工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

拭漆楢食卓

楢拭漆食卓
これまでキャビネットのジャンルで2つを紹介してきたが、変わって数回テーブルのジャンルで取り上げてみたい。
最初は《拭漆楢食卓》にしよう。
ご覧のように小ぶりの食卓だが、このデザインも工房 悠デザインの固有のイメージを特徴付けるものと言って良いだろう。
これまでもずいぶんと同様のデザインのテーブルを制作してきた。
さらには座卓などにも同様のデザインを援用したものもあるほどだ(最下部画像)。
一枚板の甲板(無論、矧いでも良いのだが‥‥)に、板差しの脚部が左右に結合され、これを貫で繋ぐ、という簡明な構造。
したがって、これらの部位はバラバラになり、ノックダウンでの構成である。
こういうデザインは、いかに木材の素材感を美しく全体としていかに端正に見せるか、ということに尽きるのではと考えている。
加飾を避け、材の美しさと、造形の簡素な美しさで見せるということだね。
したがって仕上げもミズナラの美しさをより特徴的に引きだしてくれる拭漆とした。
技法的にはさほど難易度が高いというほどのものではないが、それでもいくつかの仕口において特徴をあげることができる。
以下、少し詳しく見ていく。
まずデザイン、およびこれと不可分の構造について。
上述したように甲板、板脚2枚、貫、というシンプルな構成だがそれぞれ個別にみていく。


〈甲板〉
送り寄せ蟻甲板は楢の良質な部分から獲るのはもちろん、できれば一枚板でいきたいもの。
甲板形状は妻手をなだらかな円弧状としているのが特徴だが、これは後述する板脚の断面形状に相似させたものであることは言うまでもない。
エッジ断面は右図のように大きくしゃくり、あえて薄く見せている。
厚ぼったく見せるのが“手作り家具”であるとすれば、そうではない造形的なバランスを考えてのものと言えばよいか。
まだ木工の何たるかを掴めていなかったころ、指物をよくする古老の職人に学んだことの1つ。古来より家具指物の美しさの要諦はバランスであるとの言。
〈板脚〉
台形の形状と、左右、外側に少し傾斜させたところを特徴とする。
台形の傾斜は6°、左右の傾斜角は4°。
これは傾斜角は微妙に異なるものの、双方を傾斜させることで構成上のデザイン的統一性を図り、また構造的、あるいは視覚的な意味での安定性を確保させたものと言える。
先に少し述べたように、この板脚の断面は外側が円弧状に削り込まれている(太鼓に張らせている)。
これはフォルムにおける柔らかさを演出させたもの。
加工は実はいささかやっかいであるのだが、こうした少し難儀なプロセスを経ることで、何とか美しさを醸すことができる。
木工屋の仕事とはそういうものだと考えている。
この断面の太鼓腹加工を少し具体的に紹介すれば、
丸鋸の最大径のもので数回に分け切削するところからスタートさせるのだが、それは全工程の1/10ほどのものでしかない。
後は手鉋でひたすら削り込んでいくしかない。
台形でもあり、不定形な円弧状にならざるを得ないものだが、手のひらの感触を自らの定規としてなだらかな面を作っていく。
まずは厚めの鉋屑が出るように鉋を調整し、おおよその円弧状を削りだし、徐々に鉋屑を薄くしていきつつ滑らかな切削面を成形していく。
こうしたプロセスは体力勝負的なものであるという側面とともに、ひたすらに木工とは何たるかということの再確認の場でもあり、あふれ出す汗との引き替えに、自己認識を迫られるものでもある。
接地部は安定性も考慮し、薄くではあるが、デザインを施しながらしゃくり出す。(接地面を大きな面から安定的な4点へと近づけるもの)
なお、中央の黒い部分はローズウッドなどの濃色材を嵌め込み、アクセントとしているものだが、実はこの異種材は2枚の板脚の矧ぎにおける雇い核としても機能させている。(構造的必要性をデザイン的アクセントとして活かす)
送り寄せ蟻2
こうして構成した脚は、吸い付き桟にホゾ差しされ、これを介して甲板に穿った送り寄せ蟻に咬ませる。(上図は座卓の場合だが、基本は同じ)
吸い付き桟と板脚は4°傾斜しているので、ホゾ加工は決して容易ではないが、丸鋸傾斜盤の適切な加工手法で行う。
わずかに4°の傾斜ではあるが、表情は大きく違ってくることは言うまでもない。
容易ではない加工手法を選択することは、その犠牲に見合う以上の結果を産むことは、こうしたプロセスに限らず多くのところで経験する。
〈貫〉
断面をこれまた太鼓に張らせた形状のもので、板脚に貫ほぞ、クサビで結合させている。
板脚のこのホゾ穴は、テンプレートガイドを作り、ハンドルーターで穿孔する。
ただ傾斜があるので、そのためのジグも必要となる。
この脚の中央部は2寸近くもあるので、ジグを介すれば、かなりの長いビットを使用しなければ届かない。
拭漆楢座卓

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 上の写真の食卓は天板と板脚の間に吸い付き桟が入っているように見えますが、座机の方とは
    少し構造が違うのでしょうか?
    座机の方は貫の端にクサビがありませんが
    貫中央部が天板の裏側と接することで
    自ら踏ん張るような構造になっているのでしょうか?

  • acanthogobiusさん、言葉が足りませんでしたね。
    Top画像の食卓と、座卓では明らかに甲板と脚部の接合は異なっています。
    Top画像の食卓の方は、ディテールの画像が無く、それを補うためにやや強引に座卓を参照いただいているのですが、説明不十分でした。
    具体的には板脚をハの字に傾斜させたことで、甲板接合部位(吸い付き部位)の長さが、脚の長さに規定され、大きく変わってくることで手法を変えざるを得なかった、ということになります。
    座卓ではそのまま延長線上に吸い付き仕口を施すことで甲板の接合は叶えられますが、食卓では甲板の幅に対し、吸い付き部位が狭くなってしまい、別途然るべき長さの吸い付き桟を介さねばならなくなっていると言うことです。
    クサビの有無の問題:
    座卓の場合、要求される強度は食卓の大きさのものほどではなく、またノックダウンの方も、脚部と甲板のノックダウンだけで良いだろう、という判断で接合の嵌め合いをきつくし、ボンドで固めてしまっている、と言うことになります。
    (この嵌め合い部も台形断面ですので、テンプレートガイドを用いてのルーター切削です)
    この座卓もシンプルな構成ですが、綺麗に納まりますので、気に入って良く作ります。

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