工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

大きなテーブルの場合

クルミ大きなテーブルの制作はいくつもの困難が伴う。
材料の手当からはじまって、納品搬入までのあらゆる工程において通常の作業工程とは異なる難しさがある。
いわば量から質への転換というものに近いものがある。
下衆の話しで言えば、等比級数で制作費用を弾き出せばとんでもないことになる。
そのいくつもの困難な工程の中で最も難しいものはやはりムラ取り、平面出しであろうか。また同じように矧ぎ口の加工であろう。
無論これらは手押し鉋盤での作業となるが、一般的な手押し鉋盤では長尺ものを目的とする切削面を得るのはかなり困難な作業となる。
手押し鉋盤の適正な調整の下でも難しい。
これは被加工物が手押し鉋盤の定盤(テーブル)の長さを大きく超えることで、本来の正しい姿勢で切削することが困難ということの他、当然にも被加工物がかなりの重量になることで、テーブルを越えたところから垂れてしまい、適切な切削ができなくなるという問題がある。


うちでは一般に矧ぎ口を取る作業は、手押し鉋盤をそれ様にに設定し直してあたる。微妙な中透きが一発で可能となる。
本来であれば、手押し鉋盤を2台設置して、その1台を矧ぎ口専用にしたいところだが、うちでは兼用している。
これがかなりのボリュームの長尺ものではなかなか適正にはいかない。
結局は何度か試みて、丁度良いところを実測して設定するということになる。
ちょっと余談だが、手押し鉋盤を正しく使うことは意外にも難しいものがある。うちにやってくる未熟な若者のほとんどは正しい使い方ができていない。
操作方法にも問題があるが、与えられた荒材をいかに歩留まり良く、かつ正しく平滑面を出すのかという基本が判っていない。
ただ無意識に平滑面が出るまで何度か通すだけ。
結果、左右の端末の木口の厚みが違ってしまう。つまりそれだけ歩留まりが悪くなる。
熟練者は、常に左右の端末の厚みはほぼ同じようにコントロールできる。
我々熟練の職人は、正しい平滑面を、最も歩留まり良く(無駄な削りを無くし)生み出すために、刃の出、材料の送りの操作、捻れている材料をどのように通すのか、様々な諸条件に合わせ、最も正しい方法を取るのだが、この一見簡単なことが未熟なものには困難なことであるようだ。
木工に限らずであろうが、工芸というような部類においては、いかに立派な教科書、テキストで学んだとしても、現場における熟練の職人の経験に越えるものは得難いのではないだろうか。
過去、同様なことを何度も語ってきたように思うが、テキストで語れることなどほんのわずかなものでしかない。良い職業人になるには書を捨て、現場から学ばねばならないということは箴言の1つである。
さて話しを戻そう。
長尺モノを手押し鉋盤で平滑に削るのが困難であると言うことは、当然にも矧ぎ口を取るのはより困難なことであると言えよう。
時には平滑に通す積もりが、材の重量という要素によって、意外にも適正な矧ぎ口となって表れるということがあるかもしれない。
これらは決して論理的に検証できるというものではなく、はやりその機械の癖であるとか、作業者の送りの癖であるとか、あるいは重量物ということでの送り操作のコントロール外の要素によって規定付けられてしまうということもあるだろう。
ことほど左様に重量物の木は想定困難な要素がつきまとう。
しかし今回の本くるみは、確かに足をこっぴどく傷めるほどの重量物ではあったが、とても良質なものだった。
ほのかにピンクの色調を帯び、柔らかく削りも容易い。今の時代にしては出来過ぎたクルミだ。

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