工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

クサビ考

大和脚部
ホゾの接合度を確保するために割りクサビを用いるということは建築の世界に留まらず家具制作においても一般によく見られること。
恐らくは人類が木を用いてシェルターを作ろうと試みた古来より当たり前のように使われてきた手法の1つだろうと考えられる。
それだけシンプルで確度の高い接合手法ということになろう。
近代工業社会の下で木工仕口の世界が激変し、接合仕口においても簡便な金具が開発されこれらに委ねることも多くなっているとはいえ、この割りクサビによる接合は決して廃れることは無い。
これは主材と同じ素材を用いると言うことの親和性(金具などを用いると、木より先にその金具の方の寿命が短いため劣化が早い)はもとより、テクニカルな考え方からしても理にかなった手法であると言うことは古来より何も変わることはないからだ。
しかしボクはあまり積極的にはこの手法を取ることはない。
最大の理由は美しくないから‥‥。納まりが綺麗でない。
木口を見付、見込部分に出すというのは日本の伝統的な木工文化の文脈からすれば忌むこととして考えられているからだ。
見付、見込部分の美しい木目の流れを断ち切り、そこに無粋な木口が顔を出すというのはいかにも野暮ったい。
古代の木工とは異なり、現代においては切削精度ははるかに高度なものが確保でき、このホゾの接合度を保証する接着剤も古代人が手にすることのできなかった文明の果実として利用できる。
今や割りクサビを用いなくとも、高精度の加工と、適切な接着剤の選択により、強靱な接合を獲得できる。
しかし近年、量産家具に対抗する“手作り家具”という制作スタイルの手法の1つとして、この割りクサビというのがむしろ積極的にアピールポイントとして用いられることがあるようだ。
見るからに“良い仕事をしていますねぇ〜”という評価をアテにすることもできるだろうから。手軽な戦略ではある。
そうした手法を取り入れるという、やや自虐的なケーススタディが前回のLamello解説の対象として取り上げたものと同じ「アームチェア大和」の後ろ脚、前脚それぞれの接合部。
“良い仕事をしていますねぇ〜”という評価をアテにする手軽な戦略ではないという積もりはないが、椅子という家具は過酷な使用環境におかれることからの防衛策でもある。
キャビネット、卓類では不要でも、座った人の様々な動きに堪え忍ばねばならない椅子には強度の靱性が求められる。
しかも「アームチェア大和」はかなり削り込み、絞り込み、軽量化を図った椅子である(多くの人がその軽さに驚く)。
この一見華奢なパーツのボリュームで求められる靱性を確保するにはこの割りクサビというのは手頃な手法ということになる。
したがって、序でに(苦笑)“良い仕事をしていましてねぇ〜”と照れ笑いを浮かばせ頭を掻く(本心は後ろめたいのだが‥)。
他の手法を取ることも出来なくはない。ホゾの抜けを防止させるためのアンカーを真横から打ち込むことはトラッドな椅子の仕口にもよく見られることだ(これらはこれ見よがしにするのではなく、さりげなく見えない箇所に打ち込まれるのが普通だ)
1分ほどの太さのカシ材のテーパーのダボを打ち込む(木釘の大きな奴だ)。
さてこの手頃な割りクサビ。手頃に作るにはどうするかって?
クサビ作りまず材料だが、目が通った柾目の幅広材を使いたい(わざわざ木取るのではなく、他の家具制作の際の落とし〔余り材〕を使えば十分)
準備するもの?、何もいらない。丸鋸昇降盤と標準の三日月定規、それにどんなものでも良いのでそこらに転がっている木のブロックだけ。

  • 木取り:必要な厚み(ほぞの厚み)、長さ(クサビの長さ)、幅は出来るだけ広く‥
  • 切削方法1:丸鋸昇降盤で三日月定規を適切な角度に傾斜させ、切り落としがフェンスに挟まないように、切削厚み決めは木のブロックをフェンスにあてがい行う。
  • 切削方法2:加工材を三日月定規に密着させ、ブロックで位置決めし、そのまま丸鋸へと押し進めれば良い。1枚が切削できたら、加工材をひっくりかえし、同じ動作を繰り返す。

リズミカルにチュン、チュンと。
今回15脚ほど組んだので1脚に8個、余裕を持たせ200個ほど作ったが、その所要時間、わずかに10分ほど。
現代の木工とはいかに安全に高精度にスピーディーにやるのかが肝要。
美意識と、強度の確保と、簡便さと、いくつもの要素を満たすための最善の手法を考えるのが近代人に与えられた宿題?
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