで見せられる各国代表チームの技術、あるいはスピード、チームワーク、いずれもとても魅力ある、見るに値するスポーツとして繰り広げられていくのに驚き、目を見張ったものだ。

ブラジル、MARTA選手の個人技、そしてUSA Abby WAMBACH選手の豪快なシュートなどに代表されるパフォーマンスはボクの女子サッカーへの偏見を木っ葉みじんに打ち破る魅惑的なものだった。

もちろん日本チームも下馬評をことごとく覆す活躍ぶりで、勝ち上がるごとにパフォーマンスにも磨きが掛かり、強豪勢を前に一歩も引かず、守りに守り抜き、パスを繋ぎ、チームプレーに徹し、結果、多くは無い好機をみごとに得点へと繋ぐ力量を発揮してくれた。


SAY NO TO RACISM

ところでこのFIFA Women’s World Cup 2011準決勝、日本 vs スウェーデン、フランス vs アメリカ の2つの試合前、ちょっとしたセレモニーがあったのだが、覚えていらっしゃるだろうか。

〈SAY NO TO RACISM〉と大書された横断幕を前にして、両チームのキャプテンが反差別のメッセージを読み上げた。
これはFIFA主催による大会の準決勝の2試合におけるお約束のセレモニーだが、キャプテン澤選手により以下のようなメッセージが読み上げられた(「My Place」さんのBlogから引用させていただきます)

日本代表チームは、人種・性別・種族的出身・宗教・性的趣向・もしくはその他のいかなる理由による差別も認めないことを宣言します。私たちは、サッカーの力をつかってスポーツからそして社会の他の人々から人種や女性への差別を撲滅することができます。この目標に向かって突き進むことを誓い、そして皆様も私たちと共に差別と戦ってくださることをお願いいたします。

彼女自身がどのような思いと感慨を持ってメッセージを発したかは、メディアからの関連する膨大な情報量からも残念ながら掬い取ることは叶わなかった。
しかし、ボクの女子サッカーへの関心の薄さはともかくも、日本サッカー協会での女子サッカーの強化態勢、支援態勢は歴史的にも、今日的にも、男子サッカーのそれと較べると、その差は歴然としていて、サッカーに打ち込むだけの環境に乏しいというのが実態であるようだ。

例えば、その待遇を見てみよう。
澤選手のようなごく一部の一流選手でも年俸300万円程度(毎日.jp

サッカー協会からの報奨金は、W杯で男子は優勝3500万円、女子150万円‥‥
勝利ボーナスも、男子は南アW杯で1勝当たり200万円が支給されたが、女子の場合は「勝利ボーナスは10万円しか出ない」(ゲンダイネット

さらに女子サッカーの普及の度合いを見れば、例えばFIFAランキング1位のアメリカの競技人口167万人と較べると、日本はわずかに4.6万人と言う(supportista)数字にも、その環境の差が見て取れる。
これが日本サッカー協会、ひいては日本社会の女子サッカーをめぐる眼差しと処遇の表象と言ってしまうのは果たして不当なことだろうか。
(米国においては、現在ではこうした性差はほとんど無くなっていると言われる)

澤選手の「SAY NO TO RACISM」というメッセージが、彼女自身の思いを超えたところで、こうした日本サッカー協会、あるは日本社会の女子サッカーをめぐる現状を突くものとなってしまっているのは、実に皮肉なことではある。

なお、FIFAが〈SAY NO TO RACISM〉と毎回強いメッセージを掲げるのは、言うまでも無くサッカー界における絶えない人種差別を対象とするものであることは、FIFA W杯 2006 決勝戦でのジダン選手の頭突き事件などで露わになったことでも知られているが、今回のFIFA Women’s World Cup 2011で、こうした人種差別のようなものが指摘されるようなことがあったのかは寡聞にして分からなかった。

“12人目の選手”


この横断幕の方はTVでも取り上げられていたようなので知っていらっしゃる方も多いはず。
言うまでも無く、日本女子サッカーへの支援、応援というものが、3.11東日本大震災への世界からの支援と絡み合い、力を与えてくれたことへの、世界へ向けての返礼であり、この振る舞いはとても良いパフォーマンスであったように思う(この画像は優勝セレモニーの時のもの)。

意外とこのあたりのことは〈SAY NO TO RACISM〉メッセージ同様、本国日本のメディアは触れない傾向があるようだが、WSJ紙(なでしこジャパンW杯優勝、米国に粘り勝った背景に“12人目の選手”)は、決勝に勝ったのは“12人目の選手”、つまり「日本には『念願と希望』という強力な”12人目”のプレーヤーがいた」として米国 Abby WAMBACH選手の談話とともに記事にしている。

いわばFIFAランキング1位、当然優勝候補No.1の米本国のメディアであれば、相手チームから実力以上の第3のファクターをどこかに見いだそうとするモメントによる記事構成であることは明らかだが、しかしそれを差し引いたとしても、東日本大震災への米国などの眼差しの強さというものを再確認させられる。

もちろん、スポーツの勝負というものは、様々なファクターが交錯し、また結節点では偶然の要素も加味されるかもしれない。
そうした文脈からすれば、WSJの言わんとすることも、理解できないことではない。
しかし、あくまでも勝負は勝負であり、戦い終えた今、勝者こそがやはり強かったのだと一点の曇りも無く評価したいと思う。

性差を超え、サッカーというもののすばらしさ、世界的規模での大会の魅力というものを存分に堪能させてくれ、こうして最後まで引き連れてきてくれた日本チームに深い敬意を表し、また感謝をしたいと思う。
本当におめでとうございました。

なお2枚の画像はFIFA公式サイトから使わせてもらいました。感謝 !!

サッカーボール1

■ FIFA公式サイト:http://www.fifa.com/index.html
 そのコンテンツは戦績だけではなく、選手インタビュー、試合経過、ビデオ、写真などとても豊富に収められている。


追記:FIFA Women’s World Cup Semi-final Japan-Sweden冒頭部分

YouTubeに〈SAY NO TO RACISM〉宣言を読み上がる澤キャプテンのシーンがありますので貼り付けます。(2011.07.20)
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=ApDRke4pe7M[/youtube]

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