工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

横浜クラシック家具「ダニエル」(その2)

スティックレーOZONEの工場見学にダニエルが対象となったことには、いくつかの理由があると思うが、1つにはOZONEの一角にダニエルの大きなショールームがあるということは当たり前に過ぎるかも知れないが間違いないところだろう。
ボクはOZONEにダニエルが展開する以前から、それこそ家具制作に興味を抱き始めた当初より、晴海の「ジャパンインテリアセンター」であるとか、百貨店などでそのラインナップを深く見てきたから、OZONEでの展開を見てもあえてその様式的なデザイン、あるいはその製作の品質に目新しい物を感じたわけではなかった。
しかしただ1つ、実はとても新鮮なオドロキを感じさせてくれるものがあった。
それはスティックレー社の家具だった。
スティックレーの家具と言っても、家具のデザイン史に興味のない日本人にはなじみのない名称かも知れないし、実はボクもこのダニエルのショールでスティックレーの家具に出会うまでは、現在も継続生産されているものとは知らなかった。
あくまでも家具のデザイン史に遺るものとしか認識していなかったのだから。
それがダニエルのショールームの一角を占めていることに軽い衝撃を受けた。
ここではスティックレーの様式、デザインについて詳細に記述する場ではないので控えたいが、一言で言えば英国のジョン・ラスキン、ウィリアム・モリスらが提唱したアーツ&クラフツ運動に大きく影響され、自然素材としての木質感を活かし、過飾を避けたシンプルなデザインで格調高い良質な家具を製作し米国の中産階級に広く受け入れられ、一時代を築いてきた家具だ。
その制作面での特徴は、材種はオークの柾目、無垢での框組、貫ホゾ、ピン止め、棚口のホゾはダボテール、抽斗レールでのセンターガイド、などか。
ボクは隠す必要もないのだがF・ロイド・ライトの建築デザインが好きだし、アーツ&クラフツ様式、運動に少なからぬ関心を抱くところからスティックレーの家具への関心は強いものがあった。
まさかダニエルのショールームでこのスティックレーの家具に出会うとは思いも寄らなかった。
ダニエルがこのスティックレー社との提携を経営戦略にどのように位置づけているのかは分からない(それまでのイーセンアレンとの提携が切れたことも理由の一つかも知れない)が資料に寄ればそのスタートは1996年とあるからOZONEへの展開後、間もない頃のようだ。
ダニエルが日本における洋家具製造の黎明期からその中軸として経営展開してきたのに対し、一方スティックリー社も19c後期のアーツ&クラフツ運動黎明期からいくつかの変遷を経つつも、現在にその息吹を伝えている、という相似形を評価したことは間違いないところだろう。
スティックレーに関する話の最後に参考までに米国Stickley社の紹介ビデオがあるので、Linkしておこう(こちらから)
300px(256K)ほどの画面だが、かなり詳細にわたる紹介ビデオになっている。
意外にも製作工程の紹介も豊富。技術的側面からも良い学習対象となるかもしれない。
その中の1つを取り上げればキャビネットの抽斗レールに見られるセンターガイドはボクも多用しているが、日本ではあまり一般的ではないだろうから参考になるだろう。


ダニエルさて、今回の工場見学の対象とは少しずれた話題になってしまったので、話を戻す。
工場では熟練から若手まで各層の職人たちがテキパキと働いていた。
同業だからという訳ではないが、職人たちの無駄のない身体の捌き、振る舞いは見ていて気持ちが良いものだ。
見学という工場内への外部の人間の立ち入りは、決して彼らの業務にとって良いものであるはずは無いのだが、いやな顔ひとつすることもなく、見学者による作業への凝視も、あるいは的の外れた質問にも、笑みを浮かべ的確に応えていた。
それと感心させられたのは、工場内がとても綺麗。
木工場なんて、木屑、おが屑まみれ、と言うのが通り相場。
うちも少しは見習わないといけません。
工場内の整理、整頓は作業工程を無駄なくスムースに運ぶことが出来るだろうし、何よりも快適な環境で作業に勤しむことは精神衛生上も良い。
こうした些末なことにおいても老舗ならではの矜持を感じさせてくれる。
その後、伊勢原郊外に位置する「ダニエル スタジオ」へと会場を移し、いくつかの同社の製品シリーズが陳列され、豪邸一軒まるごと、キッチン、ファブリックに至るまでインテリア全般にわたってプレゼンテーションできるスペースを観覧。
梁、柱などにも樺が使われ、まさにダニエルカラー一色。顧客へのプレゼンテーションだけではなく、社員教育の場としても活用できる良いスペースになるのだろう。
その後、昼食を挟み、横浜市内へと移動し、「事業本部」施設に併設されている「椅子張り工房」、「家具の病院」を見学。
(以下、次回に続く)
*画像上:Stickleyカタログから
 画像下:ダニエル パンレット表紙
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▼《横浜クラシック家具「ダニエル」》
▼《横浜クラシック家具「ダニエル」(その3)》

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