工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その8)

枘の割り付けを合理的に考える(図面からの再論)

160610a

本件、一連の記述に対応する図を示します。

逐条的にすべてを書き込めるわけでもなく、基本的な理解に供することができれば良いかな、という程度のもので恐縮至極。

普段の仕事においては、ほとんどまともな図面など書きません。
だいたい、1/10の平面図でバランスを確かめ、ここに修正を施し、
その家具、固有の接続部位の仕口のみを1/2、あるいは原寸で書き足す、といった程度です。

誰に見せるものでも無く、自身への注意書きといったところ。

前置き、言い訳はこの程度にして、さっそくいきます。

標準的なキャビネットを素材として

図面の家具は、ありふれたキャビネットです。
私にとっては標準的なスタイルですが、この「標準」というのもクセもので、100人の家具職人がいれば100通りのスタイルがあるかもしれません。

加え、「家具作家」などと自称する人であれば、理解を越えた仕口も産み出され、もっともっと多様であるのかもしれませんね。

基本的な仕様は以下の通りです。

  • 構成:本体、扉、供に框組、2杯の抽斗と観音開きの扉
  • 寸法展開:框(柱:27×60 mm)
    扉(縦框:22×45mm)
    鏡板 13mm
    後桟(上:27×60mm、下:27×120mm)
    他、省略
  • 代表的な仕口:帆立は蛇口(馬乗り)、扉は面腰(几帳面)
  • 材料:主材は無垢材、一部合板

帆立の框組み

160610eこれも極めて標準的な框組みの構成です。

仕口は蛇口で表裏ともに平面、ツライチ(面一)の仕上げになります。

ただ、上部に抽斗がきますので、この部分にはスリ䙁が設けられます。

枘の納まりですが、蛇口ではありますが、枘そのものは芯芯で中央に配置されます。

上下末端はいずれも15mmの肩を残します。上下ともに隠れてしまいますので、小根を残します。
(後述する扉は、上下共に見え掛かりですので、小根は付けません)

その反対側、鏡板が納まる側は7mmの肩を残します。

これは鏡板が納まる小穴がくるところだからですね。
鏡板の伸びが5mm、小穴は1mmのクリアランスを見込んだ6mmの深さ。
これに干渉しない7mmという計算。

鉋イラスト

ただこれには限りません。肩を付けず、二方、三方胴付きとすることもあります。
(松本民芸家具などは、こうした考えが標準)
これは、例え干渉しても、枘の強度において、さほど影響しないと考えるからです。

ただし、小穴の位置と、枘穴の位置関係は、どちらか一方が同一、密着することが重要なポイントです。
なぜかと言いますと、ずれた位置、例えば枘幅のどこかの位置に小穴を配置すると、それこそ干渉し、設計通りの位置に納まらないリスクがあるからです。
枘幅のどちらかの位置に密着させることで、干渉すること無く、設計通りに納まるというわけです。

160610bなお、鏡板の位置ですが、枘幅の外側から内側に向かい6mmの小穴を穿ち、ここに12〜13tの厚みの鏡板が納まりますが、帆立の表面からは1〜2mm沈んだ位置関係にあります。

決して外には出しません。
意匠的な要請もありますが、組みあがった後、メチ払いなどの仕上げ削りの際に、鏡板に干渉させないという配慮もあります。
あまり沈ませては格好良くないしね。

無論、もっと厚い鏡板を使いたいということであれば、枘幅の内側に小穴を密着させ、15〜16mmの厚みで綺麗に納まりますね。

この辺りの合理的な思考をぜひ理解して頂きたいと思います。

鉋イラスト

スリ桟の納まりですが、これも次ぎに述べる胴桟と同様に、鏡板に密着させ、片胴付きにします。

というよりも、ここでは鏡板の内側の厚みは13mmしか残っていませんので、必然的に片胴付きにするしかないわけです。

スリ桟は帆立の厚みに加え、抽斗の側板が載っかる15mmほど伸ばし、併せて28mmの幅で木取ります。
そして 棚口の厚みに合わせ、L字型にシャクルわけです。

なおこの時、正面、見付け側は棚口の位置まで、延ばし、密着させねばいけません。

背中側も同様、胴桟の位置まで延ばします。

そして、ここにグルリと(棚口ースリ残ー胴桟ースリ桟)小穴を穿ち、地板を納めます。
これによって、上下、完全に密閉状態となります。

なお、このスリ䙁の納まりですが、私もこの方法が合理的であると考え、これを基本としています。
松本民芸家具でもそうでしたし、横浜クラシック家具でも同様です。

ただFWW(『Fine Woodworking』)などの事例では、棚口に枘を活けているケースが多いようです。
一長一短でしょうか。

因みに、上下端の棚口の枘の納まりですが、一般にはその厚みは27mmと薄いので、枘は上、あるいは下に開いた状態で納まりますので、ここはスクリュー釘(フロア釘)などで打ち付け、抜け防止をせねばなりません。

欧米では、この部位を蟻の枘で納めることが多いようです。
柱、および帆立側の上桟、2ヶ所に蟻の枘を活け、抜け防止を行うようです。

なお、スリ桟ですが、今回のように煽り止めと、受けを一体化させた方式では無く、この帆立の前後の柱の棚口の位置に、同厚みのスリ桟を打ち付けるケースもあります。
この場合、このスリ桟の外側に6mm合板を打ち付け、煽り止めとします。

帆立・框組みの見付け方向

見付け側には棚口、台輪などの部材が枘で納まります。

まず棚口ですが、45mmの幅を持たせてありますが、枘は2枚枘
寸法割り付けは、上述の框組みと同様の位置関係にあります。

外から8mmおいて11mmの枘穴。
2枚目の枘もひっくり返して、同様の割り付け、つまり対象とすることで作業の合理化も図れます。

つまり、これらは帆立側の枘の割り付けそのままです。後述するように、背板も同様。
事ほど左様に、統一化を図っているのです(今回はあえてそのように設計したという嫌いも無くは無いですが、キホンは同様です)。

因みに、束の2枚枘も同じです。

民芸家具ではあえて2枚にはしていないと思われますが、強度、剛性を確保するためにも2枚枘はぜひ施したいところです。
強度、剛性は2倍どころでは無くその数倍も向上します。

帆立・框組みの背板側

160610c背板側も、帆立側同様の位置関係で上下の桟、および貫が配置されます。

同じであるということは、単に作業の合理性を考慮しただけのことではなく、枘穴が同一位置関係であることで、設計通りに納まりやすいからです。
これをビミョウに変えてしまうと、双方に逃げ方向の力が作用し、うまくありませんね。

特段の理由が無いかぎり、そのように考えた方が良いでしょう。

鉋イラスト

抽斗がくる位置に、胴桟が設けられます。抽斗の受け桟を支えるための部材です。

なお、民芸家具では、抽斗の底板は合板を使うケースが多いのですが、この抽斗の正面の面合わせは、実は胴桟にストッパーの役割を担わせ、底板の接触によって行っています。
(つまり、あらかじめ底板は少し余裕を持って設計、加工し、抽斗の仕込みの際に、この底板を削り合わせて、位置決めをします。

この胴桟の枘位置は、背板の小穴に密着させる位置関係にあります。
いわゆる片胴付きになります。

これは加工精度を確保するための考え方です。
芯芯で枘を決めようとしても、微妙なずれが起きがち。
ここはあえて背板に密着させることで、胴桟の位置は簡便にかつ、高精度に決めることができます。

この胴桟は構造的な要求によるものではありませんので、位置関係の精度を重視するための手法で、あえて片胴付きで行います。

なお、仕様のところにも書きましたように、背板下桟は120mmとしましたが、これは地板を余裕を追って受けるための幅になります。

この地板ですが、正面の棚口を扉の幅(奥行き)分、奥まったところに扉のストッパーを機能させるためのシャクリを施し、このツラの位置に地板が納まるように考えているわけですが、棚口の後ろ側を地板厚みのところに小穴を穿ち、ここに段欠きした地板を噛ませ、接着剤で固定させます。

この地板ですが、帆立側は前方、1/3ほどは接着剤を施しますが、残りは自由に動けるようにしておきます。
帆立側の框組は伸縮しませんが、無垢材の地板は伸縮しますので、これを固着させてしまったのでは、間違いなく破損します。

そうした事例は幾度も観ています。
無垢材ならではの必須の手法です。(板差しであれば、構造的強度の面からも完全に固着させてしまった方が良いわけですが、框組の場合には逃げが必要というわけです)(本稿、続く

hr

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