工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

例え銘木ではなくとも美しく

ブラックウォールナット
あるキャビネットを梱包しはじめていたところ、その手が止まった。
おっと、このまま我が手から離れる前にせめて画像として残しておかねば、と慌ててカメラを取り出し撮影する。
そのキャビネットの帆立に使われたブラックウォールナットの木理が放つ魅力にあらためて感動を覚えたからだった。
ブラックウォールナットという樹木の木理は実に多様、また色調も一様ではない。
少し前にも書いた(こちら)ことの繰り返しになってしまうが、ウォールナットがなにゆえに銘木とカテゴライズされるのか、ということも実は一様ではない。
いくつかの複数の要素において固有の優れた価値を認めることができるからである。
例えば、優れた物理的特性(重厚 = 堅牢、高度な靱性)、加工性が良いこと、あるいはまた色調豊かで美麗であること、といったように。
欧米においては古来より工芸品として最も良く用いられていた樹種の1つがこのウォールナットであったことは、そうした総合的な評価からのものであることは言うまでもないとしても、やはり何よりも“美しい”というところに多くの愛好家が魅せられてきたからに他ならないだろう。
材の美しさという好みの基準も様々だろうが、殊、色調における豊穣さという側面からすれば、画像のような表情を時折見せてくれるブラックウォールナットほどに魅惑的な材種はそうはないだろう。
画像のキャビネット帆立の板は、木理からすればその一般的な価値概念からすれば決して銘木とは言えない代物にすぎないが、しかしながら梱包の手を止めて画像に残しておきたいと思わされるほどに独特の美しさを放っていた。
褐色から赤紫、灰、緑、青、これらの色調が木理の縞状となって絡み、ここに交錯する形で不規則に縮み杢も表れている。
こういう丸太の場合、樹齢が長いということもその理由の1つだが、概しておとなしく保存性は高い。
つまりこうした板指しにしてもその構造的安定性は揺るがない。
今日はこの木理と並べ、ブラックウォールナットの別の角度からの魅力を撮影したいと考えたのだが、朝からのやや暖かい雨は降り止まず、自然光での撮影もままならず諦めざるを得なかった。
他でもない、その別の魅力とは柾目が見せるリニアなラインの美しさである。

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