工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

これは何? (Domino活用)

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Dominoは半ば死蔵状態に置かれてしまっている。
丸鋸昇降盤+角ノミ盤で高精度、スピーディーに枘を作る態勢にあれば、通常ではあえてDominoの登場を待たなくとも良いからね。
しかし何とか活用の場面を作らねばということで、Top画像のようなもので使うことにした。
何だろうね、これは。


座卓(例えば、これ)の「送り寄せ蟻吸い付き桟」。
この蟻のオス部分を別の材から取り、枘で埋め込もうというもの。
なぜこのようなことをするかと言えば、天板に対して、この「送り寄せ蟻吸い付き桟」が直角ではなく、傾斜しているということが1つ。
また、板脚の木口方向にこの蟻を付けるという、少しイレギュラーな方法のためである。
無論、少し難易度の高いこうした加工はいつもは喜々としてやってしまうのだが、Dominoを使った場合、どの程度、作業性での改善が図れるかという関心が今回のDomino依存となった次第。
少し具体的に解説すれば、蟻のブロックを別材で作り、これを板脚の傾斜した木口面に枘で埋め込むのだが、この2枚枘の枘穴をDominoで開けてしまおうということだ。
木口に枘穴を開けるというのは、他の機材ではとても困難なことになる。
しかしこのDominoをもってすれば、如何に傾斜角を持っているものであれ、いとも簡単に穿つことができる。
ただやはり2枚枘の寸法精度をしっかりと確保することが肝要であることは言うまでもない。
この枘による蟻桟は、2枚枘であってはじめて有効となる。
1枚では恐らくは絶対的にムリ。吸い付き桟という過酷な接合を確保するためにはとても出来ない相談だ。
計測したわけでもないので単なる推測でしかないが、1枚のものと比較して、2枚の枘のものは2倍以上、3〜5倍ほどのの保持力を持つと考えたいがどうであろうか。
Dominoのフェンスの機構は、被加工材の厚みの中心部に穴を開けることを前提として、数種のステップで保持されるものとなっているが、今回のような場合には実測によって位置決めしなければならない。
Dominoによる枘の深さも28mmまで対応するので、通常ではまず十分だろう。
1つ問題点を挙げれば、Dominoの枘穴は端末が半円になっているので、Dominoダボを使うのでない今回のような場合では、これに対応させるための枘部分の切削が必要だ。(ノミ、ヤスリで大まかにやっても構わないだろう)
さて、Domino+2枚枘による蟻桟加工は実際どの程度の作業性改善に繋がったかは、微妙なところかもしれないね。
しかし傾斜させての蟻残加工は高精度の軸傾斜昇降盤が無いと難しいので、これを補う意味においてDomino2枚枘蟻残は有効と言えるだろう。
Domino+
*追記(07/20)
扱うテーマが技法に関わるものにしてはやや不十分な解説であったようで、分かりにくかったかも知れません。
あらためて別の画像を添えて、解説を補います。
蟻桟・脚部は6度の傾斜を持たせ、ハの字に転んでいます。
・天板への送り寄せ蟻溝は通常行うようなものと同じです。ただDominoの刃の振れ幅には限界がありますので(8mmカッターの場合31mm)、それに適合させる割り付けが必要です。
・送り寄せ蟻部は木口を上下にくるような方向で、枘長を含め合わせた幅で、必要とされる長さ分を加工します。
・その後2枚枘の加工、および前後に胴付きを持たせるための肩を付けます。
・板脚には6度の傾斜が付いた木口に対し垂直にDominoで2枚の枘穴を開けます。
 (DominoにはLamello同様、任意の傾斜ができるフェンスが付いています)
・蟻ブロックの2枚枘をDominoホールに合わせ丸くします。
・この蟻ブロックをタイトボンドなど、接着強度が高いボンドを使い打ち込みます。 以上。

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  • こんばんは、松本と申します。
    転んだ時のホゾの作り方に興味があるので教えて下さい。
    一番上の写真の部品は、脚の木口に空けたホゾ穴に差し込むための蟻桟ですよね?この部品の作りが判らないのですが、全てが一体物になっているのでしょうか?それとも、3つの部品から成りそれを接着しているのでしょうか?
    脚の木口面は、天板の面と同じ(平行)ですよね?
    それと、脚は外に転んでいますが、脚の木口の2枚ホゾ穴の角度は、木口面に対して90度でしょうか?それとも、脚の傾きに合わせてその傾きと平行なのでしょうか?
    変な質問ですみません。

  • 松本さん、こんにちは。
    興味を持っていただき感謝です。
    疑問に応えるようにあらためて本文に追記しましたので、ご参照下さい。
    なお、蟻ブロックですが、もちろん一体成形です。
    それでないと持ちませんね。因みにこの座卓はミズナラですが、蟻ブロックはミズメの柾目を使いました。靱性、堅牢度からの選択です。
    ただ、今回の場合、板脚が60mm弱、さらには断面が片側を円弧状にしているために、蟻ブロックを大きくすることが出来ず、2枚ホゾの割り付けも8+6+8mmというものになりました。
    しかし蟻残としての強度、および板脚への接合度は問題ないでしょう。
    この2枚ホゾの蟻ブロックによる送り寄せ蟻、という手法は、公式には紹介されることはほとんど無いようです。密かに伝えられている技法の1つかも知れませんね。
    ボクも通常ではほとんどしませんが、今回の傾斜ということと、Domino活用という動機からの決断です。
    機会がありましたらぜひ試みてください。

  • 早速の詳細な説明ありがとうございました。
    最後の写真の一列に綺麗に並んだ蟻桟を見ると、作られた加工精度が大体想像できます。私はまだ趣味のレベルですので、いつかはこの仕口ができるよう勉強します。

  • 松本さん、この加工はさほど難易度の高いものではありません。
    柔軟な頭脳と、丁寧な加工手法を持ってすれば、どなたでもできちゃいます。

  • お邪魔します。
    すみません、また二つほど質問させて下さい。
    1.今回はドミノを使われましたが、ドミノを使わず一体構造の脚の場合の天板と接する胴付き部分の6度傾いた加工はどのようにされるんでしょうか?
    私が考えつくのは、昇降盤を6度傾斜させ、胴付きの片側半分を昇降盤の左側で切り、次に脚を裏返し、今度は昇降盤の右側で切る、位です。
    2.今回は座卓なので荷重はあまり掛からないので関係ありませんが、例えば同じ構造の椅子の座板と脚の場合(例えです)、脚がこのように転んでいる場合を考えると、今回の様に6度傾いた面に90度の蟻ホゾを作る(つまり、蟻溝は天板に垂直の穴)場合と、ホゾ側を真っ直ぐにして蟻溝側を6度傾斜させて掘る場合が考えられますが、どちらの方が強度的、耐久的に良いのでしょうか?

  • 松本さんの疑問にお答えします。
    傾斜のある送り寄せ蟻の胴付き部位の切削は、松本さんの考えで良いと思います。
    蟻の切削の方では、刃物、定盤の関係はあくまでも直角の場合同様にセットし、被加工材は木口切断面を定盤に接地させますが、当然にも板脚全体は今回の場合では6度の傾斜を持たせることになります。
    慣れれば特段ジグを使わなくとも加工精度を確保しつつ切削できるものですが、必要とあれば傾斜ジグを用いれば良いでしょう。
    2番目の質問ですが、どちらが強度的に優れているかと申せば、傾斜角によっては繊維方向での目切れの懸念があるとすれば、ホゾ側を真っ直ぐに、ということのなるかもしれませんが、6度ぐらいであれば、さほどの目切れの不安は無いと思われますので、オスメス、総合的な加工精度の確保、あるいは作業性からしますと、天板、蟻溝側はあくまでも垂直にするというのが基本的な考え方ということになるのではないですか。
    (ボクには蟻溝側に傾斜を付けるというのはようできません)
    話は変わりますが、椅子の台輪のホゾにおいても同様の問題が出てきますね。
    ボクはあくまでもホゾ穴は外形と平行に、ホゾの方を求められる角度に、というスタンダードな考え方でやりますが、人によってはホゾ穴の方に傾斜を付けるということもあるでしょう。

  • 変な質問に対して早速の丁寧なお答えありがとうございました。
    丁度椅子の座板への脚の直接のホゾや、artisanさんの書かれた椅子の台輪のホゾについてどうやろうか悩んでいたところなので、非常に参考になりました。具体的にはまだ漠然としていますが、その内一つづつクリヤして行きたいと思っています。

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