工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

手挽き鋸の研ぎ(目立て)講演に参加して

鋸
TOP画像は見ての通り、横挽きの手挽き鋸。
2種の目立ての違いは鮮明。
あなたの手挽き鋸はどっち?
恐らく上が99%ではないだろうか。
ところが伊豆で大工道具屋を営む長津勝一さんによれば、上の目立ては良い切れ味は出ない、下の目立てでなければならないと、日々実践し、今や欧州ドイツやチェコなどからも招聘され「長勝鋸研ぎ」の普及に奔走しているという。
(長津氏によれば“目立て”という呼称は誤りで、“研ぎ”と呼称しているので、以後、それに準ずる)
ボクたち木工家にとり、手挽き鋸(てびきのこ)の活用頻度はどの程度であろうか。
木工加工にとって必須の道具といえば、玄翁に、鉋に、鑿(ノミ)に、そして鋸 etc。
確かに鋸が無くては何もできはしない。木工道具において主要なものだ。
でも現在のボクたちの木工作業環境では、この木を切るという作業のほとんどは電動丸鋸、あるいは機械に装着した丸鋸に取って代わられているというのが実態だろう。
手挽き鋸の活用の場と言えば機械の丸鋸ではかなわない、指物的な精緻な仕口を作る場合であるとか、あるいは複雑な接合部にあって、一部の胴付きが阻害している場合に胴付き鋸を入れ、微調整する、あるいは打ち込んだダボを切る、などと言ったところだろうか。
基本的な、幅決めをする、枘を作るなどといった工程を手挽き鋸に委ねるということはほとんど無くなってきている。
だからと言うわけでもないのだろうが、一通りの手鋸は所有しているものの、その手入れは必ずしも行き届いていない。
しかも現在ではそのほとんどが替え刃式に代わってきているので、鋸の研ぎということも行われなくなってきている。
したがって、そうした時代的推移からすれば、これを専門とする職人たちも廃業し、地域で探すのも困難というのが実状だろう。
そうした手挽き鋸を取り巻く困難な環境の中、冒頭のようなユニークな鋸研ぎ(目立て)を実践する長津勝一氏の講演会があり、参加させていただいた。
「デザイン静岡」、「静岡産業振興協会」による企画である。


木口クリック拡大


会場には、長津氏による鋸研ぎのもの、全国各地域の目立て名人による鋸をはじめ、挽き回し鋸、突き回し鋸、竹切り鋸、各種胴付き鋸etc,様々な手挽き鋸が持ち込まれた。
まず簡単な自己紹介の後、自身の鋸研ぎがいかにユニークで、良く切れるのか、論理的な解説で聴衆を惹きつける。
ま、この段階では、半信半疑の面持ちの人が大半。
いろいろ後は何と言っても実践で確認するだけ。
会場には多くの若い大工が駆けつけていたが、如何にもオレはでえく、という強者(ツワモノ)が一丁やってやるかい、とばかりに様々な鋸を手にとって切れ味を確認する。
最初は緊張のためか判然としなかったようだが、何度も挽くうちにその違いは明らかになったようで、感嘆していた。
そのうち、我も我もと試みる。
ボクも後に続いたが、明らかにその挽き具合、切れ肌は違った。
画像の杉板のカット木口はボクが切ったものだが、左が長津氏の鋸研ぎによるもの。
木口であるにもかかわらず、その肌は驚くべきほどのもの。
しかも軽く切れる。言うところの甘切れだ。
会場では確認できないものの、長切れもするのだという。
まさに手挽き鋸が求める理想型がここにあるのではとさえ思えるほどのもの。
これはTop画像のようなユニークな鋸研ぎによるものだろうが、一般の目立てによるものはすくい角が鋭すぎ、引っ掛けるような形状であることが分かると思う。
太い釘が打ち込まれた杉材を手挽き鋸で切り落としたり、節の部分を切り込んだりと様々にパフォーマンスが繰りひろげられ、大いに盛り上がった講演だったが、あらためて日本の手挽き鋸の可能性と、鋸研ぎの重要性というものを思い知らされた。
本講演を企画されたデザイナー氷見さんに感謝を。
最下部の画像は長津氏による手挽き鋸の台の腰入れ作業(その結果も実践的に確認された)

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  • また近々手挽き鋸の研ぎ(目立て)講演
    は行われないですか
    予定があれば連絡お願いしたいです

  • 渡辺さん、長津勝一さんは各地(国境をまたいで)で講演、研修会を開催していますが、スケジュールは把握していません。
    顕名でメールアドレスをいただければ連絡先をお知らせします。

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