工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

カール・マルムステン校からの春風

PAUS
須藤生さんの個展がOZONEにて開催中。
ネット上という制約下ではあったが以前より知己の若き木工家具を学ぶ学徒の国内でのメジャーデビューとあり、表敬訪問に上京。
口開けは4日であり、この日はレセプションパーティーもあったようなのだが、納品のスケジュール調整が付かず、数日遅れの訪問となった。
C/Mの学徒としての習作、卒業制作などをスウェーデンより運び込んで日本での初お披露目という展示会であったが、力作揃いであるのはもちろん、やはり何よりもC/Mの洗練された精緻で高品質な木工家具ワールドを表現してくれていて、とても好感が持て、こちらもつい頬が緩んでしまうほどのものであった。
都心のこのビルの外は異常な気象状態で大荒れの天候であったが、会場にはストックホルムからの一陣の春風が吹いているような暖かな雰囲気でくるまれていた。


(Webサイト、Blog、あるいはメールなどでの交流はあったものの、初対面であった)主催者、Ikuruさんとも大いに交歓することができたが、主要な話題の1つはこの展示会の開催について最も懸念され、また事実大きな影響を受けてしまった日本の気象、環境が及ぼした木工家具への障害についてだった。
この辺りのことは制作者ならではの共通の悩みであるが、北欧と日本では気象条件での隔たりは大きいであろうから、木工家具という有機物を素材としたものである以上、想定外の歪みが出ることはむべなるかな、というところでもある。
しかし1つ付け加えるなら、Ikuruさんのものもそうであるが、C/Mスタイルのキャビネットの駆体の主要部材のそのほとんどはランバーを組み、天然杢の単板を練っている(ほとんどは柾目で)ことで、環境変化から受ける障害は最小に止められている。
しかしそうした設計上の配慮を越えた環境変化に見舞われてしまったということだろう。
 Ikuru
さてこうしたテクニカル的なことについては他にも多くのことを語らねばならないが、これはボクの任でもないだろうし、適切な場所でもない。
代わって次に触れていきたいことは、C/Mの教育内容についてのこと。
彼もこの展示会を前にして獲得した「職人試験」の審査対象に見られるプロの職人として要求される総合的な力量のことについてだ。
与えられた課題を、ただパーフェクトにこなすことに価値をおくのではなく、その目的とするフォルムにたどり着くプロセス、作業工程の自己対象化、そして完成された作品のプレゼンテーション、あるいはそうした一連の制作活動を保証するための工房経営などについての基本。そうしたプロの職人が要求される総合的な力量が問われるということがC/M校ならではの指標なのかもしれない。
ありふれたフォルムの中にもそれを導き出す豊かな精神性が基軸にあってはじめて為し得る必然性。
他の何ものでもない、こうしたC/Mのスタイルを6年という決して短くない時間を掛けて獲得しつつあるIkuruさんに木工家の一人として羨望の気持ちさえ起きてこようというものだ。
私が知ってる範囲においても既にC/Mの日本人卒業生は数人いるし、C/M卒業生ではもっとも著名な J・クレノフが指導しているカリフォルニア・レッドウッドの卒業生を加えるとかなりの人数になるのだろう。
Ikuruさんも彼らの後に続くということになる。
彼がC/M卒業の後の活動ステージがどのようなものになるのかは判らないが、しかし何か先輩たちとは異なるところから日本での新たな活動領域を模索していくような気がしている(根拠のあるものではない。ただの個人的な感想程度のもの)。帰国して活動するのかどうかも判らないしね。
いずれにしてもどのようなステージであろうとも、臆することなく大いに羽ばたいてもらうためにエールを贈りたいと思う。
まだ展示期間はたくさん残されているので多くの方々に観覧してもらいたい。お若い方にはぜひお奨めしたい。
Ikuruさんは常駐しているので、作品についてはもちろんC/Mについても尋ねられると良いだろう。彼はサービス精神旺盛なので、訪問者対応で会期中体調を崩さぬかと心配でもあるが、交歓は彼としても望むところだろう。
Ikuruさん、おもてなしに感謝します。ありがとう。
TB送ります。
画像topは会場アプローチ、中は来場者に家具のディテールを解説するIkuruさん。

【PAUS スウェーデン「カール・マルムステン」留学報告】
会期 1/4(木)〜1/16(火)水曜日休館
時間 10:30〜19:00
会場 新宿パークタワー OZONE(6F リビングデザインギャラリー)
主催 須藤生
協賛 ジャパンデザインネット
協力 早川書房
後援 リビングデザインセンターOZONE
入場料 無料
問い合わせ先 03-5322-6500(10:30〜19:00 水曜日休館)

 * IkuruさんのBlog ストックホルムの空を見上げて

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  • こんばんわ&明けましておめでとうございます。
    写真を拝見しまして・・・Ikuruさんはまだお若い方なのですね。家具について詳しいことは良く分かりませんが、作品にはその人の人柄が良く出るように思います。お会いしたことも勿論お話したことも無く、今回初めてお名前を伺った訳ですが、きっととても穏やかな方なのかな、と言う気がしました。私もぜひ、一度観覧させていただきたいな。
     やっぱり素敵ですねぇ、人の手から生み出されるものは。それにこの方のお名前がまた素敵!!生(きる)でIkuruなんですよね?子供ができたらつけたいかも(こんな事書いて良かったかな?)

  • A’daughterさん 今年も美しく元気はつらつ いきましょう。
    仰るようにIkuruさんは聡明で意志の強い好青年です。
    木工界にこうした才能が入ってくるのはとても良いことです。
    命名?、そのためにも早くH’Fatherにgranddauterを見せてやりたいね。(こんな物言い≒セクハラ)

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