工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

クラロウォールナットのこたつ

クラロウォールナットのこたつ

かなり遠方のお若い方からのオーダーで、何と、クラロウォールナットで「こたつ」を制作して欲しい、とのこと。

ちょっと、いや、かなり異質な類のお話だったわけですが、この半年前ほど前、同じ人にマホガニーのデスクを納めたところでしたので、お若い方とは言え、冷やかしでは無いとの確信を持っての受注でしたが、これは困ったな、というのが最初の印象。

この困惑は他でも無く、コタツのヒーターを甲板の片面だけ長時間にわたって晒すことへのリスクについてです。

過去何度か、こうした受注を頂いた事があるのですが、多くの場合、銘木の厚突きのランバーコア材などで甲板を構成し、ここに框を巡らせる、額縁方式を提案させていただくといった方式が主流でした。

つまり、無垢材を甲板とした場合の熱対策は至難であり、これを回避するための額縁方式であり、ランバーコア材の活用というわけです。

ただ今回の場合、クラロウォールナットで、というあたりに、相当のこだわりがあるだろうことは明白であり、この話に乗ることになったのです。

クラロウォールナットで家具を制作している国内の家具屋は数軒あるようですが、こうした特殊なものを望みうる品質で作り上げるという面倒な事ができるのは、たぶんうち以外では無いだろうとの思いもありましたしね。

こたつ機能を用いる時期は冬季だけで、残る春、夏、秋は座卓として用いることとなるのですが、発注者は事務机として使うとのことでした。

コタツはやぐらの上に布団を被せ、この上に甲板を置く、というスタイルが一般ですが、発注者はそうではなく、あくまでも座卓様の構造体にヒーターユニットをぶら下げるという構成を望まれていたのです。

私は腰が悪く、長時間の正座も、胡座もできず、根を上げてしまうところですが、その若さには嫉妬してしまいます。

クラロウォールナットのこたつ、天板

意匠

うちでは比較的よく用いる、ハの字に傾斜した板脚を寄せ蟻で吸い付かせる方式を提案し、承認を頂いたものです。
ハの字ですが、長手方向からも、妻手方向から見ても、ハの字。
この意匠は視覚的に構造的な安定感を与え、気品を感じさせるもので、こうした卓における工房 悠の1つのスタイルになっているものです。

過去のいくつかの作例を挙げてみます。

拭漆 楢 小卓
拭漆 楢 小卓
楢 座卓
楢 座卓
拭漆 楢 食卓
拭漆 楢 食卓
楢 テーブル 脚部
楢 テーブル 脚部


甲板はクラロウォールナットですが、現在は残念ながら1枚板で座卓にできるほどの良質な在庫は数少なく、2枚矧ぎで妥協することに。

上から3枚目の画像のように、ほぼブックマッチな感じで矧ぎ合わせることができました。

ただ、矧ぎ切れは絶対に許されませんので、今回は決して大きなサイズのものでは無かったのですが、数カ所に矧ぎ専用ボルトを埋め込み、圧着させました。(右図)


クラロウォールナット クラスター バール部位 甲板 オイルフィニッシュ工程

コタツ機能と、断熱処理

コタツのヒーターユニットは一般的に市販されているものを使います。
これを吸い付き桟で甲板からぶら下げた枠材に納めるわけですが、かつ断熱対策として、右図のように空隙を挟む2枚の断熱ボードを介し、このユニットをぶら下げることに。
断熱とともに、排熱を考慮した設計です。

この部位は甲板の矧ぎと重なる処から、考え得るだけの断熱処理をすべきですが、ここまで処置しておけばダイジョウブだろうとの判断です。

雇い核(やといざね)での吸い付き寄せ蟻

この座卓の意匠は前述の通り、ハの字にこかす(傾斜させる)もので、ここに吸い付きの寄せ蟻を作るのはかなり至難な作業になります。

やってできないこともなく、若い頃はいそいそとやっていました。
10年ほど前から、これを雇い核(やといざね)で行うことに変更。

画像をご覧になれば、すぐにも理解できる手法ですね。

板脚の上辺木口に2枚ホゾの枘穴を穿ち、ここに別に拵えておいた蟻桟のブロックを埋め込むというもの。

画像からお気づきの方もおられるでしょうが、因みにこの枘穴はDOMINOマシンで開孔しています。
板脚は6°の傾斜がありますが、DOMINOは、こうした傾斜での切削加工が容易です。


この雇い核の枘ですが、1枚では接合度の信頼性が低いので、ここはWでいきます。私の理解では1枚の枘より数倍の強度が確保できると考えています。
このWの開孔もDOMINOであれば容易ですね。

あっ、この板脚はご覧の通り、ブラックウォールナットの柾目材を2枚に矧いだものですが、外側中央部にスリットが穿たれていますね。
これはあえて入れています。裏側は矧いでそのままですが、見付、外側は矧いであることを意識させない、というのか、意識させる、と言うのか、ははは、ここはビミョウですが、あえてスリットを開け、内部に濃色材のローズウッドを埋め込みました。これも意匠の1つというわけですね。



脚部、断面を円弧状に削り出していく

また断面はなだらかに円弧状に削り出していきます。

手鉋での相当の時間を要する作業となり、結構、やっかいな工程ですが、こうした面処理の考え方も Fine Woodworking における1つの要諦でしょうね。

仕上がりのイメージは、こうした面処理を行うことで、とても柔らかで優雅な雰囲気を醸し出すものですので、面倒くさいとか、手間が掛かりすぎる、との逃げはしないことです。

このコタツ、納入したのは実は一昨年の初夏。
現在、2期目の冬になるわけですが、オーナー曰く、まったく熱による変形等の障害はなく、快適に、またクラロウォールナットの美しさに見とれているとのことでした。

矧ぎ切れや、変形等の懸念から、この記事のupは控えていましたが、2冬越せば、もう大丈夫でしょう。

脚部、貫のための開孔(ピンルーターを用い、定盤を傾斜させての加工)

ラロウォールナットの在庫について

4年ほど前、1mを超える太さのスペシャルなクラロウォールナットの丸太原木を入手することができ、現在天乾(天然乾燥)中で、一部はもう間もなく使えるようになるでしょう。

私がクラロウォールナットをよく使っていることを知り、材木屋が売り込みにきたのでした。
決して安価な買い物ではありませんでしたが、こうした銘木との出遭いは望んでできるものでもなく、良質のものであれば購入するに限ります。

お急ぎで無ければ、このクラロウォールナットでの家具制作のご予約を承りますよ。早い者勝ち!
画像 右と下はその製材の際のもの。

このクラロウォールナットの色調は一見冴えませんね。
ところが、これは製材された直後のもので、この後、空気に触れ酸化していくことで徐々にチョコレートブラウンのあの魅力的な色調を醸し、これが天然乾燥の過程で定着していくのです。

hr

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