工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“手作り家具”と機械設備(その7)

機械のセッティングに関する問題について (その2) 

〈角のみ盤〉

角のみ盤という機械はたいへん便利な機械だ。
加工材に穿つホゾ穴を任意の場所に、任意のサイズの角穴を確実、簡便に空けることができる。
無垢材を対象とする家具制作加工においては必須の機械。

ただ機構構造的な制約から、常に設定された位置に穿たれるという保証があるわけではないというところが少し悩ましい。
その誤差はわずかに0.1mmとか0.3mmといった単位であるが、しかし一見この見逃しても良さそうな誤差は、仕上げ過程で余分な削りを強いられ、あるいは構造的な寸法精度の劣化として結果する。
これはそれれぞれの機械の固有の問題と言うのではなく、角のみ盤の機構が有する普遍的な問題になる。

この問題にはいくつかの要素があるが、その最大の問題は角のみの刃であろう。
角のみの刃は、箱のみと心錐の2つで構成されるが、いずれもその機構上、一定の長さを持たせてある。
一般にブラケット下の長さは10cmほどになるが、この長さにより被加工材の堅さ、部位、細胞配列に影響を受け、わずかに歪みを生じることで垂直に掘り進んでいくことを阻害することがある。その結果前後のブレが生じ、ホゾとホゾ穴の関係は設計上と異なった結果となってしまう。


これは如何に鋼材(恐らくは炭素工具鋼)で作られた刃物ではあっても10cmという長さであれば避けられない問題であろう。
したがってこれは調整の対象にはなり得ないこととなるが、そうした認識を普段から意識することで影響を最小に止めるという配慮はできる。

角のみカミソリさて次は調整が可能な項目。
いわゆるカミソリと一般に称される摺動部の調整については慎重に行おう。

定盤の昇降の摺動部、左右テーブル移動の摺動部などだ。
これが緩んでいると、被加工材から見て左右のブレが生じてしまうのは必然。
ロックされたWボルトナットを緩め、摺動のスムースさを確保しながら、かつぎりぎりタイトに締め込んでやろう。(無論、摺動部にはしっかり油を差してからだ)
なお、これは機械全般、共通に言えることであるが、こうした摺動部には常にオイラーでマシン油を供給してやることが肝要だ。
摺動を助けることで、精度も確保され、作業も軽快になる。

また刃物の管理だが、特に心錐については焼きが戻らないように作業することにしたいもの。硬い木を対象とする場合、あまり急いで彫り込もうとすれば、耐熱限度を超えて、煙が出て、刃の焼きも戻ってしまうだろう。

刃の昇降はオイルダンピング、エアダンピングなどの機構を有する機械も多いと思われるが、スピード調整が可能であれば、適切な調整が必要となる。

〈自動一面鉋盤〉

自動一面鉋の調整というのも大変重要である。
この機械を通した木材部品が、その後の様々な加工に供され、家具を構成する1部品となるので、切削不良を起こしたり、寸法精度が基準内に納まらないと、設計通りの仕上げにするには多くの困難が伴うと言うことになる。

本来の切削性能を維持できれば、その後の加工も、仕上げ削りも少ない作業量とストレスのない環境で進めることができるだろう。
この自動一面鉋という機械ほど調整如何で良い削りもできれば、そうでない場合もあるということではもっとも高い知識、経験が要求される機械だ。

うちでは10年ほど前に、国内では最も高い品質を持つと言われるK製作所の600mmのものを導入したが、それ以降は大きなトラブルもなく、再調整に迫られるという事もなくなったのだが、それ以前は大いに学習させられた。
その学習のテキストとして活用させていただいたのは、児玉 實氏(木工加工技術コンサルタント)のテキストだった。
既に故人となってしまった人だが、ボクはある図書館で過去数10年間にわたる『室内』(工作社)のバックナンバーを全て見渡し(通読というほどまではとてもいかなかったが)、必要なところをコピーしていた中に、この人のテキストがいくつか出てきたのだが、とても実用的、かつ有用な手引き書だった。あらためてこの児玉氏に感謝したい。

詳細を書き出すと大変だが、略記してみよう。

  • まず前後のローラーより長く、1.5寸厚、2.5寸幅ほどの正確な定規を2本用意する。(長期に使うので、硬木で素性の良い柾目を用いる)
  • 送り出しローラー、送り込みローラー、プレッシャーバー、チップブレーカーはそれぞれ大きく余裕を持って上げておく。
  • 定規を前後のローラーの上に、左右は均等になるような位置に平行に置く。
  • 刃先がこの定規に触れるかどうか、というほどのところまで定規が載った定盤を上げていく(鉋胴を手で回転させながら、この定規にかすかに触れるところ辺りまで)。
  • 次に前後のローラーをこの定規のところまで下げてドンと載せてしまう。その位置でナットを慎重に締め固定させる。プレッシャーバー、チップブレーカーも同様に定規のところまでドンと降ろす。これらはその後少しだけ戻す(0.1〜0.2mmほど。調整ネジ半回転ほど)

たったこれだけ。そう、たったこれだけで恐らく良い削りができる。

下部ローラーは良く言われるように葉書1枚ほどの厚みで定盤より上げておくのはもちろん。

ただこれらは被加工材が適切に木取りされていることが前提となる。
つまり一気に削り代を5mmも10mmも取らねばならないようなものは、如何に良い調整がされていても、変調を来すのは当然と言うこと。

木工機械について書かれたテキストには、恐らくはかなり細かにチップブレーカーは刃先線より何mm下げろ、プレッシャーバーはどうしろ、と書かれていたり、硬木はこれだけ、軟材はどれだけ、と被加工材ごとに示されていたりするのだが、現場の実態としてはいちいち設定変更もできないし、細かな設定には無理がある。

さらに重要なことは刃は良く研がれたものであること。
この刃は以前も述べたように硬木を専らにするならば一般に用いられるハイス鋼よりも超硬刃を使うのが圧倒的に良い(桐、杉、檜などは別)

また裏刃も重要。あまり良くない機械の場合、この裏刃がとてもずさんな仕様になっていることが多い。(鋼の品質+刃先の精度)
使用すればヤニがこうしたところに付着しがちなので、刃物の交換の時に良く除去すること。削り代にもよるが、本刃との関係は0.3〜0.5mmほどに設定(あまりタイトにすると良い切削肌が求められない。

鉋胴への取り付けはセッティングゲージなど個々の機械の指定の方法で中央部から左右均等に外側へと締め付けていく(この際締め付けボルトに油を差すこと)。
なお刃物は専門の研磨屋に依頼するのが一般的だろうと思うが、杜撰な研磨屋では、3枚、あるいは4枚の1セットの刃物の研磨量に差が出て、それぞれの重量差がでるようになることがあるが、これも高速回転する機械には過度の負荷になるのでバランスのチェックも怠らないようにしたいもの。

なお他の機械についても、それぞれ重要な項目があるが、ここでは「機械のセッティングに関する問題について」は以上としたい。
アホなことやってるね、キミハ‥‥全く。などと声が聞こえてくるのでね。

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.