工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

楢 拭漆 小卓

小卓1
CATEGORIES「家具」の解説シリーズ、少しインーバルが空いてしまったが、今回は「楢 拭漆 小卓」
こうした小さな卓は日本の住環境において比較的古くから使われてきたように思う。
鶏小屋と揶揄されたりもする日本家屋にはあまりたくさんの家具はおけないし、また部屋空間を美しく装うには、シンプルで端正な空間を活かした方が良いという面もある。
そんな部屋空間の片隅にこうした小さな卓は有用だし、また部屋を美しく装うことができるものだ。
使われかたは様々。
こうした上質な調度品に座って向かえば、自然と姿勢も正され、日々の来し方をじっくりと振り返り、日誌を綴り、あるいは想念を巡らし、時には遠い友人に向かい文(ふみ)を綴るための良い装置となるのではないか。
家具というモノは単なる人々の用に供するだけのものではない。
人の日々の生活とともにあることはもちろんだが、そのオーナーの生き方を整序立て、秩序の一部となって“そこに在る”ものとなっていく運命のものだったりする。
わけてもこうした小卓であればオーナーのパーソナルな調度品として慈しまれ、人生の控えめな伴走者として付き従ってくれるものとなるだろう。
それだけに小さなものとはいえ、丁寧に、誠実に、制作に向き合うという姿勢が必要とされるのかも知れない。


ライン

これを最初に制作したのは梅田阪急画廊での個展へ向けてだったが、会場においてあるご婦人が買い求めてくれた。(画像も展示室でのもの → クリック拡大)
用途をお訊ねしたところ、やはり文机に使いたいとのことだった。
その後もサイズの大小はあれ、Web掲載をご覧いただいての注文などで、数度制作する機会があった。
文机の他での0用途としては、夫婦二人の小さな食卓としても良いかも知れない。
,あるいは縁台に出して、親しい人との茶席として用いるのも良いだろう。
さらには葬祭の時などに、大きめの経机として活用できるかも知れない。
ま、日本的な融通無碍の用途としておこう。
材種はミズナラで、拭漆仕上げとしたが、やはりこうしたものは国産の樹種に拭漆での仕上げが似つかわしいようだ。
構成は比較的シンプルで、一枚板の甲板に寄せ蟻の吸付溝を穿ち、これに1本の貫を介した2枚の板脚をハの字型に傾斜させ、吸付桟により接合させたというもの。
構造というものは簡素なものの方が堅牢だということは実は1つの真理ではないだろうか。
必要にして十分な構造を備え、その簡素な中にきれいな線と、面を描き出すこことで、少し緊張感を与えつつ知的で美しい造形をもたらすことができるように思う。
少し具体的に見ていく。
ライン

〈甲板〉
素性の良さそうな比較的おとなしい木理のものを用いるのが良いだろう。
1枚板ということもあり、反張を極力避けたいし、また仕上がりの美質の面からもおとなしい木理の方が端正に仕上がる。
長手(木端)、妻手(木口)それぞれわずかながら太鼓に張らせる。
これはリニアなラインで過度な緊張を与えるよりも、少し柔らかな印象を与えたいという意図からである。
エッジ処理だが、写真下のように裏側は外に向け薄く見せるために削り込んでいる。
うちではピンルーターに笠状の大きなサイズのカッターを取り付けて、エッジに倣わせぐるりと回して切削する(ハンドルーターでは手に余る切削量)。
〈板脚〉
これもやはり1枚板が望ましい。
無理であれば、中央に板目、両外側に追柾から柾目に木取り、矧ぎ合わせる。
写真のように幅方向に円弧状の断面を持たせている。
これも甲板同様に柔らかい印象を持たせるものだが、もっと言えば、甲板の木口(妻手)の太鼓張りと同期させるというデザイン処理の問題でもある。
まずは吸付桟の加工を最優先させて行う。
断面が円弧状となるので、ホゾは中央部ではなく内側にオフセットとなる。
また脚全体は傾斜させるために、吸付桟との関係では単純延長線上とはならず、傾斜させての加工となるので、少し難易度は高いかな。
次に板脚の円弧状の切削加工。
これも加工はやや困難だが、ほとんどの作業は手鉋での切削となる。
額に汗しつつ、腕を腫らせつつ、シジフォスの如くに向かうだけ。
おっと、その前に貫のホゾ穴をあけておかねばいけなかった。
逆台形の断面の貫通ホゾにしているが、これは当然にもテンプレートを介してのルーター加工である。
板厚が50mm〜と厚いので、かなり長いルータービットが必要となる。
脚はハの字型に傾斜させるので、その分さらに長く必要となるのはいうまでもないしね。
だいたいそんなところだが、写真に少し写っているように、畳ズリ部分は中央部を少しだけえぐってある。設置を安定させるためだね。
〈貫〉
円弧状にカーブさせた形状だが、貫通のホゾ加工が少しやっかい。
逆台形などという、おかしな設計にしたためだが、それは全体のフォルムとの統一感をもたすための処理であり、ただの長方形の断面だと、この卓のイメージにそぐわないとの考えからだね。
些細なディテールであるにも関わらず、例えやっかいな加工であっても、必要とあれば挑んでいこうという意欲が仕上がりに大きな違いをもたらす。
ボクらの仕事というものはルーチン・ワークであったりやっつけ気分で臨むというものでもないのだからね。
そうした工程を口には笑みをたたえながら、淡々と向かっていくというのが信条とならねばいけないのかもしれない。
以上で木地加工を終える。
後は丁寧に拭漆にふさわしい素地調整(サンデイング)を行っていくことになる。
吸い付き

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