工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ロクロ職人との歓談

テーブル類製作(ダイニングテーブル、センターテーブル、椅子等)も大団円。
昨日から塗装を始めたが、幸いにして天候も回復。春の日射しがまぶしい。
オイルフィニッシュの作業環境は乾燥した空気の十分な換気(空気の移動)が必要なので、窓を開け、ドアを開け、換気扇を回し、乾燥を促進させる。
塗装の乾燥を待つ間に近くのロクロ職人の工場へ出向いた。
工房を立ち上げて以来の付き合いだからほぼ20年ほどにもなろうか。
若い頃、松本民藝家具専門店の仕事をしていて、ロクロ成形をすることも多く、よく世話になっていた。
最近ではもっぱら自分のデザインのものばかりで、あまりロクロ成形は好まない(デザインでの制約が出るため)ということもあり、依頼の頻度は少なくなっているとはいえ時折こうしてお願いしている。
ろくろ確かなロクロ技術と成型におけるデザインセンスが秀逸な職人だ。
無名の職人ではあるけれど、その技能にかけてはあらゆる賞賛の言葉を捧げて惜しくない人だ。
ボクが探し出してからと言うもの多くの人に紹介してきたし、懇意にしているある準大手の家具メーカーの社長からロクロ職人を紹介してもらえないか、との依頼の斡旋にも応えてくれ、今では彼の技能なくしてはプロパー家具製品の製作もままならないのではないかと思われるほどに貢献度が高い人である。
ロクロ技能というものは、一見簡単に思えるかも知れないが、それは間違い。
まず自身でふいごの火起こしから始まり、バイトを打ち出す技能も必要だ。
常に良く切れるバイトの状態に維持することは一般の木工現場で要求されるレベル以上のものが必要とされるだろう。
成形の技法においては数種類のバイトを自在に操り、目的とする形状に削りだしていく職能が必要だが、樹種に知悉し、熟練を積み、ロクロデザインへの深い理解と、経験も必要だ。
別の職人に依頼したこともあったが、刃のキレも悪ければ、複数本の同じデザインのものであるはずが、それぞれの形状、胴付きが微妙に違う、ということがあった。
イメージで表現すれば、1つ1つの形状にメリハリが無い。だれている。総じて鈍くさい。
ロクロ成形というものはエッジが効いていて、バランスが良く、美しくなければならない。
今日は2週間ほど前に依頼しておいたある家具の脚部のロクロ成形が仕上がったというので取りに出掛けたのだった。
数種類、計23本のものが仕上がっていたが、いずれも望み通りの形状に仕上げてくれていた。
同種、複数本のものでも全く同一の形状になっている。決してテンプレートで倣い加工されたものではなく、手バイトを用いノギスで慎重に測定しながら仕上げたものだ。
まさしく職人技というものだ。
S字カーブの膨らみと絞りの寸法バランスなどは、なかなか伝えられるものでもなければ、意匠における感性も豊かでなければ削り出せるものではない。その職人技と、意匠のセンスには脱帽するしかない。
またこの職人はとても研究熱心で、様々な工夫を考えてくれる。
木のスクリューなどはその1例だが、テーブルの脚でもフロアスタンドなどの長いものへでも、スクリューを持ち込むことで、ジャストフィッティングの技を見せてくれる。
いつものことだが今日もしばし、歓談。
たまたま上述したメーカーからの依頼のウォールナットの脚ものが並んで置いてあったのだが、同じウォールナットでも、ボクの方は原木からの製材によるもので、本来のウォールナットのチョコレート色をした魅力ある材質であるのに対し、そのメーカーのものはくすんだ色合いのものだった。
似て非なるものが並んでいる。
このロクロ職人曰く「同じウォールナットで、どうしてこんなに違うのかね……」
少しボクからウォールナットについての蘊蓄を聞いて貰う。
所謂、乾燥製品として輸入されるウォールナットのそのほとんどが人工乾燥過程で、作為的に品質をコントロールさせるのだが、その結果このような魅力を損ねるようなものとしてしまう。
どういう事かというと、若い樹齢の木だと白太が多いので、そのままでは市場に出せない(ブラックウォールナットの白太は致命的)。そのために人工乾燥過程で、赤身の色を白太に移行させる、という操作を行う。その結果、白太はやや黒ずみ、まぁ、許容できる範囲の 色に変化する。だがしかし一方の赤身の方は、ウォールナット特有の様々な色調の絡みなどの魅力が損なわれ、ただのくすんだ暗灰色に脱色されてしまう。
この職人のところにロクロ加工依頼してきたある木工職人曰く「最近のウォールナットは白くなってきていて、昔のように良いものは少ない…」と言ったそうな。
それもまた米国現地乾燥材を購入したことによる人為的なものであることを知らないだけなのだろう。
確かに量産工場向けとしては、歩留まりも良く、価格も数分の1なので、貢献度も高い。
だがしかし、残念ながら本来の色ではないので果たして同じブラックウォールナットと称して良いものかどうか、はなはだ首を傾げざるを得ない話ではあるだろう。
良質なものを求める人には、そうした情報も適切に伝えてやってもらいたい。
(実は材木屋もそうした情報はほとんど明かさないという実態が問題なのだが)

《関連すると思われる記事》

                   
    

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.