若さとウォールナット食卓
そこは小松亮太の「リベルタンゴ」が流れていた。
marantzのアンプで駆動されるOrtofonの小型スピーカーから流れ出る音は小音量に絞られたものであったが伸びやかに日曜日の朝の空気を揺らしていた。
首都郊外に立地する若いお二人の新居への食卓納品はゴールデンウィークの初日ということもあり混雑渋滞を避け早朝出となったものの、意外に首都へと向かう車列はスムースに流れ、予定時刻を少し残して到着した。
部屋への搬入は玄関からのアプローチの余裕の無さで断念し、リビングダイニングの大きな窓から行うことで難なく済ますことができた。
良質なブラックウォールナットを用いた2m近い大きさの食卓テーブル。
デザインは、実は納入先の若い建築設計技師Kさん。
詳細な仕口などの設計はボクにお任せだったので、いわば共作ということかな。
いろいろとこだわりある方なので、やりずらさがあった反面、やり応えもその分あったとも言える。
そのこだわりは、既に使われていた椅子にも十分すぎるぐらい表れている。
ご覧の通り、J・ナカシマのコノイドチェアだ。(隣のくるみの小椅子はデスク用としてお買い上げ頂いたボクの作)
ウォールナットのミニマルなテーブルには、何故かコノイドチェアが似合う。
テーブルが良く見えるのも、コノイドチェアがあればこそ?
お若い2人なので今後何度も住まいを替えることになるだろう。
そうしたことを前提として、天板、板脚2枚、貫、いずれも「送り寄せ蟻」(吸い付き桟)という手法での緊結であるので、簡単に解体でき、コンパクトに梱包可能な設計とした。
またこれは経年変化(木の痩せ)への対応策としても生きてくることだろう。
彼ら2人にとってはお宝のように受け止めていただいたテーブルだから、2人の人生の歩みと共に大切に伴走していってくれることだろうと思う。
様々な客層にあって、こうした若い人からの受注というものは夢と希望を繋げるものということで、とても楽しい仕事であったし、事実搬入して設置した時のお二人の笑顔は制作時の苦労を忘れさせるに十分な力があった。
設置を終えて帰路に就こうとして「ランチの用意ができるので、ご一緒に」、というお誘いの言葉。断る理由も無いのでお二人よる手料理に舌鼓を打ち、暫し歓談の後、やや混雑した東名高速道を西へと戻る。
ピアソラ本人の演奏もさることながら、小松亮太の演奏にはエネルギッシュな若さとバンドネオン演奏に特有の弾むようなリズムの刻みが良かった。
ウォールナットのテーブルもまたお二人と同じように仕上がったばかりの若さだが、樹齢は十分にあるので枯れた演奏を奏でてくれることを信じたい。
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■ 送り寄せ蟻
■ ウォールナット天板と鉋まくら
Tags:marantz、Ortofon、ブラックウォールナット、J・ナカシマ、小松亮太、リベルタンゴ
acanthogobius
2007-4-30(月) 10:16
コノイドチェアがartisanさんのテーブルに良く合っています。
最近、ブラックウォールナットのYチェアが発売されている
ようですが、Yチェアだとどうなるのでしょう。
椅子の方が軽くなりすぎるかもしれませんね。
貫の出ていない板脚もすっきりしていて良いです。
板脚が柾目取りなので尚更です。
ひとつ質問があります。
板脚が天板の反り止めになっているのでしょうか?
それとも別に吸付き桟が入っているのでしょうか?
artisan
2007-4-30(月) 12:37
acanthogobiusさま 早々とコメントありがとうございます。
>ブラックウォールナットのYチェア
があるのですか。従来の白木のものとはイメージが大きく変わりますね。
それにしましてもYチェアですと、仰るように軽快なテーブルの方が合うというのが一般的な了解かもしれません。
板脚部分は天板と共材(やや厚めの)ですが、中央部、芯割れがありこれを取り除き再接合したものです(Pith centerに近いところからの製材)。
逆側も同様で追柾(板目を含む)になりましたが、全く1枚の板の如くです。
とても贅沢な木取りです。
こうしたミニマルでシンプルなものほど、材質の品質が効いてくるようです。
「送り寄せ蟻吸い付き桟」は板脚そのものの端末に施してあります。
結果、天板幅と板脚幅との差異が反り止め効果を限定的にしているという嫌いは確かにあります。
これはデザイン優先という依頼者の意向でもありますが、ウォールナットという樹種の性格(安定していて反りにくい)、乾燥度、などを総合的に評価して決断したものです。
ところでブラックウォールナットのYチェアですが、ペーパーコードの色はどうなっていました?(ビーチ材、黒のラッカー仕上げではナチュラルでしたので同じかな?)
acanthogobius
2007-4-30(月) 13:45
早速、質問への解答ありがとうございます。
ブラックウォールナットのYチェアのペーパーコードは
基本はナチュラルです。
Carl Hansen & Son JapanのHPによればプラス¥3,150で
ブラックのペーパーコードも選べるようです。
artisan
2007-4-30(月) 21:57
carlhansen.jpサイトで確認しました。なるほどね。
ウォールナットになると1.8倍の価格というのも“納得”を越えて“オドロキ”。
過日OZONEでのモデル製作教室に参加されたようですがacanthogobiusさんはどのバリエーション(樹種など)がお好みですか?
ボクはウェグナーのチャイニーズチェアにも使われていたチェリー材のものが欲しいですね。ビーチのソープ仕上げもオークのオイル仕上げもそれぞれに魅力がありますが。(話題をそらせてスミマセン)
acanthogobius
2007-5-1(火) 12:46
チェリー材、良いですね。
ウォールナットのYチェアの実物はまだ見たことがないの
ですが、ウォールナットは面を見せる使い方が良いような
気がします。
その点、Yチェアは座がペーパーコードだし、他はほとんど
丸棒で構成されているのでウォールナットの面の美しさが
スポイルされてしまう感じです。
しかし、最近のチェリー材(素材)は時としてウォールナットより高いみたいですね。