工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

快適皐月を快楽ソファで

ソファ1
皐月5月、この数日初夏のような陽気が続き、頬を撫でる薫風が心地よい。
井上陽水に「5月の別れ」という唄がある。
まぁ、例によってシュールな内容なので歌詞には深く立ち入らないくらいがよいが、今日はそんな唄やら、Glenn Gouldのバッハを工場と事務室で終日鳴らしながら良い気分で過ごした。
良く問いに出される「離れ小島に1つだけ持っていくCDは何ですか?」と、あらためて自分に問えば、やはりGlenn Gouldのバッハなのだろうかと思う。
あえて1枚といえば最後のゴルドベルグも良いが、「平均律クラヴィーア」プレリュードとフーガも良い。
ノンレガート奏法が気にならないとは言わないが、1音1音が揺らぐことのないリズムで刻まれ、際立ち、構築的なバッハ音楽の世界に耽溺させてくれるのがむしろ嬉しい。
さて今日は昨日の納品後の工場整理と、事務処理に追われた。
序でに納品の際の撮影データを整理したので、いくつかここで紹介しておこう。
今回はソファと小椅子の納品。
顧客は隣県の市街地で事業を営むオーナーの邸宅。
1、2階を事業部門、3、4階を住まいとされていらっしゃる。
以前1度このBlogでも触れたことがあったと記憶しているが、このオーナーは木工をされる方。
本業を精力的に展開しながらも、この世界で最も伝統と権威がある公募展にも入選するほどの凄腕の木工家というわけである。
日中は事業に専念し、もっぱら夜間に工房に籠もり作品制作に没頭する。
まさにアマチュアとしてのスタンスならではのこだわりを活かし、凡百の職業木工家を凌ぐ作品品質を自らに課すツワモノだ。
そんな顧客からの制作依頼ということで、当然にもプレッシャーが掛かろうというものだが、ま、しかし変な力みなど無く、顧客も当方の力量を知った上での発注であろうから、淡々と、しかし誠意を込めての仕事をさせていただいた。


ソファ2
ソファ3
ソファは3pと1pの2つのタイプ。
基本的なデザインは同じ。脚部部材に少しボリュームの変化を付けた。
ここ数年何度も制作してきたソファではあるが、ディテールではいくつかの改変、改良を施してきている。
ご覧頂ければお分かりになると思うのであえて隠すまでもないが、このデザインのルーツはArts & Crafts様式にある。
これを元としながらも、フォルムから、ディテールまで大きく変えている。
デザインに興味がある人であれば、その意図はすぐに分かるほどの平明なリデザインだと思う。
しかしこの平明さは、仕口を含む設計上、かなり難易度が高いことを内に隠してもいる。
わずか数年で、ボクのような1品制作のスタイル、箱物などをメインとしながらも様々なものを手がけるジャンルの広さであるにもかかわらず、しかも決して安価でもないカテゴリーのものであるのにもかかわらず、5度目の制作となることを考えれば、それなりの評価を受けているソファだと言っても良いのではないか。
この評価を自身で分析するのは難しいと思うが、あえていくつかリストしてみる。
・まずは何よりも掛け心地(構造体設計での座る姿勢の追求+ソファの設計、施工)
・木部と張りのバランス
・Arts & Crafts様式に踏まえた流行に左右されない質実剛健なデザイン
・材質の良さ(良質なブラックウォールナット材)
・仕事の品質
ま、自画自賛と言えばそれまでだが、顧客に喜んでもらえる基本に踏まえたモノヅクリということだろうか。
次の座椅子、そしてスツールは数日前に記述しているので、詳細には立ち入らない。
ただあらためて、顧客の居間に納めたことで撮影環境の良さも加味されたこともあり、良いイメージで定着できたこはありがたく思う。
ソファもそうだが、張り地も最高級のものをお選びになったのだが、この小さな画像ではその品質までは峻別できないのが残念。
座椅子
スツール
これらは実は現在の経営者のお母様の依頼だった。
座椅子もそれまでのものを更新するためのものだったが、ぜひ数日後、あらためて掛け心地をお尋ねしてみたいものだと思う。
椅子は少しの時間座っても本当のところは判らないものだからね。
お母様も納品に立ち会っていただいたが、笑いながら「この後どれだけの期間使えるか判らないのだけれど‥‥」などと気弱なことを仰っていたのだが、とても聡明でお美しい女性で、まだまだお元気な方なので、きっと今後、長く愛用していただけるものと信じる。
当工房に来ていただいた時から感じたことだが、お二人のやり取りからはとても良い親子関係であることが垣間見られ、こちらまでもがほのぼのとさせられるものだったので、ぜひ、これらの調度品とともに、末永くクォリティー オブ ライフを続けていただきたいと願う。
Tさん、そしてご母堂、本当にこの度はありがとうございました。
では最後に YouTube・井上陽水「5月の別れ」を
(ここに埋め込もうとも考えたが、投稿者が無効としている)。
URLでご免。

*なお、これらの納品家具については、あらためて詳細を別途Webサイト「木工家具の工房 悠」> 「Case Study」にupしたいと思う。
 * 補記 ひとつ付け加えておかねばならなかった。
ソファは3pと1pが2脚。その間に置かれるセンターテーブルはどうするの?とのギモンがあるかもしれない。
ここにはTさん、自らによる卓が置かれる予定。現在これを試作途上とのことであった。
楽しみですね。

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