工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

抱え込んでしまった山のような家具材

旧倉庫内

梅雨の頃から真夏に掛け、材木との格闘を余儀なくされ かなり疲れも溜まってていたのですが、このところの少し秋めいた大気に覆われ、心身ともに充実、再起動させ、若いViolinメーカーからの依頼による本格的なヨーロピアンタイプのワークベンチの制作を進めつつ、今年末の納品に向けた大きなボリュームの仕事の準備に入っているところです。

家具材の求め方

今日は抱え込んだ材木についてのお話しを少し。
家具材の調達方法は様々ですが、私は原木丸太を求め、これを様々な用途を想定しつつ、様々な厚みに製材し、土場での桟積みをしつつ天然乾燥を施す、というのを基本スタイルにしています。

そのためにはある程度の敷地に天然乾燥を施す土場を確保し、乾燥後の保管管理のための倉庫も必要になってきます。

個人の木工家にとっては、こうした整備は決して容易なものでは無いかも知れません。山間地であればともかくも、私のように東海道沿線の地方都市の街中では決して容易なものではありません。

その結果、原木丸太から準備することを諦め、その都度、市場から調達するという方法に依らざるを得ないことになります。

倉庫からゾロゾロ出てきた大きな板

この2つのどちらが良いのかという選択にあたっては、結局はどのような木工をしていくのかというスタイルに関わってくる問題ですので安易な答えは避けねばなりませんが、私にとっては訓練校在校時から丸太製材による材木確保を始めおり[1] 、その後もこのスタイルをかたくなに踏襲しつつこれまでやってきたところです。


倉庫移転

さて「材木との格闘」のお話しですが、最近まで使っていた土場(約150坪) 兼 倉庫(15坪のプレハブ)は、旧工房の隣接地の借地に置いてあったものですが、これが地主の新たな土地活用の意向で撤退せざるを得なくなり、新たな倉庫に移送させ、それまでの倉庫を解体する一連の事業に関わることです。

この作業にはいろいろありました。

小型のフォークリフトを倉庫内に保管していたのですが、稼働率が悪く、メンテンナンスが行き届かない、などを原因とする駆動不全でフットブレーキが効かなかったり、クラッチの繋がりが悪かったりと…

この時季の長雨で土場に雨が染みこみ、フォークリフトの重い図体を支え、駆動させる地盤の強度が得られず、結局20mm厚の専用鉄板を数枚敷いて事なきを得たり…(画像右)、

4tユニック車がバックした際に、隣家のフェンスを傷付けたり…、
と、まぁ、いろいろあったわけですが、ほぼほぼ順調に推移。

いくつかの業者を動員しつつ、大仕事になったわけですが、今後、長期運用での体制を考えた時、必須の事業ですので、これを終えた今は安堵の気分で満たされたものです(ま、慣れない仕事から解放された気分というのが正直なところですが 苦笑)。

プレハブ倉庫の解体作業

倉庫解体、材木移転作業も終え、一安心といったところですが、このための旧工房の片付けの過程で大量の残材、端材が山のように排出されてしまってます。

これらのほとんどは工房の暖房器具である薪ストーブの薪として使われることになりますが、この整理もまた大変。
こんなことを言えば、北海道、信州などの寒冷地の木工家に嗤われてしまいますが、2台ある工房設置の薪ストーブの消費量から、薪用として結束された材積はたぶん数年分ほどにも。

合板の切り落としなども多少は排出されましたが、これらは木屑専門のチップ工場に引き取ってもらいました。9円/Kg という分かりやすい単価で引き取ってもらえるので助かります。

抱え込んでしまった山のような家具材

さて、この旧工房へと搬送を終えた材木。
ケヤキ、キハダ、ミズナラ、木曽檜、真樺(ウダイカンバ)、ミズメ、鬼クルミ、榀、桂、ブラックウォールナット、クラロウォールナット、ブラックチェリー、メイプル、マホガニー、ローズウッド、等々。

移送先の旧工房は40坪ほどのスペースですが、この2/3ほどを占めるほどに、堆く積まれた乾燥材。
今後、様々な材種を均等に使っていくことができれば、私が仕事からリタイアするまで(=墓場に入るまで?)使い続けられる、やや呆れるほどの材積であることにあらためて気付かされたものです。

でも材種のバランスを考えた時、決して需要に沿ったものということには為りがたく、かなりバランスは大きく崩れていってしまうでしょうね。

エクステンションの爪が必要となり新規購入

これは今後大きな問題になっていくのでしょうが、今からそれを考えても詮ないことです。
所与の前提に立ち、最良の木材を用い、顧客の依頼に応えていくというのが私のスタイル、ということでやっていきましょう。


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❖ 脚注
  1. 訓練校入学前、多少木工に携わっていたことで、木工家具の主材である材木の確保の重要性は大切であるという認識があったため。また周囲にはそうした情報を与えてくれる先輩らがいたという環境も。 []
                   
    
  • NS材ストック マテリアルトリートメント木守り の重要性を開陳して板だけると有り難い。 自然乾燥は、室内と屋外、林縁と平地でも随分ちがいます。樹木の抗菌性、湿気や電磁波吸収、酸アルカリ薬物放射線の耐性など、活きている自然素材の良さは失われない。人乾材は自然素材を高温焼き殺し。現代は、木材は自然でいいという刷込で擬木プリント人工合成建材や家具が蔓延。貴重なNS材は、材色も優れ、熟成で富貴化、美質増幅。工房悠にオーダーできる人は幸運ですね、是非、刃物あたりの違い、木味についても言及してください。適任ですから期待します。abe 

    •  Abeさん、コメント感謝であります。
      乾燥工程の問題に関する知見ではたいへん示唆的でありがたく思います。
      過去、大変忙しい時期にあっては、天然乾燥を経た上で、人工乾燥を施すという2段階でのプロセスを採っていましたが、今はさほど忙しくもないので、天然乾燥のみでじっくりと干すようにしています。

      確かに、天然乾燥も置かれる環境によりかなり効果も違ってくることは体験的に知っていますが、それ以上に、不等沈下しない土場の確保だったり、雨よけはもちろん、木口の保全などの対策は重要ですね。

      “手作り家具”といったり、“無垢材”使用と言ったキャッチーな物言いの前に、いかに木材が有する本来の美質、物理的特性を引き出してやるのかが、木工における私たちの最初の仕事であるようです。

  • 先日、応援でお伺いした木工所。待った無しの最前線、フラッシュ家具のポリメラ製作でした。その時の仕様が、見附3ミリ楢材貼と図面指示。すると、眠っていた宝刀をそれぞれ持ち出し、研ぎ場が渋滞。長年お付き合いのある工場ですが、はじめての光景でした。微笑ましかったです。ただ、光った見附を染色しにくいという理由で、ペーパーで荒らす光景もありました。

    先生が以前、書かれておりました。

    そのプロセスの巧緻は目に付きにくいところに痕跡として残され、あるいはその後の仕上げ工程に影響を与えてしまう、というのも真実です。

    さらには先人から継承され続け、またその過程で進化してきた道具は、それもまた木工のエッセンスの1つであり、これを使いこなすことが技術の伝承でもあり、さらなる進化へと向かう発条にもなるでしょう。

    こうした先人が開発への意思を引き継ぎ、後から来る世代に正しく伝えていくというのも、その世代に与えられた使命ですね。

    現場で、痛感する日々です。

    • フラッシュを基本とする木工所でも、時には手鉋にご登場願わねばならない時もありますからね。
      その時のためにと、普段から道具の手入れに余念のない職人もいれば、他方、錆びるに任せる職人もいることでしょう。

      そこには職人の道具への関わりが如実に表れてしまいます。先人から連綿として伝えられてきた木工芸への敬意と感謝、それらが意識下において発動され、研場に向かわせるものなのかもしれません。

      ヒラタ先生の教え子にもそれらのエッセンスは十分に伝わっているはずです。

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