工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

時にはDomino活用で

Domino1
(画像はいずれもクリック拡大)

家具職人によるホゾ穴の穿孔は「角ノミ機」で行うのが一般的だ。
ほとんどすべてのホゾ穴はこの機械が比較的高精度に開けてくれるが、残念ながらこの機械が使えないこともある。
角ノミ機の定盤に載せられないほどの巨大な被加工物などだね。

ただ載せられないとは言っても、被加工物を定盤フェンスに固定するための押さえ部を除く定盤の幅に納まらなくとも、これを取り去ればかなり広くなるし、さらには左右移動のハンドルを取り去れば理論的には無制限な広さのものがセットできるだろう。

しかし問題はいかに広い被加工物をセットできるとしても、穿孔位置には制約がある。その機械の懐には構造的な制約があるからだね。
そもそもこの「角ノミ機」という機械は建具屋向けに開発製造されてもののようで、家具産地・静岡のようにフラッシュ構造を基本とする地域では、框ものの加工を必須のものとしないという傾向があり、この機械の需要は多くはなく、したがって中古機械市場にもあまり流通していない。
つまり定盤の広さ、およびふところの広さは建具屋が必要とする程度の框加工の要請に応えるだけで十分というわけだね。

それを超える位置に穿孔したい場合はどうするか。
→ 手ノミで開ければ良いというのが最善の解。
それが結論ではこの記事はこれ以上進まない。

さて、ある工場では、海外で流通している卓上型の小型角ノミ機を用い、これをコの字型の鉄骨アングルで深い懐で使えるものを機械製作して活用しているところを見たことがある。
溶接機があれば自作することも可能だろうね。
今日は、こうした分野において簡便な手法で威力を発揮するDominoのお話し。


Dominoチップ

うちでは死蔵しかけているDomino DF500 ではあるが、使い道が無いわけではないね。
角ノミが使えないところには、大いに有用。

無論、同様にハンドルーターで穿孔することもできるわけだが、この場合ホゾ穴切削には高速回転させながら一定の距離を移動するということになる。
位置決めなどのセッティングが大変だ。
対しDominoの方はマシンを固定させたまま、3種の長さのホゾ穴を開けることが可能であり、作業性ははるかに良く、高精度でもあり、当然安全性も高い。

※ 3種の長さ  (下図参照)
A:standard position:13mm + カッター径(4、5、8、10mm)
B:middle position :19mm + カッター径
C:widest position :23mm + カッター径

Domino_tennon

Domino2

Domino3
今回はキャビネットの抽斗束のホゾ穴穿孔に使ったが、具体的には次のようなイメージ。

  1. 奥行きの位置決めのための一定幅のフェンスを用意
    (Top画像:今回のように2枚ホゾでは、その間隔のスペーサーとなる補助フェンスを用意)
  2. 左右の位置決めは墨付けだけで十分(ホゾ中央部に1本の墨線)
  3. 後はDominoをフェンスにあてがい、墨線をマシン本体の中央部刻みに合わせ、SW ON !
  4. その後、画像のように、半円の箇所を手のみにてホゾ幅墨線に合わせて補正する。(画像中)
    (今回はDominoチップは使わず、通常のように木取りしたものをホゾ加工した)

なお、今回は鍵のラッチ受けのホールも、このDomino にて穿孔。(画像下)
いずれもセッティングも簡便かつ高精度にできるし、加工作業性もとても良い。
また何よりFestool社の秀逸なツールを使うことの快適さは木工の喜びの1つでもあろう。

Dominoチップ

ところで、Dominoは昨秋4mm厚のチップも新規導入されている。
加工領域も広がったということになる。

なお、たまたまWoodcraftサイトへ行くと、このDominoチップ、Festool社の純正のものとは異なり、数種の異種材のチップが供給されていた。
MapleCherryWalnut、である。Festool社のBeechSipoあまり聞かない樹種だが、サペリの代用。センダン科、アフリカ材)と併せて5種ということになるが、果たして、この用途は?(文字色を樹種ごとに材色に合わせてみた積もり (^^)

※ 下図はDominoチップの材種(カラー イメージ)
Dominoチップ
同様にこのWoodcraftサイトでは、以下の3種の超硬スパイラルルーター刃も用意されているので、このDominoチップの活用領域も広がるだろう。(こちらから)
■ 8mm、   1″L、1/2 “Shank
■ 10mm、1-1/8″ L、1/2″ Shank
■ 5mm、  5/8″ L、1/4” Shank

明日から数日は雨の予報。またまた板の仕事はお預けだわ。
Festool USA

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 確か、ジェームズクレノフの作品の中に丸ホゾ
    の通しホゾがあったような気がします。
    ホゾ先を丸めてありました。
    意匠的にはおもしろい形ですよね。
    ドミノで通しホゾを作ると、どうなるでしょう。
    機会があったら試してみましょう。
    Woodcraft製のドミノチップは、あまり評判が
    良くないですね。
    精度にバラツキがあるようです。
    私が知っているのは、一人の評価だけですが。

  • acanthogobiusさん、さすがに情報が早いですね(Woodcraft製のドミノチップ)。
    丸ホゾ(いわゆる長円のホゾのことですよね)は海外の木工では主流かも知れません。
    なぜならば、角ホゾの文化があまりないからですね。
    ホリゾンタルボーリングマシン(HORIZONTAL MORTISER)などでのMortise & Tenon Joineryというわけです。
    5種の材種が揃いましたので、
    >ドミノで通しホゾを作る
    の誘惑にも駆られますが、やはりちょっと邪道ではありますのでね。
    でもそれを承知で意匠的に使うのはおもしろいかもしれません。
    なお通しホゾの意匠は様々ですが、旭川の大門 厳さんのものはユニークでクールです。
    (ネット上には無いと思われるので機会があれば是非に)

    • ”丸ホゾ(いわゆる長円のホゾのことですよね)は海外の木工では主流かも知れません。
      なぜならば、角ホゾの文化があまりないからですね”
      …って本当ですか?
      角のみの付いたモーティサーって英国の発明品と聞いていますが。ラウターにせよ日本オリジンではありません。ラウターで切って両端が丸くなったほぞにフローティングテノンとかって言うのは角のみモーティスの簡易化したものと見るほうが穏当だと思います。ホリゾンタルボーリングマシーンは勿論テーブルを横にスライドさせて幅広く穴を開けられますが元々はドウェルのための穿孔具。だから二軸とか三軸とか、さらにコマーシャル用の多孔のものまであります。

  • shikyoさん、ようこそ、はじめまして。

    木工の基本的な仕口である“ホゾ”ですが、これは歴史を遡れば有史以来とでも言える旧いもので、国内の遺跡からもそれが伺えます。
    つまりホゾという木工の技術的ルーツがどこにあるのかはとても難しい議論のようです。

    またご指摘のホゾの機械化、「角のみの付いたモーティサー」は英国での発明というのは、恐らくはその通りで、日本の角ノミ機も明治、大正時代あたりに輸入されたものを原初とするのも確かなところだと思われます。

    ただ現在では、家具製造が大量生産方式というスタイルを歴史的にはさんできたため、角ノミ機では無く、より生産性の高いホリゾンタルボーリングマシーンの進化形である長円ホゾが作れるマシンに依存しているというのが実態なのだろうと思われます。

    そうした歴史的、環境的背景を有するため、欧米の工房スタイルの木工においては「ホゾ」を作る角ノミ機はあまり使われず、ダボであったり、[Horizontal Mortiser]を駆使した長円ホゾが一般的になっていると考えられます。

    そうした背景を持つがゆえに、このDOMINOというマシンが開発され、また[Horizontal Mortiser]まで設置しなくとも、簡易にこれに取って代わるものとして高い評価を受けているものと考えられます。

  • どなのかな、既製品つまりは工場生産されたものでは長円ホゾも見かけないようにも思えます。CNCラウターで切り抜いてドウェルの穴もCNCラウターで一緒にというのがパターンかと思います。前に一度ドウェルって何時ごろからと思って調べてみたのですが分かりませんでした。私のところに100年くらいと言われてるオークのダイニングテーブルに椅子が有るんですが、ドウェルで接いであります。がっかりするやら腹立たしいやらだったんですが、考えてみると100年もってまだしっかりしてるんですから、それはそれで良いのでしょう。ラウターで切ったモーティスって言うのは角のみモーティサーから移行したのではなくて手で鑿を使ってきってたのからだと思います。アマチュア用のモーティサーって私が始めた40年前には無かった機械です。
    ホリゾンタルボーリングマシンーというのは至極アメリカ的なものだと思います。クレノフが多用していますでしょ。隣国のカナダ、私はバンクーバーに居るんですが、此処では購入できません。もともとは小規模にドウェル用の穴を開けてたのに、きっちり穴同士を合わせるのが難しくて、それで長円に切ったのじゃあないかと私は思ってます。CNCの前にはドウェル専用の機械があって板の幅いっぱいの穴を一度に開けてたようです。ドウェルカッターとかって時々売りに出ています。ここにクレノフ協賛の学校でInside Passage Woodworking Schollだったかな、ってところがあるんですが、生徒20人くらいしか採らないようなところなのにホリゾンタルボーリングマシンーばっかり五台くらいあります。ほかの機械は一台とか二台とかなのにですよ。
    私は持ってないのですがドミノこの頃一寸人気薄なんですよ。意地悪に言ってるのではなくて、フォーラムを読むと買わなくて良かった、買わなければ良かったツールにあげられることがままあります。理由は一寸正確さにかけるとかドミノの木片の値段とかサイズとかですが、なんにでも文句がある人が居る…だけでもないようです。
    ラウターを使ういろいろなジグも多数ありますがいったいどれが良いのやら?私はモーティサーを使ってテノンをテーブルソーで切っています。

    • さて、再度いろいろといただきましたが、どのようなレスが良いのやら、少し迷います。
      お話しが拡散しているご様子ですので、論点を絞っていただくとより有用かも知れません。

      ▼家具制作における仕口全般の議論
      ▼日本と欧米における仕口の比較文化論
      ▼DOMINOという工具の評価

      ところで〈Inside Passage School of Fine Woodworking〉のお話しは興味深く伺いました。
      J・クレノフの強い影響下にあるスクールですので、ホリゾンタルボーリングマシンが多用されているのが良く理解できます。

      本稿のテーマであるDOMINOへの評価があまり芳しく無いというお話しも理解できないわけではありません。
      以下、本件記事に即して考えて見ます。

      つまり、ホリゾンタルボーリングマシン、あるいはホリゾンタルモーティサーと較べれば、DOMINOは切削精度の信頼性、位置設定の精度の問題等、いくらでも問題を挙げることが可能です。
      それは所詮手持ちのポータブル工具という、機械とは明確に異なる次元の限界からくるものでしょう。

      ただしかし、ポータブルツールという簡易性の次元において、新奇性を持ち、ここまで作り込んだマシンは、そのイノベーションとしての意味合いも含め、私は高く評価しています。(例えばこちら、とかこちらなど)
      つまり落胆された方は、そうした機能性と一方の限界性との冷静な評価が事前に十分でなかったことからのものと考えられますね。

      機械とはその設計開発意図を正しく理解し、自身の制作環境において適切に使いこなすことではじめてその威力を発揮してくれるものと考えますが如何でしょう。

      なおこの記述は無用かと思いますが、木工における仕口において、日本では古来からホゾが一般的に用いられ、現在でも角ノミと丸鋸昇降盤、あるいは手ノミ、手鋸で使われており、私の制作環境もこれが全ての基本です。
      しょせんDowel(ダボ)は量産もの、椅子制作などに用いる補助的なもの、というのが国内における無垢の家具制作における一般的な考え方です。
      DOMINOは、そうした環境に突然現れた新兵器であったわけですが、本件記事のような場合に補助的に使えるとても有用なツールだと考えています。

  • 昨日書き込んでから悠々さんの写真をみました。ドミノの機械を穴を開けるだけに使ってテノンは普通に切ってるんですね。私もそれは凄く有効的な使い方だと思います。ドミノに批判的な連中は従来からの方法に比べて十分な強度が得られないことを指摘しています。ドウェルに比べても弱いそうですが、ドウェルって私みたいなアマチュアには一番難易度がたかいかと思います。それがつまりドミノが人気を得た理由かと思います。
    話が再現なくそれてしまいましてすみませんが
    ”角ホゾの文化があまりないからですね”
    ってことはハンドビルド家具ではこちらでもないかと思います。

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