工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“手作り家具”と機械設備(その3)

木材加工機械をどこまで導入すれば良いのか
(承前)
うちの機械のラインナップはWebサイト「木工家具の工房 悠」の対象ページに記したとおりであるが、これらは無垢材を対象とする木工房の1つのケースとして参照していただけるだろうと思う。

機械設備というものは当然にも制作対象の内容によって規定されるものであり工房のスタイルにより一様ではないが、以下のような理由によってそれは1つのスタンダードといえるのではないかと考えられる。

うちは無垢材を基本素材とし、キャビネットから脚物、あるいは木工小品までを製作対象としている。
またキャビネットの構造は框(かまち)組みから板指し(いたざし)までと様々なスタイルを取る。
(大型プレス機も設備されてはいるが、これは主にボデープレス的使用法のためであって、フラッシュのスキルはあまり無い)

つまりは無垢材の仕事であれば、かなり広範な領域で対応できるように設備していると考えても差し支えないだろう。
またいずれの機械も専用機というよりも汎用性に富んだものであるが、これらは加工目的に応じて如何に使いこなすかという職人的スキルの方が要請されると言えるかも知れない。
少し具体的に見ていこう


まず無垢材の加工において必須の機械設備は以下のようになるだろう。
(ここでは各機種を個別具体的に解説する場ではないので、概説するだけに留める)

〈丸鋸傾斜盤〉
縦挽き、挽き割り、横挽き、溝突き、面取り、段欠き、などと、木取り段階から始まって、様々な加工において高頻度で使われる機械だ。
テーブル傾斜および軸傾斜の2つに大きく分類される。

〈手押し鉋盤〉
一般に流通している無垢材というものは原木から製材され、さらに所定の工程を経て乾燥されたものになるが、ボクたちはこれを入手し加工の場に供給される。この荒木を加工工程に廻すにはまずは平滑な面を作らねばならない。そのための機械がこの「手押し鉋盤」。作業者が手で押しながら削るので手押し鉋盤と呼ぶ。平滑面が出たならば次に一般には直角面を出すことが求められるが、これもこの機械で簡単に作ることができる。
能力は定盤の幅、および長さ、あるいは鉋胴の刃の枚数になる。

〈自動一面鉋盤〉
手押し鉋盤で作られた平滑面を基準として、対面する側を、一定の厚み規制をしながら平滑に削る機械。
これも能力としては定盤の幅、そして材料の送り速度、および鉋胴の刃数(一般には3枚〜4枚)ということになるが、とても複雑な機構を有する機械であるために、その性能の違いには大きなものがあるようだ。

〈角鑿盤〉
様々な寸法の鑿を装填し、被加工材に任意のホゾ穴を穿つ便利な機械。

恐らくはこの4種の機械は欠かせない基本的設備と考えて良いだろう。

個々の機械の能力についてはここではひとまず問わないことにする。
ただ1つだけ確認しておきたいことがある。
木工機械は実にローテクでアナログなものだ。確かに現行機の多くは寸法設定などはデジタルに替わってきているし、刃の交換もずいぶんと楽になってきている。
しかし重要なのは求める寸法精度にしっかりと加工してくれる能力の方だ。
したがって基本的仕様がしっかりしたものを求めるべきだろう。

木材は重量があり、切削工程というものは機械にとってもとても過酷な作業になる。
しっかりとした駆体を持ち、機械精度が高く、酷使に耐えるものを選択すべきだろう。
アマチュアの方はともかくも、職業木工家ともなれば、連続使用に耐えられ、過酷な使用環境に耐えられる基本的能力が無いとダメ。
具体的には駆体は良質な鋳鉄(いもの=ダイキャスト)を用いたものが望ましい。鉄板では酷使に耐えられない。
海外のものでは鉄板のものも少なくないようだが、これらは内部にウェイトを備え駆体の軽量をカバーしている。
また鋳鉄にも品質の差異があり、信頼のおけるメーカーのものを、信頼のおける機械屋のアドバイスを受けて選択すべきだろう。
このような基本設備にはぜひ高い能力のものを導入したいもの。

うちではほぼ満足できる内容のものを導入している(手押し鉋盤については305mmという幅に不満があるが)。
必ずしも最初からこれらを設置したわけではないのだが、いずれも何故無理してでも最初から導入しなかったかと後悔した。
軸傾斜丸鋸盤にしても、自動一面鉋盤にしても、それまでのものと比し、とても同じ機械とは思えないほどの能力を発揮してくれることに、あらためて高精度の機械というものについての認識を新たにさせられたものだ。

もちろん機械を導入するには相応のカネが必要だろう。
しかし職業木工家による仕事というものは、アマチュアのそれとは異なり、これらの機械はいずれ十分に償却に値する能力をもたらしてくれるものであり、長期的展望にたって構想すべきだろう。
良い機械加工環境というものは、良い木工家具製作に欠かせない。
快適な作業を約束してくれ、また優れた木工家具制作に大きな助力を与えてくれるものとなる。
半端は一番良くない。

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.