工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ClaroWalnutの李朝棚

主要な部位にクラロウォールナットという稀少材を用いた二層の李朝棚です。

私はこれまでも好んでこうした取り合わせを行ってきましたが、こうした異種な試みが成功しているかどうかはご覧になる人、使い手にゆだねられるということになります。

有難いことに、それまでこの材種を知らない顧客にも高く評価され、喜んでお求めいただいているという事実もありますので肯定的に捉えたいものです。

今日はこのクラロの飾り棚について、その構成と意匠などのご紹介です。

構成、意匠

間口が2.5尺強、高さは6尺ほど。

以前、展覧会用に制作したものは、これより少し大きなサイズになりましたが、住宅の調度品としてはこの程度のサイズが納まりが良いようです。

特徴的な柱の構成と造形ですが、上下二層の構成をより視覚的に表すため、上部を細く絞り込んでいます。
これは柱だけではなく、同位置にくる左右の帆立、前後の棚口なども同様で、上下に段差を付けた意匠にしています。

また一般的な構造ではなく、柱は45度捻る(ひねる)ことで造形的な妙味が醸されています。

観音開きの扉については後述しますが、框組では無くフラットな構成にしており、左右の柱を45度捻ることで、凡庸に陥るのを避け、見付全体の印影を豊かに見せています。

この設計は制作加工上、数倍難易度を増すことになりますが、そこは作者の心意気というものです。

上下2枚の天板ですが、これは前部は完全に駆体に接合、固着させていますが、後ろ半分は左右の横框、後桟に穿った小穴に嵌め込み、自由に動くようにしています。上下ともに一枚板の無垢材を用いていますので、伸縮を前提とした処理になります。

材種・CLARO

今回、Claroを用いたのは正面の扉2枚と引き出し、そして左右の帆立の羽目板です。
いずれもClaroの特質を表していて雅味がありますね。

扉はClaroの根上の部分で多くの瘤杢(Burl杢)、あるいは縮み杢(カーリー杢)が醸していますし、引き出しは、よりClaroらしい特有の色調豊かな杢をブックマッチで構成しています。

帆立は見事な縮み杢が出ています。1.5尺近い幅広の一枚板です。

他、2枚の天板などを含め、全てブラックウォールナットですが、いわゆる市場に出回っている製品としての木材ではなく、手づから原木丸太から、製材、乾燥管理した材ですので、色調豊かで、Claroひけを取らない品質のものを用いています。

扉の構成

顧客の要望で、扉を含め、全てを無垢材でとのことでしたが、この場合、扉をどのような構造にするのかが大きなポイントになります。

無垢材ということを前提に考えた場合、無垢材の特質である、反る、曲がる、伸びる、縮む、といった物理的なネガティブな要素を排除するため、框組で構成し、ここに一枚板を嵌め込むというのが一般的です。

この框方式では扉1枚に付き4本の框部材が必要となり、この縦横の部材が意匠を大きく規定付けることになります。
しかし、私はこの扉部分はあくまでもフラットな構成とし、良質な材だけで見せたかったため、框組の方法を取らず、別の方法を選択しました。「ハシバミ」という手法です。

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画像にある通り、扉の材の両木口に別の材を嵌め込んでしまい、幅広の板目方向では避けがたい反りを防いでしまおうというものです。
ただ接着剤で接合するのではなく、扉材の木口に溝を開け、ここにクサビ状にハシバミを咬ませるわけです。
しかもハシバミというのは一般には表部分にもこのハシバミが表れてしまうものですが、これではせっかくの意匠が台無し。

そこでハシバミはあくまでも裏側だけで処理するという方法を取ります。
(少し具体的に紹介しますと、表側1.5分ほど残し、この延長線上にハシバミの溝を付けます。裏側は扉本体とツライチで処理)
これにより、扉材の反張を抑えつつ、扉としての機能が維持され、Claroの美しさをそのままシンプルに押し出すことができます。

なお、材の伸縮についても考慮されねばなりませんが、板材を徹底して乾燥管理しつつ制作しています。
引き出しの引き手は、ローズウッドの工房 悠オリジナルのハンドメイドです。

引き出し

家具をデザイン、制作している方には既にお分かりかと思いますが、引き出しの前板ですが、左右の端はインセットで、中央はアウトセットになります。
中央には仕切りの束があり、ここは見せずに、後ろに引っ込んでいます。

下にくる扉の召し合わせが1本のリニアなラインであり、これに合わせた意匠的な処理ということです。
私が考える意匠とは、そうした統一的で整合性があり、何気ないところにおいても意識的な処理を施すということです。

1つ1つのディテールも、その構造体において、適切な意味づけが重要だとの考えからですね。
そうでないと独善的でキッチュなものに堕してしまいかねません。
こうした考えに至るまで30年掛かりました(ウソのようなホントの話し 汗; )

丁番、引き手

丁番は目立たなくしたいという考えから、ヒンジを用いています。
平丁番ですと、左右の柱が飛び出ている構成のため、開口可能角度に大きな制約を課すことになりますので、ヒンジという選択はその意味でも合理的ということになります。

言うまでもありませんが、こうした李朝棚にスライド丁番などという選択はありえません。

引き手はローズウッドのハンドメイド。工房 悠のオリジナル。


顧客宅の居間に納まった李朝棚

顧客宅の居間に納まった李朝棚


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  • スタイルが安定してきました。代表作の一つですが
    違う樹種では雰囲気がガラリと違うかも。
    白樫か青樫ソリッドで注文板スべく
    ぽちぽち貯金いたしませう。
    制作記録図面はありますか

    • コメント ありがとうございます。
      本来、この種の李朝棚の材種は粗末なものの方がふさわしいのかもしれませんね。

      ザックリと、しかし気品高く、知的に作る、ってのが良いわけで、私のようなやり方は邪道なのかもしれません。

      一度あらためて、国産材を用い、品良く作ってみたいです。

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