工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

なだらかな曲面の場合(鉋掛け技法)

曲面切削1
Top画像は3Pソファの正面の幕板の加工段階。(140W 2,050L)
この成形作業の途上。
シンプルな8,000Rの円弧
8mのビームコンパスを作り、工房の床にセンターポイントを打ち込み、加工材の方は道路にまではみ出させ、やっとのことで墨をする。
後は帯ノコでプレカット。
次に仕上げは手鉋。
うちではこうしたところは型板を作り、縦軸面取り盤(Shaper)あるいはルーターマシーンで倣い切削するのが一般的だが、今回は1枚だけなのでいきなり墨付け、切削という工程になる。
さてところで、この円弧の手鉋での切削成形はどんな鉋を使うのが良いのか。
うちには反り台鉋が大小様々、いくつも用意しているので、8,000Rということであればこの中で最もなだらかな下端(したば)を持つものが良いだろう。
、というのは間違い。


曲面切削2
既にプロのほとんどは、あるいはアマチュアでも経験豊かな人、あるいはまたセンスのある人にはお見通し。平鉋の小さなもの、いわゆる小鉋を用いるというのが正攻法。
実はこんな当たり前のことをボクは鉋を持って2年目の段階では恥ずかしながら知らなかった。
「あなたは良い鉋の使い手だが、これは少し違うね、こうしてやりなさい」と指摘してくれたのはJ・クレノフ、その人だった。
先日名古屋の「木工家ウィーク」の一環での「30人展」にはるばる飛騨高山から展示出展してきた永田さん、そして大阪の岩崎さんと、20年ぶりのクレノフセミナー同期会もどきに盛り上がって、他の会場出展者に顰蹙を買ってしまった3人だったが、この20年前のセミナーで巨匠を前に、なだらかな内丸の成形にしたり顔で反台鉋を使うというを恥を晒してしまったワケだ。
さて昔話に喜ぶのは関係者だけで読者にははなはだ迷惑な話であろうから元に戻す。
既にお判りかと思うが、反台鉋は反り台としての有用性が高い。しかしあれは相当の使い手でも目的とするRを正しく成形させるのは至難。
何故なら、反台の下端のRを維持しつつ削り進めるということすら実は困難で、どうしてもRは下端のRと較べ、小さく変形しつつ、えぐれていく。
これに対し、平鉋は例え2点接地の仕込みのものではあっても、それほど簡単には大きくえぐれていくことはない。
長台のような3点接地のものは論理的には平滑性が維持できるのに対し、2点接地のものは少しえぐれる感じで切削されるが、基本的には平滑に削るものと考えて良いだろう。
これを何故円弧状の成形に使えるかと言えば、被切削材に当てる下端の長さを任意に変えることで、本来は平滑に削れるものを、あえてえぐれるような使い方をすることができるという裏技(?)を活用するというワケだ。
さらには、この被切削材に当てる下端の長さを任意に変えることでえぐれるRを任意にコントロールできるということが重要な意味を持ってくる。
では具体的に「下端の長さを任意に変える」とはどういうことかと言えば、通常の使い方の小鉋を切削方向に合わせるのではなく、当て方を傾斜させる(被切削材との接地長さを少なくする)ことで簡単に、これが叶えられる。
この傾斜の度合いが変わることで接地長さが変わり、その結果Rも変化する。
少し細かなことで言えば、成形の過程で正しいRが作り出せていないような場合、これを反台で修正することの困難さは誰しも経験するところ。意に反して、余計なところが削れていってしまう。
しかしこの小鉋を用いる方法では、高い局部だけが刃に当たることで削られ、求めるR形状が比較的容易く作ることが可能。
つまり平鉋で平滑面を作る過程とそのプロセスは何ら変わることがない。
反り台各種すなわち、やはりここでも台鉋の優位性、つまりは台の定規としての機能を上手に生かすことで、目的とする平滑面も、あるいは曲面もその職人の望む形状に造り上げることができるということである。
残念ながら成形に利用することもできるサンダーではこうした規制がかからず、かなりの程度において、職人の経験とセンス、勘に頼るということになるだろう。(しかも加えて切削品質には大きな差がある)
手鉋はその鉋の固有の台形状によって、任意の形状へといざなってくれる有能な道具ということをあらためて確認することができるだろう。

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  • 高山の永田さんにはオークヴィレッジのセミナーで
    2度ほどスピンドルチェア制作の指導をしていただいた
    ことがあります。夜も食事をしながらお話を伺いました。
    もう7-8年前の話でしょうか。
    artisanさんと、そういうつながりだったとは知りません
    でした。
    少し話がずれて恐縮なのですが、このような、なだらかな
    曲面にさらに面取りをする時の話です。
    ルーターなどで面取りをする場合、必ず片方の面が
    かなりきつい逆目になります。
    通常、このような場合はどうするのでしょうか?
    今、ちょっと考えていることがあって、この話題に
    飛びついてしまいました。すみません。

  • acanthogobiusさん、永田さんをご存じでしたか。
    >オークヴィレッジのセミナーで2度ほどスピンドルチェア制作の指導をしていただいた。
    ダンディーですばらしい木工家ですね。
    確か彼はオークビレッジの創立者の方々が高山の訓練校に入校した時の同期ではなかったでしょうか。そんなこともありお手伝いされていらっしゃるようです。
    ルーターなどでの面取りにおける逆目対策ですが、ルーターのような上部に刃が位置するものでは逆目は避けられませんね。
    これに替えていわゆる1/2"縦軸面取り盤様の機械、あるいは一般にルーターテーブルと言われるテーブルの下にハンドルーターを取り付けるような面取り切削の場合では、進行方向を選択できますのでかなりの程度で逆目切削が避けられると言うことになります。
    なお余談ですが、縦軸面取り盤には、回転方向が逆のものを同一のワークトップに取り付けた2軸のマシーンもありますね(これはかなり危険な機械になりますが)

  • 早速のお答えありがとうございます。
    ルーターなどでは加工材が刃の左側に来るようにするのが
    普通で逆は危険とされています。
    ルーターテーブルなどで進行方向が選択できるとは
    言っても通常の進行方向と逆にすることは
    材が刃の方向に引き込まれる方向に
    力が働くので危険ではないですか?
    刃が逆回転するのであれば

  • すみません、話が途中で切れてしまいました。
    artisanさんお話しの2軸の面取盤や刃が逆回転
    できるシェーパーなどでは、この問題はクリア
    できると思うのですが。

  • ボクの説明が適正を欠いていたようで、誤解されたようです。
    >進行方向を選択できる
    ということは、被加工材の面を取る部位を、順目切削の方向で刃に向かうことができるという意です。
    ルーターマシーンでは被加工材が正四角形の断面でないとできませんが、テーブルの下から刃が出るタイプでは平角の断面のものでも形状を問わず、順目切削方向に進行させることが可能ということです。

  • 私の理解力不足で申し訳ありません。
    具体的にはルーターテーブルに45度のコロ付きビットを
    付けて、今回のような、なだらかな曲面を持った材の両角に
    角面を付ける場合を想定しています。
    まっすぐな材の場合は材を90度回転させる(横に寝かせる)ことによって順目切削方向にすることができます。
    しかし、例えば今回の一番上の写真の曲面の右サイドの角に角面を施す場合は材を送る方向は写真の奥の方からに限られて、逆目が避けられない気がするのですが私の勘違い
    でしょうか。

  • acanthogobiusさんさん、大変失礼しました。あなたの質問内容をは完全にき違えていましたね。ボクの回答は平角のもので、「なだらかな曲面」への角の面取りに関わる質問だったのでした。平にご容赦 !
    さて困りましたね。これだけ引っ張ったからには何らかの答えを提示したいところですが、この場合は難しいですね。
    さらにまた角面ですか。
    どうしても順目切削にこだわるとなりますと、仰る曲面の径にもよりますし、またその厚みにも関係してきますが、曲面側からのアプローチでなければ順目にならない場合には トリマーで角面取りビット(コロ付き)を使うという想定で克服できるかも知れません。
    簡単なジグを作ります。
    望む曲面Rより少しだけ小さいRを持った木のブロックを作り(断面が円弧状になる)、これをトリマーのベースとします。
    言葉での説明は難しいですが、円柱の一部を縦に切り取った形ですね。
    これをトリマーのベースに密着させ、この中央部、あるいは端からビットを覗かせ、波乗りのイメージで 面取りを行うという方法です。
    この場合、上述のように水平を維持し、安定加工をするためには被切削材側の厚みが関係してきます。
    角面ではその切削角が重要となりますので、円弧状のベースの水平安定性が必要。
    これを確保するためにはベースから直角に降ろしたフェンスが必要となるかも知れません。
    ┏━ の形状ですね。

    でもボクは角面のサイズにもよりますが、場合によっては南京鉋、反台鉋で面を取ると言う方法を取るかも知れません。

  • 理解しました。
    つまり上の写真の場合は上端の細い部分に、ある意味、綱渡りの
    ような状態でトリマーを走らせることになりますね。
    逆目でどの程度のトラブルが発生するか分からないのですが
    ビットが逆目に食い込むと少し怖いですが、あまり多くの量を
    取らないようにすれば大丈夫かもしれませんね。
    丸面の場合は一度に両側の面の取れるビットがあるようですが
    角面の場合は私が探した限りではないようでした。
    長々とすみませんでした。
    参考にして少し工夫してみます。

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