新工房 建具について(1)
昨年来、工房を新しく設備してきたのですが、家具制作を専らとする者としても、普段あまり経験することの無い建築施工の一部を担ったり、設備什器の多くを自身でセットするなど、楽しい思いをさせてもらいました。
これらの中から、木工に関わる個所などを数回にわたり紹介していきたいと思います。
建具、その1:居住スペース、玄関ドア
建具というジャンルは、建築エレメントにおいても、その住宅のイメージ、品格、デザイン嗜好を端的に表すものとして重要な要素になります。
その中でも玄関は外部に面することから重要な建具になりますが、実は未だに旧い既製のものが使われ、着工できていない状態。妻からもその制作を急がされているものの、優先順位は必ずしも上位ではなく、少し先になりそう。
ただ工房と居住スペースが一体の我工房、居住スペースへの玄関ドアだけは引越後(?!)に最優先で制作しました。(引越は昨年末でしたが、ドアが完成するまでの数週間は、仮の合板打ち付けという侘びしさではありました)
そのドアがこちら。建物駆体の2階部分を居住スペースと展示スペースで2分し、それぞれに建具を嵌めてあり、そのうちの居住スペース側の玄関です。
ドアの構成
構成はいわゆる親子ドア。
親子ドアとは、通常の使用環境とは別に、大きな荷物の搬入、搬出時に対応させるためのものであるわけです。
しかしうちの場合、2階への荷物のアプローチは家具の昇降用にと、簡便なリフターがあり、これを使い昇降させ、ショールームを抜けて居住スペースに搬入させることになるので不要とも言えるのですが、玄関としての品格をもたせる意味でも親子ドアで構成したというところです。
ドアの仕口
1.3寸ほどの見込の框組に、1寸ほどの厚みの無垢材を嵌め殺しされています。
ただ、この羽目板は通常の框内部に小穴(溝)へ収める方式では無く、厚みの1/3ほど外に出すという意匠を採用しました。親の方の羽目板は2枚で構成され、辺材どおし、不定型なエッジをそのまま活かし、合わせています。
その合わせも来訪者の確認のための覗き窓として使えるよう、一部、あえてスリットを設けています。
この隙間には透明のポリカーボネイトの板を嵌めています(ガラスは割るとやっかいですからね)
框の仕口ですが、一般的な面腰。ただ、上下の横框は120、160mmと幅広ですので、枘は2段、2列という構成です。
こうした仕口は建築建具の基本的な仕様ではありますね。
用いた材ですが、框をタモの柾、羽目板はミズナラです。
子のドアの羽目板は、あえて節の配列が面白い材を見つけ、これを用いました。
ドア中央部の貫は羽目板の反り止めとして機能させるべく、蟻䙁を通し吸着させています。
ハードウェア
なお、ハードウェアのハンドルですが、これは堀商店のものです。
ドアにおいて、引き手はとても重要なエレメントです。
堀製作所のものは、以前、親しくしていた陶芸家の新築宅に用いたのが最初でしたが、施主からもとても喜んでいただいたという物で、今回もこれを導入(こちらです)。
デザインイメージとしてはスパニッシュ的な無骨さと、ハンドメイドの鍛鉄的な仕上がりが気に入っています(実際は鍛鉄ではなく、鋳型から製造された物ですが)。
なお堀のシリンダー錠は優れものです。
特殊なピン配列形状で、その鍵違いは1400万通りということです。ピッキングにも強力です(うちには盗まれて困るほどのものは置いていませんが 汗;)
ただ、限られた建築予算からして決して安価なものではなく、選択においては心が揺らぐことも無かったわけでは無いのですが、残念ながら他には相当品は無く、“勢い”で堀に決めたというところです。
写真を撮りつつ、忘れていることに気づきました。ドアクローザーの取り付けですね。
部品は入手しているのですが、ついつい先延ばししてしまっている。いけませんね。
床、壁面について
床のタイルですが、これは確かスペイン製だったでしょうか。
今ではこうしたものも簡単に、また安価にネットから入手できます。
張るのも、自力です。
私はタイル施工は全くの素人でしたが、貼り方は今回の建築で世話になった富士宮の「カーポス工作所」の森岡さんや、地元のタイル屋さんに教えを請い、チャレンジしました。
腰が悪い私には、やや苦行ではありましたが、楽しい施工作業でもありましたね。
また壁面ですが、これはルナファーザーという壁紙を貼りました。
これは紙に木片チップを付着させた下地壁紙に、帆立貝殻を65%以上含む自然素材の塗料を塗ったものです。
したがって通気性・透湿性・吸湿性などの天然素材の持つ性質を持つため、結露やカビの発生を抑えますし、化学物質を使用していないので、ホルムアルデヒドなどの人体に有害な物質の発生もなく、安心、安全な壁紙です。
実際、四季を通し、とても快適な住み心地を体感しています。

acanthogobius
2014-9-27(土) 22:42
どういう訳か最近のブログは、ですます調ですね。
ちょっと似合わない気もしますが、定期更新を期待しています。
artisan
2014-9-28(日) 07:33
やっぱり・・・似合いませんか。
字面で装ってみてもあきませんね。
本Blog、今や若くもありませんので、以前のように爆走しての投稿にはならないでしょうが、ぼちぼちと再開していきたいと考えていますよ。
acanthogobiusさんには心からのご支援を期待しつつ・・・
半次郎
2014-9-29(月) 12:19
10年ほど前、カルロスゴーン宅の建具を担当した親方に建具を依頼したことがあります。吟味された無垢材でしたが6ヶ月ほどたったところで、そりが出て隙間が出てしまいましたが、その場で見事に修復されました。あの技術をくまなく観察していれば、私のつたない木工の小腕もすこしは上がったのでしょうが。
重ね塗りも出来るルナファザーいいですね。
ブログ再開、うれしい限りです。
こんど仲間と、遊びに伺います。
artisan
2014-9-29(月) 14:19
カルロスゴーン宅ですか。さぞや立派な豪邸と建具設計かと・・・
「吟味された無垢材」でも、乾燥状態、木取り、置かれる環境で、状況はずいぶんと違ってくることもあるでしょう。
木材ならではの奥の深さですね。
ルナファザー、仰るように何度も塗り重ねができるというのも魅力ですね。
簡易手法の、現代版漆喰といった感じかな。
気が向いたら、どうぞいらしてください。
コメントありがとうございました。