木工屋の日曜日は
しかし梅雨真っ只中、強い雨が終日降り続いた。
こうした過度な湿潤環境では木工の業務も制約を強いられてしまう。
ところで木工屋の週末は皆さんどのように過ごされているのだろう。
ボクは完全OFFとはいかず、デザイン・設計、経理、顧客対策など業務上のデスクワークで追われるのが通常のこと。
そこに加えて、幸か不幸か住まいと工房が隣接しているので、工房に籠もってしまうこともある。
何をするかというと、機械のメンテナンス、次に取りかかる家具制作の準備、例えばジグを作ることなど。
そして道具の整備、主には刃物の仕立てなど。
昨日は地域の老婦人が亡くなられ、その葬儀の裏方としてほぼ半日にわたって費やされたので、日曜日の今日は工房に半日籠もって刃物のメンテナンスに精を出す。
主には手鉋の整備。
日本の台鉋は多くの専門家が認めるように、世界広しといえどこれに勝るものは他にない。
しかしこれも普段のメンテナンスが行き届いてはじめて言えるもの。
鉋は使えば切れ味が落ちる。
刃を一定の基準に研ぎ上げ、また一方台鉋の命でもある下端を然るべく整えねばならない。
あるいは刃の方も研ぎ進めれば裏が無くなり、あらためて裏を出すための、“裏打ち”、“裏押し”といった作業が必要となる。
こうした一連の作業は、今日のような雨の日の静けさの中でやるのは悪くない。
工房のオーディオ装置へは〈AirMac Expres〉をLine接続し、ここにMacからiTunes音源をワイヤレスで送る。
ソースは弦楽四重奏、あるいはキース・ジャレットのピアノソロなどが良いだろう。
静かに刃物に向かい、劣化した切れ味を戻すために、一連の作業に集中して臨む。
ところでボクは、普段使いこなす鉋は必要となった場合にすぐ使える状態に管理している。
つまりいちいち鉋の刃を出したり引っ込めたりはしない。
多くの職人は使い終われば刃を引っ込めて仕舞う、ということのようだし、訓練校でもそのように指導しているかも知れない。
しかしボクは20年間そうしたずぼらな手法でやってきたが、問題を感じたことはない。
ただ家具制作工房でよく見られるように、鉋を外気にそのまま晒すような管理の仕方はしていない。
(良くあるよね、作業台の後ろの壁に数10台の鉋がこれみよがしに裸で鎮座させてあるの図、あれは鉋にとって良いことなのだろうかね)
ボクは全てワークベンチ(作業台)の下に整備したチェストの中に保管している。
そうした管理方法であるためか、鉋の下端の調整に過度に神経を使うことがない。せいぜい半年に一度の調整でもOKだ。
裸で環境に晒しているよりも、遮断した方がはるかに管理は楽だからね。
無論、これはほとんどの台鉋の刃口に施した口埋めに助けられているところも大きい。、この部分の摩耗は口埋め部分の出し入れ調整で簡単に行えるようにしているからね。
建築大工などは、過酷な作業環境の下で刃物を扱うことから、どうしても刃を引っ込めざるを得ないのであるが、家具職人はそうした配慮から自由であることの方が多い。
確かに使い終われば刃と台に油を注し、引っ込めて仕舞う、というのが本来のありかただとは思う。
しかし修行当時、いちいちのっそりと刃の調整をしていた時にずいぶんと親方に注意されたこともあるのだが、ボクのようなモウレツな家具職人としては、調子を出した状態をそのまま維持し、必要なときに瞬時に良い鉋捌きができるような管理方法が向いている。
ま、職人にも様々なスタイルがあるので、自身の業務内容、あるいは工房の環境に合わせた考え方で良いのだろう。
目的が高品質な木工家具を適正な価格で送り出すためのものであり、それにふさわしい生産性の高い環境が作れればOKだからね。
acanthogobius
2008-6-30(月) 12:45
「鉋を外気にそのまま晒すような管理の仕方はしていない」
素人目にも私もそう思います。
台についてもそうですし、刃の方も付いた埃が湿気を
吸い込んで良いことはないと思います。
私も刃物は全て引き出しにしまっています。
昔、「手づくり木工事典」の表紙に今回の下の写真と
同じような写真があったのを覚えています。
artisan
2008-6-30(月) 22:27
acanthogobius さん
>昔、「手づくり木工事典」の表紙に今回の下の写真と同じような写真があったのを覚えています。
言われて思い出しました。そうでしたね。
その画像を拝借すればもっと分かりやすかったかも知れません。
あの時の取材ではまさか表紙にまで使われようとは思いもしませんでした。
ちょっと書棚を探して、スキャンして再掲させたもらおかな(笑)