工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

時には外へ出てみよう

昨日の“芸術の秋”話題の続き。
いくつかの展覧会をリストし、その中から〈バーナード・リーチ:松下電工汐留ミュージアム〉をピックアップしたが、他のものへも一言づつコメントをいれてみよう。
エドヴァルト・ムンク
ムンク美術館に所蔵されていた《叫び》が2004年に盗まれ、2006年にオスロ市内で発見されたことは記憶に新しいが、これに先立つ94年にもこの《叫び》が盗難にあうなど、事件がらみでも有名な画家だ。
後期印象派の影響を受けつつも、世紀末から新世紀にかけて独自の表現主義と言われる画風を確立してきた。近代の人間存在の〈孤独〉〈不安〉というものを表象させてきた画家として、近代美術界を代表する画家として人気がある。
公式サイトでは

今回の展覧会は、ムンクの作品における「装飾」という問題に光を当てる世界でも初めての試みで、オスロ市立ムンク美術館などからの代表作108点を一堂に展観します。

とのことだが、公的建築への壁画構想などもあるというので、新たな発見も多いことだろう。
岡倉天心
東京芸大の前身、東京美術学校の創設者の一人であり、校長も務めている。
数年前、芸大キャンパス内の美術館で、芸大ゆかりの近代工芸の先駆者たちの展示があった際に観覧させてもらったが、― 芸術教育の歩み ―というサブタイトルにあるように近代日本の芸術の黎明期がどのようなバックボーンから産み出されてきたのかを知る良い機会になるかもしれない。
また個人的な関心領域としては岡倉天心は『茶の本』(=『THE BOOK OF TEA』)だが、これに纏わる展示があるのか、どうか。
また竹内好から、タゴールとともに「美の使徒」として高く評価されたアジア的伝統としての価値観からみた日本の芸術文化というものを感じ取るきっかけになるかもしれない。(関連するシンポジウムもあるそうだ)
モイーズ・キスリング
この2月の国立新美術館、観覧の折の「異邦人(エトランジェ)たちのパリ 1900ー2005 ポンピドー・センター所蔵作品展」でも数点展示してあったが、エコール・ド・パリに集ったボヘミアンとして成功したユダヤ人画家だ。
少女像に人気があるが、陶器の肌のようだと言われる透明感のある裸婦がいい。
第一次世界大戦では志願して外人部隊に従軍し、負傷。第二次世界大戦ではナチスから逃れ米国に亡命。
時代に翻弄されながらも、大戦間の平和でおだやかで、そして華やかなパリで奔放に活躍した幸せな画家だった。
この府中市美術館は2度ほど訪ねたことがある。一度はアーツアンドクラフツに焦点が当てられた展示で楽しめた。
展示内容とともに思い出すのが、この美術館の駐車場に入ろうとして、通行人から呼び止められたことだ。
身なりは田舎のじいさん。どうされましたか?、・・・うつむき加減に「府中刑務所はどうやっていきゃ良いんかの?
重そうな荷物を持って、収監されている親族でも訪ねてきたのだろう。
地図を取り出して、親切に教えたのだったが、その後観覧しながら後悔したものだった。刑務所の玄関まで送るべきだったよな、と。恐らくはとぼとぼと歩いていったんだろう。
南方熊楠
粘菌の研究で知られる学者、ということになるのだろうが、それは彼のほんの一面でしかない。
博物学、フィールドワークを良くした民俗学者でもあった。
中央から距離を置き熊野の山中で粘菌の研究、著述に勤しんだ野の研究家だが、民俗学柳田国男との交流はよく知られている。神社合祀反対運動を起こしたことでも有名だね。(日本近代成立史上でも隠れたエポック)
ボクがこのクマグスに近づいたのは先年亡くなった鶴見和子氏による『南方熊楠:地球志向の比較学』(講談社学術文庫)からだったが、日本にもこんな知の巨人がいたんだ、という強い印象を受けたものだった。
私事ながら餓鬼の頃、奈良県の南端の陸の孤島と言われた山中に暮らしていたことがあったが、そうしたヤマトの裏庭としての熊野への憧憬もあったのかもしれない。
展覧会はクマグスに関わる様々な講演会、企画ものがあるようなので、良くチェックして出掛けてみたい。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 「芸術の秋」artisanさんの個展は今年はないのですか?

  • acanthogobiusさん、Blog運営でいっぱいいっぱいで展示会の余裕がありません、という訳ではないのですが(苦笑)、受注を抱えていて余裕があまり無いということなどがあり、年内の予定はありません。
    開催近くなりましたら、お知らせします。
    忙しい中でも、常に新作を手がけていかねばならないことだけは明らかですから。
    “時には外へ出てみよう”ではなく“時には個展をしよう”でなければなりませんね。
    でもクマグスのような生き方にも憧れがあります(意味通じるかな?)

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