工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

座刳り

座刳り
長月9月を迎えたというものの、今日の日中の暑さは盛夏の頃とあまり変わらないような体感。
猛烈な汗を流したのは椅子の座刳り作業によるもの。
シュッ、シュッ、と四方反り鉋の軽快でリズミカルな動きにより排出される鉋クズを見れば、快適で楽しそうな作業に映るかもしれない。
でも上腕筋肉の緊張した様子を見れば作業者に与えるその過酷な負荷はかなりのものがあることを示して明らか。
今回はブラックウォールナットであるので、比較的負荷は軽い。
ミズメ、真樺などを相手にした時などは上腕から肘から、腰から、様々なところがきしみ、翌日は腕が上がらなくなるほどのもの。
でも何故か、あまり忌むような作業でもない。
この座刳りという作業は椅子制作プロセスの最後の段階のものであり、これをやり終えれば完成を見るという、その安心感が腕の動きを促すだろうし、また座刳りそのものの特性からして嬉しい作業でもあるからだ。
通常、家具における木工加工とは、切って、張って、という積み重ねでもあるが、この座刳りという工程は彫刻的な作業であり、その手法の特異性からボクは喜々として臨むということになる。
平鉋、反り台鉋、四方反鉋、南京鉋、それぞれ大小数個づつの鉋を駆使して3次元的な座の窪み形状を作り出す。
掌に隠れるほどの小さな道具ながら、まるで手そのものが刃物になったかのように木片が排出されてくるというのは独特の感覚。
この日本の様々な小鉋というものは世界に誇るべきすばらしい道具だ。
座刳りも強力なサンダーがあれば、上腕をきしまさなくともさほどの困難さもなく出来ると思われるかもしれないが、それは少し違う。
望むべき形状への切削工程というものは、これらの小鉋の台鉋としての特性を生かし、作業者の練熟した使いこなしで、見事に仕上げることができるものだ。
サンダーなどでは、台鉋のような規制が働かず、一定の形状へと掘り進めることは意外と困難なことになるだろう。
週明けには、座を完成させ、塗装工程へと移ることで椅子の全ては終わる。

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