工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

菫(すみれ)と墨入れの関係

すみれ1ここ数日日本列島は春の嵐に見舞われた。当地でも雷を伴う強風、大雨をもたらし、可憐に咲いていた庭のすみれを打ちのめしてしまった。
さらに今夕から再び降雨の予報。あわてて撮影していなかったすみれをEOS kiss DNに納める。
数少なくなった元気の良いものを選び、跳ね返しの土で汚れた花弁を筆でやさしく取り除いた後に撮影。
あわてたのには実はもう1つ理由がある。NHKラジオですみれを話題にしてくれたから。すみれの語源についての話だった。
業界の人間ではあるので知っていたことだったが、あらためてメデイアで話題にされると、画像に納めたくなる。
しかし一方の墨壺(「墨入れ」の一般名称)は所有していない。普段使っているのは味も素っ気もないプラスティック製品。
木取りの工程での*1墨付けのために用いられる*2墨壺は大工には欠かせない道具の1つだ。
木工屋でも時折世話になることがある。“時折”であって必須でもないのでこだわりの対象ではなくプラスチックのもので事足りる。

すみれ2
墨壺菫(すみれ)の語源は右画像のように、蜜だまりが墨壺のお尻に似ているところからこの名称を頂いたものだ。
墨入れ(=墨壺) > すみれ
いつの頃からこのような名称が付けられたのかは知らないが、かなり昔、古代に遡るかも知れない。
ここで知ることは、昔は「墨壺」という大工道具もごく一般に知られたものだっただろうということだ。
すみれの咲いている庭先で普請をする大工がまず最初に取り出す道具がこの「墨壺」であることを見知っている人たちは多かったに相違ないだろう。
してみると「Violet」「Viola」という学名、欧米の名称にみられる単なる色調から引いた名称と較べ、日本人の植物への命名のこだわり、特徴というものが感じられる。
墨壺画像は土田一郎著『日本の伝統工具』(鹿島出版)から撮らせて頂いた。

──────────────────────────────
*1墨付け:切断など加工工程のために目印の線や印を墨糸を用いて付けること
*2墨 壺:壺の部分には墨肉を入れ、糸車に巻き取られている糸を墨池の中を通してぴんと真っ直ぐに張り、先についた小錐、仮子(かりこ)を材木に刺す。これを垂直に軽く弾くと墨線が材面に印される。
職人は装飾的な彫刻を施したものを工芸品として尊ぶ。
メンテナンスが面倒なので、今ではプラスティックなものに切り替わっている。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • Oh, how interesting the origin of the name of SUMIRE is!
    いやあ、おもしろい。菫の花の蜜だまりと、墨壺のお尻は、
    上下に並べた写真の配置から、まさにどんぴしゃりだね。
    だけどさあ、
    >「Violet」「Viola」という学名、欧米の名称にみられる単なる色調から引いた名称と較べ
    には、異議あり。
    さっそく、調べてみたけど、楽器の viola は、日本の琵琶
    と同じように、共鳴胴を「なで肩」にカーヴさせているでしょう?
    この viola を、机の面に対して寝かせないで、直交させて置いた場合、ちょうど墨壺の上の菫の写真のように、見えてこないかなあ? とくに、viola のまるいお尻のあたりが。
    だから、ヨーロッパにおいても、わが国とおなじように、
    やはり菫の花の形の特徴をとらえ、その蜜だまりの「なで肩」のカーヴを、viola のまるい共鳴胴の形になぞらえ、
    菫の花を violet と呼ぶようになった、というのが先では
    ないだろうか。
    その後で、その菫の花の色にちなんで、菫色を violet と
    呼ぶようになった。
    実際、英和辞典を引くと、まず「菫の花」とあり、その次に
    「スミレ色」と出てくるよね。
    なお、violin は、viola の指小形で、サイズがひとまわり小振りにできています。でも、お尻のまるさは同じなので、viol-が共通。
    いやあ、きょうはとっても愉しかった。また、教えてね。
    viola da gamba より

  • partisanさま 蘊蓄をありがとうございます。
    確かに「すみれ」および「viola」の語源をネット上で調べてみても諸説様々ですね。
    〈すみれ=墨入れ〉説は牧野富太郎博士の説であることは間違いないようですが、これには異論もあるようです。
    また一方の〈viola〉(=ラテン語源)も様々でギリシャ語でスミレを指す「ion」から来ている。この場合、楽器のviolaは vitula (=ローマ神話における勝利の女神Vitula、あるいは「歌う、喜ばせる」という意の vitulare に由来する。などいくつもの説があるようです。
    violetという色名はすみれの花から来たことは疑いないところでしょう。
    一次資料を渉猟せねば、なんとも言えませんが、
    しかし仰るように「欧米の名称にみられる単なる色調から引いた名称と較べ、日本人の植物への命名のこだわり、特徴というものが感じられる。」という部分は明らかに間違いです。お詫びして削除いたします m( _ _ )m
    でも植物などの名称のルーツ探しは楽しいものだとあらためて教えられました。

  • 墨入れと菫(スミレ)の花

    加工墨を打つ
    その大工の匠な技は

    数百年の後世に
    受け継がれる
    建築物を造り出す

    その技を支える
    器用な手に
    はり巡らされた
    繊細な神経

    菫の語源は
    花の姿から
    墨入れとも言われている

    匠な技を生み出す手のような
    菫の花が咲いた

    自然

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.