工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

2nd Home town〈松本〉

ボクの木工修行のスタートは、信州松本。
それ以前にも少しだけかじったことはあったが、実質的な修練の場は松本だった。
ただボクの場合、恥ずかしながら青年と形容するにはほど遠く、残された人生が見えてきた30代半ばからの転職であったため、わずかに数年の居留であったのは今にして思えば残念なこと。

しかし、タイトルの“2nd Home town”という形容は決して間違いでは無い。
経過した時間の蓄積量だけではなく、その密度、およびその後の人生を規定づけるものを育んだとするならば、その地は誰憚ること無く、“2nd Home town”と言ってしまおう。

小寒の週末、久々にこの地を訪れ、いくつかの懐かしいところを訪問。
友との邂逅を果たし、語り、そして呑み明かす。


そして帰還の途上、立ち寄ったのが、この「松風庵」
老舗銘菓店のお茶室だ。
ちょうどボクが松本へ移住した頃に新設された、モダン数寄屋風の建築物(1986年、中部建築賞受賞)。

印象深かったのは、石造り風の内外観、店内から望める中庭の佇まい、
あるいは鎮座するゴシック風のデコラティヴな飾り棚。

そして、驚かされたのがH・ウェグナーの「チャイニーズチェア」(および、同デザインの珈琲卓)がさりげなく客席として用いられていたことだった(評価基準としての市場価格は明かさないまでも、ウェグナーのこのボリュームの椅子としてはかなり上位にくることだけははっきりしている)。

それ1つ取ってみても、設計者、そしてオーナーの志の高さが推し量れよう。

市内には多くの素敵な喫茶ルームがあるのだが、それらには民芸家具が使われているというのが通例ながら、ここはそうしたお約束を超えたところでのクールな佇まいを提供してくれている。

当時のボクは修行僧の誰もがそうであったように、こうしたところで落ち着くほどの経済的余裕などありはしなかったが、しかしなぜが吸い寄せられるように月1度ほどは通い詰めた。

そして今回、久々にこの俗から離れた異空間に身を置き、花びら餅を味わい、抹茶をすすった。
ゴボウを巻いた花びら餅も独特の味覚ならば、黒茶碗の抹茶もまた、心を鎮め、無の世界へと誘うに十分な装置だ。

うれしかったのは、「チャイニーズチェア」が劣化することも無く、ご機嫌に迎えてくれたことだった。
その店柄からして、客も丁寧に扱ってくれるだろうことを期待できるし、店舗運営上からのメンテナンスも行き届いていたのだろう。

女性の責任者と少しお話しさせていただいたが、久々の訪問であることを伝えると、問う前にいろいろと語ってくれた。

この日の松本市内は「あめ市」とかでとても賑わい、車は渋滞に巻き込まれ、帰路が遅くなってしまったのは計算外だったが、それもまた楽しく受忍できたのも、ありがたき“2nd Home town”ならではだろう。

*参照
開運堂
松風庵

画像は〈なわて通り〉スナップ

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  • 大竹さんのブログに、杉山さんに似た人(笑)が
    写っていました。
    何やら新しい企てが進んでいるようで、興味深いですね。

    • acanthogobiusさん、憶測逞しいですね(笑)
      世の中には自分と似た人が3人いると言いますので、きっとそれでしょ。
      ほほほ‥‥

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