工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“手作り家具”と機械設備

先のサンディングに関わる記事は執筆者の思いとは遠く、あまりコメントも寄せられることなく沈んでしまっているが、これはそのまま評価として受け止めるとしても、サンディングを離れて機械設備一般について少し考えてみよう。

これは難渋な文体に付き合っていただいたようであるacanthogobiusさんから寄せられたコメント「個人工房での機械をどのように位置づけているのかポリシーが少し解った」というものにインスパイアされたものである。

ところで、このBlogで相互Linkいただいているユマニテという人がいるのだが、あくまでもBlogを介した関係でしかないので面識もなければ、プロフィールもあいまい。また独立経営している木工家ではなく、どうも椅子の試作、制作を基軸とした業務内容の木工所に勤められているキャリアの職人さんのようだ。
この木工所は彼のBlogでは明記していないが、ただボクが知らないだけで、どうも首都圏の業界ではとても有能で力のある椅子制作のノウハウを持ったところとして有名なのだそうだ。

決して彼の方からLinkを求めてきたわけではなく(かえって迷惑かも知れないしね)何故Linkしたかといえば、以前このBlogにコメントをいただいてから、彼のBlog(■■木工所のに−さん奔走す■■)を通して、ただただ仕事の内容がおもしろく、良いスキルを持って、常に新しいデザインにチャレンジしている志がうれしいからだろうね。
もとより、Blogに綴られている仕事を離れたオフでの日常にも若い知性というものを感じさせられ好感を持つ。ハンドルネームもだけどね。

さて、あなたの椅子造りは“手作り”なのでしょうか、との問いをユマニテさんにぶつけてみれば、何と応えるだろうか。ハハハと笑い飛ばすだけじゃないかな?


設問が全く本質的意味を成していないことぐらい、彼には即座に理解できるだろうからね。
Blogを見ていると、この工場は決して過剰なものではないが、必要にして十分な機械設備があり、これを有効に駆使している様子が伺える。
無論、貼り付けられる画像から憶測するだけであるが‥‥。

徹底した汎用機械の使いこなしと、また一方の手鉋、鑿など伝統的木工具にもこだわり、これも縦横無尽に使いこなす。
ボクから見ればこれは決して特異な木工所の職人のスタイルというよりも、優れた木工品を作る木工所としては、ごく普通のスタイルだが、あえて言えば様々な一線級のデザイナーの試作から制作まで、何でもござれの能力を持つと言ったところか。

この、何でもござれの、懐の深い、あらゆるクライアントの要望に応えられるような業務内容の設定が、そうした機械設備の整備と、また伝統的木工具の使いこなしという必然的な結果として表れているのだろう。

しかし恐らくは、それらはボクたち工房スタイルにあっても大いに参考になるスタイルであるに相違ない。
ボクのところも、比較的似たようなところがあるからね。
またもし彼が独立するようなことがあれば、基本的な設備内容は、ほぼ同様なものとなってくるのだろうね。
これは言うまでもなく、それらがなければ、制作における加工精度も出しづらくなり、生産性も大きく損なうことになってしまうことは必定だから。
これまで機械の導入をためらっていた職人が、ある1台の機械を設備し、これを使いこなし始めれば「何でこれまで導入をためらってきたのだろう」と自分の不明を恥じることなどはいくらでもある。
もはやその加工精度の高さと、生産性の数倍の向上に、以前のスタイルに戻ることなど考えらないほどに。

また同じく相互Linkしている「家具工房ディスクリートチェア」の森下さんの椅子の仕事もとても見事で、完成度の高いものを創り出すクラフトマンだが、彼もまた機械の使い方を良く知る人だ。
モダンデザインのスタイルというものをポリシーにしているだけあって、マシンエイジの子として、そして日本の伝統的木工をよく知る木工家として、手業の駆使とともに、汎用機械の使いこなしの中から、優れた椅子群を産み出す人だ。

あるいはまた若い頃、技能五輪日本代表でもあった旭川のD氏も、とても機械から産み出されたものとは思えぬようなディーテールを見せ、そのフォルム全体に有効な味付けを与え、そのアイディアあふれる仕口には追随を許さぬ職人技の究極を見せてくれる。

いずれも近代デザインの時代に生きる職人として、とても美しい表情を創り出す人たちだ。
彼らにも同じく“手作り”なのでしょうか、などという設問は意味を持たない愚問でしかないだろう。
というワケで、以下、次のような内容で少し考えてみようと思う。

  • 優れた木工家具を制作するには、どこまで機械を設置すれば良いのか
  • 機械導入によって、制作のスタイルが変わることに懸念はないのか
  • “手作り家具”のイメージを大事にしたいのだが、機械導入でこのイメージが損なわれるのはまずいのでは
  • 電動工具で十分だから機械はあまり導入したくない
  • 職業木工家という立脚点(アマチュアとの違い)

(このところ、猛烈に忙しいので、数回に分けざるを得ないことをおゆるしいただきたい。なお、異論反論も多そうな問題設定であるので、どうぞ遠慮無く下さい)
明日は天気のようだね。うれしいね。てるてる坊主の効果、かな。
あ、それとユマニテさん、森下さん、許諾も得ずに勝手に俎上にしちゃいスミマセン。
間違いもあるかと思いますので、ご指摘下さい。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • こんばんは。
    耳たぶまで真っ赤になるような褒められ方で
    ちょっと困惑しています。
    artisanさんのおっしゃる<ごく普通のスタイル>というのはまさにそのとおりで、都内には3〜4人でまわしている木工所がけっこうあるみたいです。
    機械ですが、手押し鉋、自動、昇降盤なんかの基本セットの他にあると良いと思うのはホゾ取り盤です。
    特に椅子を作るなら絶対です。
    それとこのエントリーとは直接関係ありませんが
    デザイナーって実力のある人ほど製作側の話を良く訊いてくれるんです。長さんなんかわたしみたいなものにまで
    『よろしくお願いします』と頭を下げられます。
    木工家にもそういうことってあるんでしょうかね。

  • ユマニテさん、困惑させスミマセン \(__ )
    “ホゾ取り盤”、全く同意します。
    この機械は一般的には建具屋さんが框組みのホゾ加工に用いられる機械として認識されていますが、ユマニテさんが“絶対”と言われるように、椅子の様々な不定型なホゾにはとても有効です。
    うちでも少量生産のためもありますが、キャビネットよりも椅子の時の方が活躍しているかな。
    いずれまた、詳しく記事にしましょう。
    >長さん=長 大作さんですね。ボクも懇意にさせていただいていますが、それも彼の腰の低さ、からでしょうか。
    >木工家にもそういうことってあるんでしょうかね
    ハハハ、ご批判として受忍すべきかも。
    *注:ホゾ取り盤
    4軸(丈決めのクロスカット+上下のホゾ取りカッターブロック+縦軸面取りカッター)で、一気に蛇口(=馬乗り)などの仕口とほぞを成型加工してしまう多機能な機械。椅子では角度を持った台輪のホゾ、あるいは円弧の部品へのホゾ付け、などに威力を発揮する。

  • おはようございます。
    設備といえば、うちもホゾ取りは欲しいとこですが未だ導入できていません。
    今度静岡では有名なハットリの軸傾斜の中古を月賦で購入する事にしました。

  • TABULA RASAさん、服部の昇降盤、ですか。
    これまでも必要にして十分な軸傾斜を設備されていましたが、海外の木工機械製造会社がコピー商品を作っちゃうほどの、類種では最高峰のマシーンへとたどり着いたというワケですね。舌なめずりしちゃいます。
    TABULA RASAさんのホゾ取り盤への評価はユマニテさんの推奨を補強するものですね。
    月賦でも何でも、中古品で出物があり、必要なものであれば即ゲットですよ。
    カネなどはその機械がいくらでも産み出してくれます。

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