工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その10)

枘の割り付けを合理的に考える(図面からの再論・その3)

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扉、戸の框組

扉および戸の框組に関する枘の割り付けですが、駆体の帆立そのものとさほど変わりませんので、特筆することは無いでしょう。

ただ数点、知っておいていた方が良いだろうと思われることなどにつき、思いつくままに記述していきましょう。

リストすれば以下のような事柄になります。

  • 面腰の枘に関するチップス
  • 蛇口の枘に関するチップス
  • 戸の建て付けに関するチップス
  • 扉、戸のへのガラスなどの納まりについて
  • 扉の召し合わせについて

以下、逐条的に解説を試みたいと思います。

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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その9)

枘の割り付けを合理的に考える(図面からの再論・その2)

前回、基本的なエレメントに関しては解説してきましたが、いくつか残余のところを下手な図面と供に公開していきます。

ところで、キャビネットの構造には、大きく分けて、框組み、板差しの2つの方式があることはご存じの通りです。

私個人としては、それぞれの特性、意匠、駆体のボリューム、などから選択するわけですが、比率としては50:50といった感じでしょうか。

框組と板差し

框組と板差し

框組と板差し

何が何でも板差しで、などと頑なな考え方の人もいるでしょうが、そうした狭隘な考え方は賢明ではありませんね。
当地でも、何が何でも全て無垢材、板差し、というところもありますが、ワードローブなんて、木の固まりのようなもので、厳つさだけが先立ち、とてもクールとは言えない佇まい。

例えば、私のワードローブでは、扉は無垢材としての素材感を訴えた意匠を特徴としていますが、駆体そのものは框組です。
双方の特性を取り入れた造形、構成です。

逆に、Room Dividerなど、無垢材をシンプルに見せたいということであれば、こうした板差しに天秤差しというのは、クールです。

ここでは扉も框組ではなく板差しです。(実際は天然物の高樹齢の木曽檜のリニアな木目を活かし、これを単板に挽き、ラミネートさせ、伸張、収縮を殺した構造です)
このページにも解説しておきましたが、余分なものを排し、木曽檜の美しさだけで見せたいという考えからの意匠であり、構造でした。

このように、目的とする構成、機能、フォルムを導き出すための、多様な意匠、造形を産み出してもらいたいと願うばかりですが、そのためにも板差し、框組、それぞれの考え方、技法を習得したいものです。
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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その8)

枘の割り付けを合理的に考える(図面からの再論)

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本件、一連の記述に対応する図を示します。

逐条的にすべてを書き込めるわけでもなく、基本的な理解に供することができれば良いかな、という程度のもので恐縮至極。

普段の仕事においては、ほとんどまともな図面など書きません。
だいたい、1/10の平面図でバランスを確かめ、ここに修正を施し、
その家具、固有の接続部位の仕口のみを1/2、あるいは原寸で書き足す、といった程度です。

誰に見せるものでも無く、自身への注意書きといったところ。

前置き、言い訳はこの程度にして、さっそくいきます。

標準的なキャビネットを素材として

図面の家具は、ありふれたキャビネットです。
私にとっては標準的なスタイルですが、この「標準」というのもクセもので、100人の家具職人がいれば100通りのスタイルがあるかもしれません。

加え、「家具作家」などと自称する人であれば、理解を越えた仕口も産み出され、もっともっと多様であるのかもしれませんね。
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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その7)

枘の割り付けを合理的に考える

高品質な家具作るのには様々な要素があるわけですが、そうした中にあっても枘の設計、加工が重要であることは疑いありません。

このあたりのことについて少し詳しく考えてみます。

建具屋の場合

以前、建具屋の工房にお訪ねし、少し驚くことがありました。
枘の設計に関わることです。

私は框組の枘に関しては、特段の理由が無いかぎり、芯芯に開口し、枘を立てるのを基本としています(無論、例外は多々ありますが)。
ところが、この建具屋さん、ケースバイケースでどちらかに寄せている。

これは、そこに納まる羽目板、ガラスなどの納まりを考慮し、もっとも合理的な位置に枘を立てるという考え方であるようです。
彼らのほとんどは、枘加工は「枘取盤」で行うという機械設備からも、そうした考え方は合理性のあることなのでしょう。

つまり「枘取盤」で枘を芯芯に付けるというのは、むしろ至難と言った方が良いという理由が考えられます(私が保有する「枘取盤」はアナログなものですので、そう感じてしまうからなのかも知れませんが)。

しかし、「枘取盤」を用いず、昇降盤と角ノミといった汎用機械で枘加工するという家具工房での一般的な作業環境では、芯芯に枘を立てる方法が、より高精度で、作業性も早く、合理性に富んでいるということが言えます。

角ノミ機の特性と限界、その克服

その理由ですが、角ノミ機での枘穴開けについて考えてみます。
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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(番外篇)

面腰の事例

面腰の事例

本件、“プロダクト的思考”と“手作り家具”は、高品質な水準を維持し、持続可能な生業として木工を営むことについて考えを巡らせているところです。

客観的なデータを持っているわけでもありませんので、木工というものが、現代を生きる若者にとってどれだけ魅力のある仕事であるのかは分かりません。

国内産業も自動車産業に代表される世界最先端のモノづくり産業が活況を呈している反面、家具産業は生産基盤の海外移転が著しく、国内では衰退の一途を辿っているという実態は広く知れ渡っていると思います。

そうした厳しい状況下、あえて木工家具の世界に挑んでくる若者は、70〜90年代の華やかな時代の頃に較べれば、ある種の覚悟を持ち、目的意識的、意欲的に挑んで来る人々なのだろうと思います。

信州の技術専門校への出願数が受け入れ枠の5〜6倍と聞けば、一部においては落胆させられるほどには、人気は落ちていないことも示されています。

家具産業の生産基盤がアジアの低開発国へとシフトしている中で、あえて日本国内でモノづくりに勤しむのかという意味についても、これらの若い方々にも理解されているはずです
ニトリやイケアといった巨大メーカーに市場を席巻されている中にあって、木工家具を作る意味についてですね。
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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その6)

木取りにおける寸法基準が多様に過ぎる

1つの家具を構成するための部品には実にたくさんのものがあります。
大小、広い板であったり、小割された平角の棒であったりと、様々な寸法のものが必要とされます。

ただその家具のできあがりを視たとき、バランスが取れ、美しいと思われるものには、一定の法則があるように思われます。

無闇に寸法展開を多様にするのは、そうした観点から一般的には良い結果をもたらしません(無論、例外はあります)。

シンプルなキャビネットの事例

シンプルなキャビネットの事例(工房 悠)

例えば框組のタンスを考えた場合、柱の見付が27mm(≒9分)であれば、棚口も、束も同じく27mm。帆立側は、柱が60mm(≒2寸)、横框の上桟も60mm、下桟は75mm(≒2.5寸)、あるいは90mm(≒3寸)、さらに貫、あるいは束があれば45mm(≒1.5寸)と言ったように、数種類の寸法の展開が必要でしょう。

シンプルなタンスなどでは、たぶん、この程度の寸法展開で構成させることができます。
必要にして十分なものというわけです。

厚みは全て27mmで、幅の展開が数種と言うことになります。
これを前提とすれば、単純な仕口であれば枘加工は1種類。
蛇口、あるいは面腰であっても枘幅は同一なので、その分、仕事は早いでしょう。

加工材の厚みが同一であれば、枘加工も単一の設定でほぼ可能と言うことになります。
もちろん、蛇口、面腰が絡むところ、あるいは小根が付くようなところでは、これに加え、数段階の加工が必要となりますが、基本は同一で進めることが可能です。
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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その5/面腰・蛇口)

前回のドイツのテキストからの図版ですが、せっかくですので、解説のコメントを付しておこうと思います。

番号順にいきましょう。

面腰 事例 図版

面腰 事例 図版

#369

面腰の仕口ではありますが、枘が上端に開いていますね(次の#370も同様)。

枘と言うより、これは3枚組み手のような感じですが、欧米には比較的多く見られる手法のようです。

加工はノミで開口する必要性がなく、よりイージーですが、組み上げ段階では、接合位置が決まらずに、むしろ苦労します。

枘の位置に込み栓を打ち込んでいる画像を見ることがありますが、そうした手法で抑え込むのでしょうか。

面腰の個所ですが、この場合、正面のみが切削され、後ろ側は残してあります。
これは単に見栄え上の問題でしょうか。

#370

#369同様、枘は開いているものの、面腰部位は極めてスタンダードな事例。

いわゆる片銀杏面が施されています。
(横框の面腰部位は45度にカットされているはずですが、図からは読み取れませんね)

#369のように、枘の後ろ側を「違い胴付き」風にするメリットはさほど感じられませんので、開いた枘の問題は別として、この面腰加工が一般的です。

#371

貫部分への面腰のケースです。

このケースも正面側のみをカットしていますね。
本来はこうした加工が望ましいだろうと思いますし、私も後ろ側への配慮が必要な場合では、こうしたことも行いますが、特段の必要性が無いかぎりやりません。

これでは機械加工はできませんので、私の場合はそのまま後ろまで抜いてしまいます。
現代では、たぶん、そのスタイルが一般的でしょう。
普通には見えない後ろ側ですし、決して「逃げ」ているわけではないので、構わないと思います。

面形状はヒョウタン面に、丸溝が加わっています。様式的なデザインなのでしょう。
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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その4/框組=カマチグミ)

『Der Möbelbau / Fritz Spannagel  』より

『Der Möbelbau / Fritz Spannagel 』より



リストに挙げた問題点につき、さらに視ていきます。

框組の加工に習熟していない

私は信州松本で修行したということもあり、松本民藝家具における一般的な構成である框組の構造は、キホン中のキホンでした。
もちろん、板指しの構造についても修練してきましたが、框組み無くして、木工のイロハは語れないというほどにごく当たり前の世界でした。

ところが地域が変わると、どうもそうではないことに気づかされます。

私が静岡に戻り、さらに1年修行した木工所がありますが、前回お話ししたように、この親方は横浜クラシック家具のOBで、この地域では名の知れた、とても腕の立つ職人でした。

私のような半端者を、わずか1年間でしたが、独り立ちするまでに鍛え上げてくれたものです。
なぜ1年でと言うことには、1つの理由があったものと考えています。

それは信州松本で修行してきた木工の技法体系は、この横浜育ちの職人に備えられた技法体系と、実に多くの領域において共通し、ほとんど違和感など無くスムースに受け入れることができ、この1年間はこれをさらに強力にバージョンアップさせてくれる現場だったのです。
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“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その3)

前回の投稿から間が空いてしまいましたが、そろりと再開します。

ある若手の木工職人が廃業に至ってしまった作業内容が抱える問題の検証に関わる話でした。

あらためてそれらの問題を挙げますと、以下のようでした。

  1. 框組の加工に習熟していない(正しく理解されていない)
  2. 木取りにおける寸法基準が多様に過ぎる
  3. 設計上、枘の割り付けの非合理性
  4. 教育訓練の問題(親方の問題)

4つのうち、1〜3は技法的な課題で、それぞれ相互に関連する事柄と言えるかも知れませんので、まとめて考えていきましょう。

これらの技法的課題は木工全般からすれば、ごく一部の領域の問題でしかないかもしれません。
しかし、だからといって安易にスルーしてしまえるほどには些末な問題では無いでしょう。

いわゆる家具という1つの造形物を構成するためにはいくつもの部品、エレメントが関わり、これらが有機的に結合され、目的とする機能を満たし、かつ美しいフォルムを産み出していきます。

これらの技法は、いわば目的とする造形物を作り下げるための欠かせぬプロセスであり、またその品質によって、できあがりのフォルムもディテールも決まってくると言っても過言ではありません。

また、一方において、この巧拙は生産性にも大きく関わって来ることはご理解いただけるものと思います。

鉋イラスト

少し具体的にお話しましょう。
ある展覧会で見掛けた、水屋のようなキャビネットに施されていた柱と棚口の見付け部分の意匠を拝見し、ちょっと驚くことがありました。
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松坂屋・個展を終えて

昨19日をもって〈生活をアートしよう 杉山裕次郎 木工家具展〉を終了しました。

会場でお話しさせていただいた来場者の方々、お買い上げいただいた古くからの顧客、そして新たな出遭いから、顧客リストに名を連ねていただいた購入客の皆さま、深くお礼申し上げます。

会場は百貨店の中でも、やや分かりづらい場所であったり、主催者側からのアナウンスも行き届かなかった面もあるようで、必ずしも十分な態勢では無かったことは大きな反省点です。

また1月間という長期にわたる開催でしたが、会場の湿度10%前後という過酷な環境による、木工家具へのダメージは大きく、想定外の木口割れ、異様な痩せ、蓋の跳ね上がり、等々、困惑することが少なく無く、出展作品の厳選を求められますね。

独立ギャラリーなど、単独室内であればコントロールは自在であるでしょうが、百貨店一角のスペースではままなりません。

今回の出展作の多くはブラックウォールナットでしたが、その色調を重視するところから、人工乾燥をしておらず、天然乾燥だけの材料であったためでもあり、過酷環境に置かれると弱いです。
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