工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

乾燥・収縮の力とデザイン貢献?

椅子

冬ですね。
ここ静岡でも遠くに望む富士のお山には小さな白い雪帽子。
昨日などは県西部で被害を出すほどの強い木枯らしが終日吹きまくっていた。

工房の薪ストーブにも火が入り、いよいよ長い冬へと向かっていく。
木工という仕事柄、湿潤な大気に包まれる晩春から夏の時期と較べればはるかに喜ばしい季節ではある。

さて、喜ばしい乾燥した時期も、これが何年も経過していくことで、木の痩せは進んでいく。
例え良く管理された乾燥材であっても、日本の四季の大気による伸縮の影響は避けがたく、伸びたり、縮んだりしながらも、徐々に痩せ、縮んでいく。

画像は6〜7年ほど前に制作された椅子。
過日、使っていた顧客宅から引き上げてきたもの。
他の椅子の代替品として一時的に使っていただいていたものである。

前脚がハの字に開いているのがお分かりだろう。
実は後ろ脚は上に向かって少し開いている。

前は踏ん張ったデザインで、逆に後ろは拡がりがあるデザインだ。
なかなかいいじゃん、仕事もさぞやっかいだったろう、と言いたいところだが、既にお気づきかも知れないが、無垢の座板が経年変化で痩せ、そのことにより、この座板に結合されている脚の意匠に変形をもたらしていたというわけだ。

簡単に前脚で説明すれば、
座板が4mmほど縮み、一方、左右の前脚を支えている水平の貫の長さはほぼ変化がない。
その結果、前脚は座板の縮小に引っ張られ、垂直であったはずの前脚がハの字に変形した(前脚は内側をテーパー上に削り込んであるので、より強調されて視認される)
後ろ脚は逆方向だが、同じ現象だ。

おもしろいねぇ、痩せがデザインを向上させるだなんて‥‥、
いやいや、そういう問題では無いか。

構造上のこうした問題を設計段階でどこまで想定し、かつ痩せの影響を回避しつつ加工するか、というのは日本の地で家具制作をする我々にとって欠かせない課題。

アームレスチェアR120(クルミ)

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  •  これ、面白いテーマです。杣工房先代は椅子の座板を横につかうことが多かったので90度違う現象が起きてました(笑)。

     一枚板の座板の場合、座板の引きは避けて通れませんね、先代の最後の数年、色々な座板の納まりを2人で考えました、それまでのスタンダードな納まりで当面問題無しでしたから、工房の他のメンバーにはワケのワカラナイコトだったでしょう。最終となったのが故・田中千香士さん宅の居間の椅子でしたが、これは一枚板の座板から離れてみたものでした。その後に極端に実験的な一枚座板の椅子を続けて作るはずでしたが、田中さんの納品の日に先代は倒れそのまま亡くなり、椅子はまだ作っていません。

    来年5月までに食卓セットを作るので、お客様の同意が頂ければやってみようかと思っています。

  • たいすけさん、ご尊父の最期の仕事ぶりまでお話しいただきましたが、その時の顧客対応へとあなたが出向くという、時間の流れ、そして継承について思わされます。

    今回の私の椅子の場合、恐らくはここらあたりが構造上の限界点かもしれません。
    これ以上に変形をきたしますと、ホゾ強度も喫水線を突破しかねませんね。
    クルミという樹種の、靱性の高さにも救われていると思われます。

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