工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

樺・ネストテーブル

ネストテーブルは以前より作っていて、決して多くは無い、うちの定番品の1つ。

入れ子に納め、整理することのできる小テーブルのことを〈ネストテーブル〉と言いますが、台数としては3台、1セットが一般的でしょうか。

インテリアの1つとして部屋の隅に置かれるのも良いでしょうし、もちろん、テーブルとしての機能も十分な品質がありますので、補助的なテーブルとして活用できます。
花台など、飾り棚的な応用もおすすめですね。

今回、在庫が切れたところに新たな受注があり、久々に制作することに。

発注者はWebサイトに掲載(こちら)のブラックウォールナット材は、あまり好まず、できれば国産の材種を要望され、いくつかの選択肢を上げ、検討いただいた結果、樺材での制作となりました。

一般のユーザーには、この軽やかな赤身と白太の白さはカジュアルな感じを与え、喜ばれるようです。
また物理的特性からすれば、緻密な木理と硬質さから、堅牢性も高く、また破綻も少なく、家具材としての条件をほぼ全て備えている材種といって間違い無いでしょう。

入れ子のネストテーブルですので、L.M.S と3つのサイズ展開がありますが、今回、天板はすべて矧ぎ無しの1枚板で構成。
Lサイズが、600w 400d というところで、それほど大きな幅というものではありませんが、テーブルトップにふさわしい品質と木理で、400mm幅を揃えるのは決して簡単な話ではありません(今回は在庫分を含め、6セットをまとめて制作)。

たぶん、材木屋が市場に流しているもので揃えるというのは、ムリかも知れません。
近年、樺材で赤身が張ったものはホントに稀少材になってきています。

今回は自身で丸太を探し、製材管理しているからこその、贅沢な品質と言えるでしょう。

意匠と構造

3台 入れ子にされた状態

テーブルですので、天板と脚部の構成ということになりますが、この脚部の意匠で、ネストテーブルとしてのイメージ、品質が規定されるように思います。

一般には4本脚で構成されることが多いようですが、うちではシンプルに、またモダンを追求するところから、H型(Hを90度回転させた姿形)でデザイン。
ズリ脚と、天板に穿った反り止めのアリ䙁に、テーパーに成形した脚を枘差し。

縦の脚部はわずかに22mmほどしかありませんが、右画像の通り、枘に包みを加えた、少し複雑な接合法を採用。

接合部位が大きくないだけに、その分、接合度を高める必要があり、こうしたやや複雑な手法を採ります。

左右の脚を繋ぐ貫も断面積は小さなものですが、構造体として重要な部位でもあるところから、2段の四方胴付きの枘にします。

面取り

小さな家具だけに、デイテールが大切になってきますが、面取りにも全体の意匠にマッチングするよう、意を尽くします。

この縦の脚部の面ですが、いわゆる切り面。
「切り面」とはエッジをシャープに切り取っただけのシンプルな面を指しますが、ここでは15度の角度でなだらかに大きめに取ります。

安易に済ますのであれば坊主面取りが簡単で良いのですが、立体感と表情を加えるためのものです。
光線の当たり具合で、できる影が陰影を与え、豊かな表情を醸します。

この15〜20度ほどの面取りですが、これまでは専用のルータービットを作るなどしておらず、今回あらためて導入することに。

固有の面形状を適えるには、デザイン画を描き、これを刃物屋に持ち込み、製造してもらうことがキホンで、これまでも多くのルータービットを取り揃えてきたものですが、今回はシンプルな形状ですので既製のものがあるだろうということでネット上を渉猟し、数本のものを購入してみました。

今回用いたものは、昔から様々な面形状のルータービットを市場に流している〈大日商〉のものがちょうど目的の面形状に叶う角度でした(Amazon

1/2インチ径のコロ付きですので、今回の曲面を含むテーパーの脚部成形にも対応します。

下 画像は、テーパーカットのルータービット。左の2本は以前から使っていたもの。
右の3本が今回購入したもの。実際に用いたのは右端。

アリ䙁 加工

アリ䙁の厚みはわずかに19mmですが、吸い付きアリ䙁としての接合強度にこの部材の細さは無関係で、適切な嵌め合いを施せば、大変 堅牢な接合になります。

アリ溝加工ですが、あらかじめアリ断面の首根っこよりやや細い小孔を突いておきます。
加工に用いるマシンは当然にも、昇降盤に、必要な幅を持つカッターを装着し加工します。

ここをルータービットで行うというのは、生産性も大変低く、安全性にリスクもあり、また加工精度も低くなっていまいます。
7インチ径ほどのカッター刃の方が周速度は圧倒的に高く、また位置決めを含め、加工は容易ですね。

次に、ハンドルーターで仕上げます。
画像のように、ここでは細いアリ溝になりますので、8mmシャンクのアリビットを装着し、被加工材をフェンスに押しつけながらゆっくりと運行します。

今回、6台分ですので、天板は18枚。
これへのアリ溝加工をスムースに行うには、簡便な位置決めのジグを用意することが肝要、
またこの場合、左右を並行して加工するため、2種類のジグを用意します。

うちの場合、ワークベンチにドッグホールが開孔されていますので、これを活用しつつ、2枚のジグの板を挟み込み、然るべき位置に、フェンスの板が固定できるようにします。

この黄色いボデーのコンパクトルーターはDEWALTの〈DW611
2kgに満たない軽量なコンパクトルーターながら、8mmシャンクのビットが対応しますので、てとも具合が良いです。
(参考「コンパクトルーター(トリムルーター)機種比較」トリマー DEWALT〈DWP611〉という優れもの(工房 悠サイト

縦の脚部、上部に何やら、コマ状のものが突き刺さっていますが、これは3台セットにされた状態で、Lサイズの天板を持ち上げれば、下の2台とともにあわさって移動させることを適えるものです。

最初期のものは、こうしたものは付けなかったのですが、移動における難点があったことから、引っかかるような駒を付けたのです。

以上です。

hr

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