工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

魚の味覚と食卓の豊かさ

津波、相撲、東京、マンガ、‥‥、
過日、あるTV番組でフランスの若者に日本語で知っている言葉をを挙げてもらおうというインタビューがあり、上の4つはそこで出てきた言葉。

「Tsunami」がそのまま使われていることにも驚かされるが、実は最も多く知られた言葉は、やはりと言うべきか「sushi」。

フランスに限らず、欧米各国でこの「sushi」ブームは衰えを知らず、sushiネタの主素材マグロの消費量は増大の一途を辿っている。

ただ多くの人気の魚が早くから養殖技術を確立して、市場の要求に応えている中、マグロだけはまだまだ研究段階の域を超えていない状況でもありその需給は逼迫している。

そんな中、3月のドーハにおけるワシントン条約(CITES)の締約国会議に大西洋・地中海産クロマグロの国際取引禁止案が俎上にされたというニュースには軽い驚きがあった。
クロマグロが急激に個体数を減らしているという認識はあっても、まさかそれがワシントン条約の対象生物になるということへの驚き。

日本国内でもメディアが一大キャンペーンを張ったせいかどうかはともかく、結果大差で否決されることになったが、このニュースには胸を撫で下ろした和食グルメの方々も多かったことと思う。

さて、ボクもこのクロマグロ=本マグロは大好き。
とはいっても、めったに口にできるものではないわけだが‥‥。
“時価”を気にしながら寿司屋のカウンターで座ったり、宴会で出される刺身に舌鼓を打ったり、たまにいく生鮮市場のタイムサービスで半値に値引きされたものを購入したり、といった程度の頻度だね。

イワシのタタキ
普段はもっぱら、画像のような食生活。

これはご覧のようにマイワシのタタキ、スルメイカの刺身。
日々の食卓に上がるのはもっぱらこうした大衆魚。
マイワシは房総から、イカは気仙沼から。
本来であればいくつかの漁港に恵まれている土地柄、近海のものを入手すべきところ、週末恒例の買い出しに行ったマーケットにはこれが新鮮だったので求めたまで。


この鰯のタタキは実に美味だった。
真鰯としては最大級のサイズだったが、腹からアジ切庖丁を入れ、三枚に開き、腹の小骨を取り去り、手指で皮を剥く。

数mmに削ぎ切りしたものを、青ネギ、ショウガ、ミョウガ、大葉、などと一緒に包丁で軽く叩く。

皮がどれだけしっかりとしているかでその鮮度が分かる。漢字表記の通りに、魚の中でも最も劣化しやすい部類なので、タタキ、刺身で食せるのは貴重ではある。
今日の鰯は鮮度もさることながらとても脂がのり、旨かった。

アジの南蛮漬け

カツオのタタキ

いやはやチープな食生活を晒すようで恥ずかしいのだが、昼食はもっぱら目刺し、鰺の開きなど青魚の干物。そして夕食には近海で取れた季節折々の様々な魚たちを煮付けにしたり、焼いたりと楽しむ。

ボクは子供の頃の決して短くない期間、瀬戸内の小さな町で育ったということが味覚の原点となっているのか、いわゆる雑魚の旨さを良く知っているつもり。
恐らくは当時はマグロなど食卓に上がることはほとんど無かったと思う。
マグロはあくまでもハレの食材であり、姿勢を正して向かうというものであったように記憶している。

しかも当時は近海から産するものに限定されていただろうが、今やアラビア海から地中海、北海へとマグロ船団は出掛けていく。あるいはその地の漁労から遠路はるばる輸入されてくるものとなっている。

こぞってマグロ、マグロと狂奔する日本の老若男女の欲望を満たすためにである。
世界的にも最も長い海外線で囲まれた海洋国、日本でありながら、やや異常とも思える魚を巡る食文化の光景である。

一方で日本近海で産するイワシなどの多くの雑魚は人の口へではなく、飼料へと回されてしまうという現実もある。
スーパーの鮮魚コーナーではもっぱらそのまま食卓に出せるように盛りつけた刺身が最も広いスペースを占めている。
ボクが望むような、一匹ものの近海魚などは見る影もない。

確かに今回ワシントン条約締約国会議では規制対象にはならなかったものの、早晩、こうしたマグロなど海外からの高級魚の怒濤のような輸入ラッシュはいつまでも続けられるものとも思えない。
海洋資源は無尽蔵では無いだろうし、地球の反対側まで船団を送る一方、近海魚が飼料に回されるという現状は何かがヘン、という思いは決して的外れなものではないだろう。

食文化の豊かさは、何も海外資源に頼らずしても、まだまだ近海から捕れる資源で十分に享受できる。マグロなど高級魚に異様に傾斜した魚食文化というものは「豊かさの象徴」、というよりは、むしろ食文化のゆがみ、ひずみ、と形容する視座の方が健康的なようにも見えてくる。

そこには魚への味覚であったり、様々な調理法を駆使し美味しく味わおうという古来からの日本人の舌が痩せ細ってきていることも含意される。

むろん、ヤングママさんにも包丁の使い方を覚えてもらう必要も出てくるというものだが、それが無くて、何が食文化なのであろうか。
あ、イワシは包丁使わなくても、手だけで捌けることは知っておいた方が良いかもよ。
せっかくだから刺身、タタキの他、イワシのいくつかの調理法を。

  • 塩焼き(塩してそのまま焼くだけ)
  • 蒲焼き(三枚に開いたものを油を引いたフライパンでローストしつつ、タレで軽く煮込む)
  • フライ(三枚に開いたもので大葉など香味野菜をくるみ、塩コショウ、薄力粉、卵、パン粉で、カラッと揚げる)
  • イワシのつみれ

* 画像 :

  • 小アジの南蛮漬け(向付は小川幸彦、備前のぐい飲み)
  • カツオのタタキ(1匹を買い求め、半身はその日に刺身、残りは焼いて氷で締めて冷凍保存したものの解凍もの)

今日のYouTubeは「Summertime」、ジョージ・ガーシュウィンの不朽の名作『ポーギーとベス』から。
YouTubeでもJazzのスタンダードとなっている名曲だけに様々なプレイヤーのものがあった。

有名なものとしてはマイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、そしてこの歌唱を画期として後に続く「Summertime」カバーに影響を与え続ける、“美は破調に有り”のジャニス・ジョプリン版 等々。
いずれも欠かすことはできない名演奏だが、今日はチャカ・カーンで(これもジャニス・ジョプリン版があっての奏法と言うべきか)。
(モントルー・ジャズフェスティバル1993から)
Chaka Khan – Summertime (Part 2)

バックでJazz(ジプシー ?)バイオリンがフューチャーされているが、彼女(Lili haydn)がソロを取っているものが「Chaka Khan – Summertime (Part 1)」として収められているので、これもお薦め。

因みにジャニス・ジョプリン版はこちらがお薦め(1969年Live版)
明日から8月。

まだまだ猛暑が続く。甲子園での球児たちの夏が終わるまでは気が抜けないだろうね。
どうぞご自愛いただき、また実り豊かな秋を迎えるためにもご健闘を !

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  • あら!おいしそう!

  • おいしそうな魚にカッコイイ器ですね^^
    最近いわしを食べた記憶ないなぁ。
    新鮮ないわしってホントおいしいですよねぇ♪

  • kokoniさん、あなたも食に関してはこだわる方でしょうから、スイーツのみならず、ご紹介ください。(本マグロばかり食べ歩いていてはいけませんよ)
    ぽーるさん、あなたのお住まいの辺りでは、あまりイワシを積極的に食する文化はないかもしれませんね。
    ほとんどは飼料に回されるか、あるいはほとんど獲れないのかもしれませんね。
    向付の作家は残念ながら物故者でして、入手困難ですね。

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