デスクを作る
2016年、開けました。
当地、穏やかな正月でしたが、私は友人や親族との交流も盛んに、楽しい日々でした。
皆さんは如何でしたでしょうか。
内外、様々に問題を抱えての年越しになりましたが、弛まず、へこたれず、前を向いて歩いていきたいものです。
さて今日は、昨年末に制作した表題につき、覚え書きとして、少し制作プロセスを書いておきたいと思います。
このデスクという分野、工房 悠のwebサイトにも数種のデスクが納められています。(こちら)
今回は、この中の「クルミの学習机」。定番的な位置づけのものですね。
学習机と言われる家具は、秋口頃から年末に掛け需要期になるのだろうと思いますが、ご多分に漏れず、うちにも複数台の注文があり、せめて年内にと、いつになく奮闘して制作し、納品に漕ぎ着けたところです。
特段、宣伝しているわけでもありませんので、これまでの顧客の方々からの受注です。
(宣伝すれば多くの受注に繋がるだろうと自負できる品質、価格ですが、あまり忙しいのは好みませんので宣伝はしません。天の邪鬼ですし〜)
デスク本体の構成
- 甲板
- 左右の脚部
- 中央部の吊り桟
- 後部、幕板
- 足掛け
- 抽斗 2杯
(主材ですが、今回は顧客の要望でクルミでは無く、ミズナラ材で作りました)
実にシンプルな構成ですが、こうしたものは、構成は可能な限りにシンプルに考えた方がいくつかの意味でムダが無く、また堅牢に仕上がるものです。
同時にまた、意匠としても無理やムダが無く、きれいに仕上がります。
(この際、意匠登録しましょうかね)
以下、それぞれの部位について説明を加えていきます。
1, 甲板
sizeですが、今回は1,200w 700d 680h としましたが、無垢材で木取りするとなると、2〜3枚の矧ぎ構成が一般的でしょうか。
今回制作した2台はそれぞれ、750d(3枚矧ぎ)、690d(2枚矧ぎ)、となりました。
既製品ではなく、誂え品のようなものですので、多少違っても基本sizeに近似していれば良いわけです。
まず、木はそれぞれ所定の厚みに削ります。
最初に矧ぎ、その後プレナーで一度に削った方がムダがありませんが、うちのプレナーは600mmまでしか削れませんので、矧ぐ前に、個々に削り合わせます。
プレナーで厚み決めした後、サラサラと超仕上げ鉋盤を通しておきます。
多少の削り残しがあっても、この段階では構いません。
むしろ、板ごとに、部位ごとに、厚みが変わるのは避けねばなりません。
矧ぎ口削りは慎重に行いましょうね(いわゆる、中隙に・・・)
・・・矧ぎ口チェックは仮に合わせ、その中央部を軽くクランピングし、木口を上下にズラし、動かなければOKです(動くと言うことは、木口側に隙があるということになります)
これに矧ぎ口側の木端に雇核の小穴を突いておきます(雇い核は木口には見せませんので、木口直前までです[1] 。
矧ぎ作業(うちはオーシカのPIボンド)
平滑を維持しつつ、強く締め付けます。
ボンド、水分などが完全に乾燥した後、手鉋で削り上げます。
この場合、矧ぎ終わってから、最低でも数日インターバルを置いた方が良いですね。
矧ぎ作業は、その部位(内外とも)がボンドそのものと洗浄の水分塗布のため、かなり湿潤になりますので、これが完全に乾燥しきってからにしないと良くありません。
乾燥仕切らない前に削り終えますと、その後に矧ぎ部位の乾燥が進むことで、厚み方向に落ち込んでしまうリスクが高いのです。
一見、目では判別できずとも、塗装をすると、その落ち込みが判然とする、ということは少なくありません。
削り終われば、その後、左右、中央、計3個所に吸い付き桟の蟻を彫り込む加工になります。(脚部ができるまで、一端、中段ですね)
2, 脚部
このデザインの脚部は、コの字の変形型になります。
この意匠の意図ですが、デスクへ座る時のアプローチ動線において、脚部が邪魔にならないための配慮であることは言うまでもありません。
次ぎに、無垢材の甲板の反張を抑えるための吸い付き桟をそのまま抽斗を吊り込む幕板とし、これに対応させるように、畳ズリの脚部をデザインし、
前後2枚の柱で支えるというものですが、この柱も全体の意匠を統合的に考えるところから敷衍させ、デザインしたものです。
後ろの平板はあえて傾斜させてカットしましたが、このわずかな配慮で、破調させ、無垢材の重厚さを和らげ、軽やかなイメージが出たように思います。
これは、12mmワイドの面処理のためです。
これも前述同様、柔らかな線を意識したためですね。
面の形状ですが、単純な1/4R ではなく、偏倚させたR面で処理してあります。
結合部位の枘ですが、40mmの厚みがありますので、2枚、2列の枘にしました。
これだけ枘を効かそうとしますと、プレス機で締め付けるので無ければ、組む作業はとても大変になりますので、厚み方向は、あまり効かしすぎない方が良いでしょう。
(逆に、経年変化で緩むことは絶対にありませんね)
この脚部の上辺には、甲板との結合用の吸い付き桟を施します。
その際、甲板中央部に抽斗の割り振りのための板材をぶらさげる構造にしますので、これも左右の脚部同様、吸い付き桟の加工を行います。
そのための摺桟(摺動レール)を所定の位置に埋め込みます。
中央部の板の左右にも同様です。
なお、デスクとは言っても、その奥行きは甲板の奥行きほどに深くしません。
400〜450mm程度でしょう(あまり深いと使い勝手が良くない)。
ただ、この摺動レールは長く埋め込みます。
これは抽斗の側板そのものは、できるだけ長くすることで、実効奥行きまで引きだした際にも垂れ下がらずに、水平度を確保させるための配慮です。
この摺り桟の前後の位置関係ですが、抽斗前板の位置を決める部材にもなりますので、慎重に行います。
また上部、最後部には幕板用の枘穴を穿っておきます。
同様に、下部、最後部には、左右の脚部を繫ぐ足掛けの枘穴を穿っておきます。
なお、この意匠では底板は設けません。
畳ズリ部位の底ですが、前後5寸ほど残し、透かしておきます(4点、床設置を確実にするため)
なお、これらの部材ですが、可能であれば柾目で木取りしたいところです。
楢は経年変化で変形しやすい材種で、板目は避けておいた方が間違いが無いですし、加えて柾目の方が美しいですね。
楢特有の斑(俗に言うトラフ)を嫌う人もいますが、楢は楢ですので、嫌っても仕方ないでしょう。
これは余談ですが、原木丸太を製材する場合、ミズナラが4本あれば、その中の2本は柾目で製材するといった考え方が汎用性が高くなります(楢材は特に)。
(1本の丸太の半分を板目で、残り半分を柾目で、等々、様々な製材方があります)
何でもかんでも幅広く取るのが良いというわけでは無いのです。
市場では、柾目製材のものは建具用として流通していると思われます。
したがって40mm〜の厚みになるでしょうか。
もう1本の中央部の棒ですが、上下共に傾斜していますので、それに合わせた胴付きを施し、枘加工を行います。
胴付きの位置は慎重に決めます。
傾斜角が定まっていれば、胴付き寸法は計算上で弾き出されますが、確認のため、部材を仮結合させ、実寸法を計測した方が間違いが無いでしょう(枘を入れてしまうと2度と抜けませんので、あくまでも胴付きを合わせるだけですが)。
脚部加工は以上です。
3, 仕上げ、組み立て、第1段階
これらを部材ごとに仕上げ、サンディングし、左右の脚部を各々組みます。
(サンディングは、組みあがった後にアプローチが困難なところだけに留めておきます。
組んだ後に、目違いが出ますので、再度仕上げ削りが必要となるためです)
組み上げ、丸1日置き、クランプを外し、目違いを払いながら、最終的に仕上げます。
私はこの段階で、1度目のオイルフィニッシュを行っておきます。
全てを組んだ後にオイルフィニッシュするのが良いわけですが、隅々まで確実にオイルを拭くのは大変な作業でもありますので、最終的な組み上げの前に、1度、プレ塗装をしておくというわけです。
4, 組み立て、第2段階
次ぎに、左右の脚部を、後ろ幕板、足掛けの2枚で繋ぎ、組み上げます。
その際、前部は幕板用のものがありませんので、後ろ幕板の胴付き寸法と同一の部材を用意し、これを最前部に当てがいながら組むと、カネも確認しやすいですね。
5, 甲板、脚部結合
完全に乾燥した後、吸い付き桟により、甲板との結合を行います。
本体は以上ですね。
6, 抽斗について
残る抽斗の加工ですが、今回は略します。
吊り桟の位置ですが、側板は甲板の反張を前提とし、上部は甲板とのクリアランスを設けておきましょう(任意ですが2〜3mm)。
前板はもっとタイトでも構わないでしょうね。
なお前板ですが、左右2杯は1枚の板から木取るのは当然ですが、中央部も隙間無く繋がるように加工した方が美しいですね。
そのため、抽斗左右は、片方がインセット、他方はアウトセットになります。
以上です。
比較的簡明な造りですので、特段の疑問も生じないでしょうが、何か不明なところ、悪文ゆえに判読不能な個所があれば、コメント欄などに投稿ください。
《関連すると思われる記事》
❖ 脚注
- 木口まで延ばす人もいるようですが、美しくないですね。
あるいは木口だけ、契り様のものを嵌めてあるのも見掛けますが、耐久性としては、しっかりとした矧ぎ口で、強力なボンドを使用し、適正に作業すれば不要ですし、視覚的なアピールを意味するもので無いかぎり、余り意味のある事とも思えません [↩]
acanthogobius
2016-1-6(水) 23:12
今年もよろしくお願いします。
私のブログにコメントいただいていたようでありがとうございます。
制作工程を文章で表現するのは大変ですね。
新工房建設や引越しなどでお忙しい中恐れ入ります。
とは言っても、私の興味の中心がこの辺りにあるのも確かですので
我儘お許しください。
私は、諸般の事情からちょっと木工停滞気味ですが、参考にさせていただきます。
artisan
2016-1-7(木) 08:14
貴Blogでのレス遅延、大変失礼いたしました _(_^_)_
ただ、私の表現力、文体の問題でしょう。たぶん。
人生、いろいろですし、ある時期、木工から離れざるを得ないこともおありでしょう。
健康でさえいれば、大丈夫。
無理の無いよう、ご自愛ください。
本年もどうぞよろしくおねがいいたします。
acanthogobius
2016-1-7(木) 09:09
すみません、ひとつ質問するのを忘れてました。
斜めからの写真なので、今一はっきりしませんが、テーブルなどに
比べて、蟻溝の幅が狭いように感じます。
これは、テーブルに比べて吸付き桟がより天板の両端に寄っている
ために、天板の強度を考慮しての事なのでしょうか?
それとも、天板そのものが小さいので、この程度の幅で十分ということ
なのでしょうか?
artisan
2016-1-7(木) 13:21
蟻桟ですね。
acanthogobiusさんの厳しい視点にたじたじです。
40mmの木部としては確かに細かったかもしれません。
理由としては中央の抽斗割り振りの部材は30mmの厚みで、これを基準にしたことによります。
首根っこで18mmほど。
それほどの意味は無いでしょうね。
蟻桟も余裕を持った幅で加工した方が良いと思いますが、吸い付き機能としてはこの程度でも十分です。
ただ、全体のボリューム(重量)との兼ね合いで、余り細いのは耐久性に難(蟻桟が破断する)が出るでしょうね。
キコル修羅ABE
2016-1-7(木) 11:58
工作進度・詳細がわかり、説得接特度が揚がりました。
ご祝儀ものです。ハイ
教生のころ、附属中学の担当クラス生徒の机と学業を照査してみたら
親のインテリジェンスと面積は比例していましたが
人格とはなんら関係なく、表層的経済的効果です。
出来る親と子の成績がリンクしているかのような傾向に、お腹が痛くなりました。
当時、貧乏はらすかし学生は、目眩がしてきました。今もクララしますけど。
artisan
2016-1-7(木) 13:20
格差社会、貧困家庭子女の学習環境、確かにデスクそのものにも反映するということもあるかもしれません。
私など、自分の机を与えられたのは中学以降でしたか。
それまではミカン箱、あるいは家族共用のちゃぶ台。
そのせいで勉学が身につかなかったなどとは、親の前では口が裂けても言えませんが・・・
裕福な親が与える教育環境、生育ポリシーも様々で、その期待に押しつぶされる、反発から逃げる、ということもあれば、貧しいながらも、ミカン箱の上で意欲的に取り組み、大成する、ということもあるでしょう。
事ほど左様に、子育てというのは親の思うようにはいかないのが常でしょうか。
ただ一般的にはインテリジェンスのある親の下で、大きな教育可能性を与えられ、意欲的に取り組むのと、貧困家庭での逆のケースでは、あらかじめハンデを負わされている事も確かで、それだけに公教育の充実は欠かせません。
日本の奨学金は学生ローンでしか無く、給付型を基本にすべきでしょう(OECD中、日本の教育関連予算は最低です)
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閑話休題
実は3.11の後、「あしなが育英会」を通し、被災地での就学を控えた子らに学習机の制作、提供のプログラム企画を提言したことがあったのですが、把握が困難とか、なんだかんだと、快く受け入れてもらえず、頓挫したことを思い出しました。
悔し涙 (×_×)キコル修羅ABE
2016-1-7(木) 12:10
身体記憶を文書湯にいれるのは大変な作業なりまする。
映像ではうるさく、体に染み込まず、記憶されないようです。
実作のほうが遙かに表現も効果的です。
湯冷めは志摩線ので継続してくださいね。
artisan
2016-1-7(木) 13:17
投稿したばかりで、既にいろいろと反省多でありまする。
画像へのテキスト挿入など、もっと分かりやすい表現を試行すべきでしたね。
時間があるときに見直す、あるいは再構成しましょうかね。