工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

〈天声人語〉から知人木工家の活動を見る

食後朝一番にやることの1つが朝日新聞コラム〈天声人語〉に目を通すこと。
この〈天声人語〉、今のコラムニストに替わって2年ほどか。
50代半ばの編集委員だったと思うが、博覧強記のライターとしてペンをふるっている。
そのやや過剰とも思えるメタファー多用が少し臭すぎるなと思いつつも読み流している。
今日の記事はそれを問うものではない。
今朝の〈天声人語〉、読み始めてすぐに誰のことを取り上げているのかが分かった。
甲府在住の木工家、荻野雅之さんの活動を取り上げていたのだ。
ボクが初めて東京国際家具見本市に出展したとき、同じグループに名を連ねたメンバーだったし、その後新宿OZONEにおける常設展示でもブースを並べた。
そして時期を違えたが、OZONEから撤退したという経緯も似ている。
彼はその後、このコラムで紹介されている通り、積み木活動で華々しく名を上げた。
すばらしい活動だと敬服している。



なお彼はボクが木工の基本技術を習得した松本の訓練校の数年先輩に当たるし、OZONEに至る経緯までは関連するいくつかの会議に席を並べたりしたのでその人となりは知悉している積もりだ。
才能豊かだし、商売も上手。
やや過剰とも思える表現スタイルは、ボクとしては少し苦手だったのでさほど深い交流にはならなかったものの、その才能については高く評価し、距離を置きながらも敬服できる人として見ていた。
朝日新聞〈天声人語〉で評価されれば、今や名実共に押しも押されもせぬ木工家ということになるだろうか。
信州の訓練校からは多くの才能豊かな木工家が輩出されている。
指導教官からは良く聴かされたものだ。
お前たちの年度が一番ダメだった、不作だったな、と。
ボクは1年間の履修期間に婚礼セット、ライティングビューロー複数台、スカンジナビアンスタイルの大きなデスク、両袖三面鏡、バタフライテーブル等々、数多くの家具を制作したが(参照)、去年はもっともっと作った奴がいたぞ、と高くなりかけの鼻柱をへし折られたものだ。
この荻野さんも、そうした才能豊かな訓練生だったのだろう。
そして今、積み木を通して、子供達に物事を成し遂げることの大切さ、人との協同作業の大切さを伝える活動に専心している。
すばらしい公的な活動と言えるだろう。
ボクのような木工職人としてもその活動は誇らしく思う。
社会的に注目される活動というものは単に豊かな才能だけでは為し得ない。
その活動への熱い思い、そして困難を突破する強い意志とともに、周囲を巻き込んでいく人間的な魅力が伴わないと大きなうねりにはならない。
そしてこれらに加えて、あえて強調したいのがインディペンデンスのスタンスではないだろうか。
なにものにも依存しない、無所属での自立、自律したスタンスでのすばらしい活動であってはじめて、その高い資質が社会的に正しく評価される。
日本での傾向として、とかくこうした人へは妬み嫉みがつきまとうようだが、そうではなくむしろ近い距離にあるボクたちこそ、こうした人を持ち上げ、木工という切り口での社会的活動への積極的評価をしていきたいものだと思う。
昨日も若き木工家の起動を取り上げる記事だったが、こうした有能な人材を引きずり下ろす方向ではなく、堡塁となっていただき(ごめんなさい 苦笑)ともに明日を切り拓いていくために、歩んでいけたならと思うね。

閑話休題。
明日はサッカー日本代表、対韓国戦だね。
ぜひ良い試合をしてもらいたい。
岡田ジャパンのこのところの無残な戦い方には、FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会への期待を削ぐものとして澎湃たる批判がわき起こっているわけだが、それらを吹き飛ばすスカッとする試合内容を見せてもらいたい。
個人的には本田選手の活躍を注視していきたいわけだが、あの少しとんがった物言い、スタンスが日本チームには欠かせないファクターだ。
2日にわたり取り上げた少しとんがった木工家も、同じように日本の木工界を活性化させていくファクターだろう。
‥‥‥‥‥、
今日は若い女性木工家から、ある相談を受けていた。
この記事の荻野さんと、ボクと同じ訓練校の後輩に当たるが、仕事と人生に関わる話だ。
ボクにできることは人生訓を垂れることなどではなく、その人の思いを客観的に整序させるためのお手伝いと、一歩を踏み出す勇気を与えてやることぐらいだ。
その人に備わった力を信じてやり、押し出してやることだ。
2010/05/23 付け、〈天声人語〉

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