工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

強烈な作家志向を見る(小島伸吾さんの講演)

今日は家具作家・小島伸吾さんの講演が静岡市内で開催され、参加させていただいた。
ボクがこの仕事を始める以前から既に著名な家具作家として知られていた人だが、直にお話しを聞くのは初めてだ。
強い家具作家志向を見せ、強烈な印象を与えてくれる講演だったように思う。
これはボクにとっては決して想定外なものではなく、そうした意味では作品と作家が見事に一致した類い希な人物と言うことが言えるのかも知れない。
講演内容は、むしろあまりにも素っ裸に自己を晒し、小島伸吾という創作の源がいずこに存在するのかをあからさまに表白してくれたものだった。
自信にあふれ、周りが何と言おうと我が道を行く。事実、現代の木工家具界において常に先端に位置してきた人物である。
誰一人として歩んでいない道を切り拓き、頂点へ、頂点へと自らを押し上げていく姿は独壇場。
端々にこうしたところに記述するのを憚るような言葉を放ち、来場者を煙に巻くのだが、決して受けねらいで言っているのではなく、自身が普段考え、使っている言葉がそのまま、包み隠さず放たれてしまう。
そうした危ういものをも抱えた人物ならではの独特の魅力が、また彼が造る家具へと見事に投影されているのだろう。
様々な工芸美術品に魅入られ、クルマに魅入られ、女に魅入られ、美酒・美食を追い求め、それらを獲得するためにも、強烈な作家意識を堅持し、作品を生み出す。
会場は若い人も多かったが、彼の毒気に晒され、どのような感想を抱いたのであろう。彼ら自身がおかれている家具制作の現場での葛藤、若さ故の過剰な自信、そしてそれとは裏腹な不安。こうした様々なことを抱えた人への強烈な作家思考のシャワーはどのように作用したのかは知りたいものだ。
ボクが知っているプロの家具職人で彼の造形をマネる人は2ケタにもわたるだろう。弟子と言われる人は勿論、多くの影響を受けた人々は彼が造り上げてきた造形を追いかける。
しかし本人が語っていたように、誰一人として彼を乗り越えられる人はいない。それには彼自身不満でもあるだろうし、あるいはまた楽しんでいるのかも知れない。
(この講演会の主催者が用意したレジュメに記されたプロフィールが小島さんのものではなく、何を取り違えたのか、弟子のひとりのプロフィールが間違って印刷されていたことにも、作風の似ぐあいというものが推し量れる、ご愛敬ではあった)
ちょっと印象めいたことばかり記述してしまったが、造形の独自性、家具作家としての生き方など教えられ、あらためて小島伸吾という人物の作家性というものを目近に確認できたことは感謝したいと思う。
還暦を迎えたという小島さんだが、まだまだ活きの良い家具作家と見させていただいた。
今後どのような活躍をされるかは後塵を拝する我々にとっても1つの指標になるものであれば、ぜひ大きな夢を見せて貰いたい。
画像は会場内に持ち込まれた完成したばかりの漆卓を前に解説する小島さん。
小島伸吾氏

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  • 小島伸吾さんの講演、私も聞きたかったです。
    もうずいぶん前、趣味の家具作りを始める前に
    NHKの工房探訪という番組で初めて拝見しました。
    今でも時々ビデオで見ることがあるのですが
    「私には師匠はいません」と言われていたのが印象に
    残っています。

  • acanthogobiusさん 会場でもその放映ビデオが使われましたよ。
    同じ取材による書籍化「NHK工房探訪・つくる」は増版されていないのか、入手困難なようです。

  • 何年前でしょう(^_^;)大学の図書館でこの方の本を見て
    強烈な印象を受けた記憶があります。
    こういう方の家具が日本を代表する美術館の休息椅子として
    置かれる日がくるといいですね。
    勿論 artisanさんの椅子もね!

  • サワノさん、あなたも会場にいらっしゃるのかなと思っていましたが‥‥。
    Nさんにお聞きしたところ、お忙しいようですね。
    >こういう方の家具が日本を代表する美術館の休息椅子として‥
    そうですね。公的機関こそ、優れたアート&クラフトを買い上げ、支えねばならないところです。日本のアートメディアの眼は曇っているし、力もないしね。

  • この業界には、まったくの門外漢ですが、ひとつ問題提起させてください。
    だれでも、いつかは引退するときがくると思うのですが、技術の承継について、どのように考えているのでしょうか?
    これは一般論ですが、匠の技を承継させるため、世間ではエキスパート・システムを用いた試みがなされています。
    職人などのその道の専門家にインタビューして、必要なポイントを聞き出し、それをいわゆる navigation system のようにして再構成する技法です。
    たいがいのことは、ある程度まで、エキスパート・システムが有効に使えると思いますが、はたして木工の現場では、どうなのでしょうか?
    このような navigation system が、そのまま使えるのでしょうか? やはり、伝統的なやり方で、徒弟奉公しなければ、親方の技術は承継できないものなのでしょうか?
    きょうは、なんだか「社会の時間」みたいになってしまいましたが、ご寛恕を。

  • 風に吹かれて さん。このコメント欄でお答えできる内容でも無いように思いますが‥、
    木工技能などの伝承は、やはり熟練職人の元で修行するというのが正攻法だろうと考えます。
    しかし木工技能と言いましても様々な水準のものがありますので、かなりの領域においては1〜2年の履修期間の職業訓練校、あるいは適切な指導教官を擁し、充実したカリキュラムのある美術系大学などの教育機関などでの学習、技能訓練などを経て、現場に入り、実業の中から鍛錬していくという方法も有効だろうと思います。
    navigation systemということについてはよく知りませんが、今の時代、徒弟奉公というシステムは成立しがたいですし、かといって、それに代わる近代的システムが与えられているわけでもありません。
    結局、伝統的工芸としての木工技能というものは、親方、あるいは先輩のある種の社会的使命感にも近い志を担保として、後輩、新人へと技能を伝えていかねばならないという宿命にあるようです。
    欧州などではマイスターという社会的システムが息づいていて、新人教育に要する金銭的負担は国などからの補助がかなりの程度あるようです。日本では「伝統工芸は大切にしましょう」、などと言われていてもこうしたサポートは皆無に近いです。

  • カクタのトグルクランプ

    トグルクランプといえばカクタのトグルクランプが有名です。トグルクランプは溶接治具、検査治具、検査装置、固定金具などに用いられます。トグルクランプが使用される業界はさまざまです。

  • こちらの記事を読んで興味を持ち、さっそく 「NHK工房探訪・つくる」 を古本で入手しました。
    アマゾンでは3000円でしたが、日本の古本屋https://www.kosho.or.jp/servlet/topで検索して1400円でゲットしました。
    今日届いて読んでいますが、強烈な印象を受けます。
    小島伸吾さんは独特な強い個性を持った作家さんなのですね。
    知っていれば、なんとしても講演を聞きに行きたかったのに残念です。

  • 齋田さん、古本ゲット、良かったですね。
    講演の機会は、いずれまた訪れるのではないでしょうか。
    東海地域では以前は名鉄での個展が多いようでしたが、最近はどうなのでしょうかね。

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