“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その7)
枘の割り付けを合理的に考える
高品質な家具作るのには様々な要素があるわけですが、そうした中にあっても枘の設計、加工が重要であることは疑いありません。
このあたりのことについて少し詳しく考えてみます。
建具屋の場合
以前、建具屋の工房にお訪ねし、少し驚くことがありました。
枘の設計に関わることです。
私は框組の枘に関しては、特段の理由が無いかぎり、芯芯に開口し、枘を立てるのを基本としています(無論、例外は多々ありますが)。
ところが、この建具屋さん、ケースバイケースでどちらかに寄せている。
これは、そこに納まる羽目板、ガラスなどの納まりを考慮し、もっとも合理的な位置に枘を立てるという考え方であるようです。
彼らのほとんどは、枘加工は「枘取盤」で行うという機械設備からも、そうした考え方は合理性のあることなのでしょう。
つまり「枘取盤」で枘を芯芯に付けるというのは、むしろ至難と言った方が良いという理由が考えられます(私が保有する「枘取盤」はアナログなものですので、そう感じてしまうからなのかも知れませんが)。
しかし、「枘取盤」を用いず、昇降盤と角ノミといった汎用機械で枘加工するという家具工房での一般的な作業環境では、芯芯に枘を立てる方法が、より高精度で、作業性も早く、合理性に富んでいるということが言えます。
角ノミ機の特性と限界、その克服
その理由ですが、角ノミ機での枘穴開けについて考えてみます。
角ノミ盤という機械を高精度に設定するというのは、実はかなり難しいと考えられます。
これは過去3〜5台の角ノミ盤を使ってきた経験的なところからの評価です。
まず最初に、相応の時間を掛け、シビヤに設定したはずのものが、いくつもの枘穴を開けているうちにどちらかにずれてしまいがちなのです。
これは被加工物が複雑な細胞で構成される、有機植物の木材であることに拠るところもあるでしょうし、あるいは、機械そのものの構造的な制約からのものでもあるでしょう。
いずれにしても、昇降盤などの他機械と比較し、細密なレヴェルにおいては、さほど信頼できないのがこの角ノミ盤という機械です。
そこで、この弱点を克服しつつ使いこなしていくわけですが、これにはいくつかの方法が考えられます。
- 芯芯に設定したとしても、ずれてしまった場合、再度、こんどは被加工材をひっくり返し、逆側から開けるのです。
枘の厚みは変化してしまうものの、とりあえずはどちらかに寄ってしまうことを回避することができます。 - 次ぎに、頻繁に芯芯であることを確認しつつ、修正を施しながら作業を進める、という方法があります。
こうしたaboutでやっかいな機械であるということから逃げられないのが角ノミ盤です。
ところで、この芯芯であることの確認ですが、皆さんはどうされているでしょうか。
まず考えられるのは、ノギスで計測する、という方法があるでしょう。もちろん、この方法でもある程度は可能ですね。
「ある程度」というのは、ノギスでは局部的な測定しかできず、実際に枘を立てた場合の誤差を想定することはかなり困難な方法と考えられるという意味においてです。
加工しようとするパーツと厚み、および枘のサイズ、それぞれ同一のものを用意しておきます。
これを開口した枘に実際に打ち込み、左右のズレを確認し、このズレがゼロになるまで設定の調整を行えば良いのです。
私の場合、1つのピース両端に、片方はタイトに、逆側は少し緩めに、といった差異を設け、それぞれで確認します。
この方法がもっとも精度高く、かつ簡便に確認できます。
ところで、この方法の場合、オスの枘が正確であることが大前提ですが、このオスの高精度な枘加工は決して難しいものでは無く、芯芯ということであれば、昇降盤で簡単に作成可能です。
前にも書きましたとおり、部品の寸法をある程度統一しておけば、この角ノミでの開口作業も、より高精度に、より作業性よく進捗させることが可能となります。例えば、框組、帆立側の縦框、横框の枘、そして背板の上下の桟の枘、さらには棚口においても、同一の位置関係で枘を立てれば良いでしょう。
ただ、この場合、幅、厚みが異なってくる(角ノミ定盤からの高さが変わってくる)ので、角ノミ盤の精度が良くないと、芯芯のつもりが、どちらかに寄ってしまうことが起きがちであり注意を要します。
また棚口、あるいは束などでは可能な限り、2枚枘で加工したいところですので、もう1ヶ所、開けることになりますが。これについては後述します。
片胴付きの有用性
主要な部材については、こうして芯芯に開けたり、2枚枘にしたりするわけですが、場合によっては片胴付きにする場合もあります。
キャビネットの抽斗の位置で、背板の内部側に密着させて設ける胴䙁などです。
この胴䙁は構造体としての主要部品ではないため、あえて2方胴付きにせずとも良いと言う考え方になるわけですが、枘の開口位置を、背板に接触させて開けることで簡単に位置決めできるというメリットを買うわけです。
二方胴付きにあえてしたいということで、シビヤに墨付けし、開口したとしても、完全に背板の内側にピタリと接触させることは、たぶん難しいことになります。
そうした余計なリスクを取るより、どうやってもピタリになるように、背板の小穴の位置に接触させて、開口させれば簡単ですし、結果も良好な納まりになるわけです。
(少し細かい話になっていますが、こうしたことは、教科書などには触れられていないでしょうが、いわゆる職人仕事の小技として、兄弟子から教えられ、連綿と伝えられていくわけです)
因みに片胴付きですが、私は椅子の貫(傾斜した枘になります)にはこの片胴付きを用いる事が良くあります。
これは東京・芝の椅子職人の親方から伝授された考え方でもありますが、
傾斜枘を付けるのも、片胴であることで作業性が良くなりますし、貫としても機能も十分に果たせるというわけです。
面チリの場合の枘割り付け
さて、框組の納まりに於いて、先に述べた蛇口(馬乗り)、面腰の方法以外、面チリという納まりもあります。
比較的一般に用いられる、合理的な手法の1つですね。
接合する部材が、同一の厚みでは無いというケースになります。
しかしこの場合も、上述と同様、同一寸法で木取りし、芯芯で枘加工すれば良いのです。
そして、小穴を含み、すべての加工を終えた後(仕上げ削りの前段階)、片方だけ、面チリ分(2〜4mm?)を削れば良いのです。
横框が薄くなる分だけ考慮し、別個に枘の位置を設定するのではなく、あくまでも他と同様に加工を進め、最後に横框の外部側だけ薄くすれば良いわけですね。
二段枘などの場合の枘割り付け
さて次ぎに、幅の広い横框(桟)の場合、2段の枘にするケースも多いと思います。
この場合の割り付けですが、これも上下、同一の割り付けで設計、墨付けましす。
結果、上端(あるいは下端)側と、もう片方とでは、枘の長さが変わってくるでしょうが、これを同一にする必要性はさほどありませんね。
むしろ、加工精度、および、作業性の高さを追求すべく、枘設計した方が良いという考え方です。
機械加工で枘を開けるという、そのメリットを考えた場合、眼で墨を追うより、機械の圧倒的な精度保証、加え、その方法の至便性に信頼を置き、中央に割り付けるのが賢明な手法なのです。
二段の枘の、それぞれの長さが同一であらねばならない理由など無いのです。
そんなことに配慮するより、真っ二つに割った方が、イージーですし、また高精度に加工でき、結果、その接合度に変わりは無いのです。
枘の墨付けについて
枘の墨付けですが、芯芯で開けるわけですので、厚み方向の墨は無用。幅方向のみで十分です。
手ノミで開ける場合は、厚み方向に白書き、毛引きなどで墨付けする方法は有用ですが、機械加工で開ける場合は、無意味です。
私などは、角ノミ盤での最初の設定、位置決めの際、テストピースで、テキトーなところに、まず開口し、ひっくり返し、開口、その差異を数度の修正で、ゼロにしていくわけです。
時には、鉛筆を持ち出し、手に持った鉛筆で毛引き様に左右に墨線を引く。
しょせん、毛引きで引いたライン上に正確に角ノミの刃を設定することなどできるわけもなく、あくまでも目安的な設定しかできないものであり、上述したように、差異を縮める手法でやらざるをえず、それに寄する程度のアバウトな墨付け、つまり全く無用か、あるいは簡単な手毛引きで十分なのです。
キコル修羅ABE
2016-6-8(水) 09:23
ガイドあて、芯位置と刃先の動きズレありなし。
画像いらすとでご教示いただければ最高でし。
枘鳥なんてみたことないひともいるし。
本質を突いた身体記憶でピントくるオペレーションでし。
いままでこんなことをいう親方はなし。
このくらいピントくなきやあほかといわれたくなし。
キコレーズの手元より。
artisan
2016-6-10(金) 20:45
確かに、ホゾ取盤という機械を使うどころか、見たことも無い人もいるかもしれませんね。
以前にも書いたように思いますが、建具屋では必須のマシンですね。
一般には4軸の構成(4つの駆動モーターが付いている)
と言う構成。
このカッターブロック、およびカッターの位置決めがキモなのですが、なかなかやっかいです。
そのために、加工対象が少ない場合には使いません。
昇降盤でシコシコ加工した方が早いこともあります。
またうちで、この機械を導入した理由ですが、キャビネットの枘加工というより、椅子など、不定型、あるいは曲面のある部材に枘を付ける場合、汎用機の昇降盤では、とても至難な加工工程になりますが、このホゾ取盤を使えば、ジグさえ作れば、意外に簡単に、高精度に加工が可能という、その貢献度に対しての評価からです。