工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

「木」の大学講座 2015 「樹木と人間・動物のかかわり」〜ブナの時間・トチの時間〜(その3)

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承前)

志津倉山 フィールドワーク、ブナ林探訪

講座2日目のフィールドワークにつき、もう少し紹介させていただきます。

登山口まで、三島町中心部から約12kmをバスでの送迎。
途中淺岐(あさまた)の集落を抜けていくのですが、前回の訪問の際はこの集落の民家に宿泊させていただいたものです。
家主のヒロロ編み組の練達(工芸家と言わねばならないのかも知れませんが、土着の気安いお姐さん、といった風)であったハナコさんは数年前に物故者となり、墓前にも詣らずでのスルーは不届きものの汚名を甘んじねばならず、辛いものがありました。

近年、この志津倉山(標高1,234m)への登山は地元林業家などによる整備も進み、中級者向けの手頃なコースとなっているようで、今回は登山が目的でも無かったため、本来であれば2時間ほどのトレッキングコースを、ポイント、ポイントでの植生や民話などを交えた詳細な解説を受けつつ、昼食を挟み4時間ほど掛けてトレッキングさせていただきました。

途中、この梅雨の雨でぬかるんでいたり、盛り上がった太い根っこが濡れ、滑りやすかったりと、難儀なポイントもありましたが、グリップの効くシューズを履けば、どなたでも楽しめるコースです。

三島町・講座会場〜志津倉山 登山口


前回の記述のように、ブナが林立するブナ平は圧巻でしたが、それ以外にも、巨木のトチ、イチイ、ダケカンバ、ウダイカンバ、コナラ、ミズナラ、朴(ほお)、桂(かつら)、サワグルミ、クロモジ、ミズメ等々、樹齢100年を越すものも多く、まさに国内広葉樹の自然博物館的総覧の如くに、大変興味深く見学することができたのです。

特徴的なのは、かなりの豪雪地帯ということで、その樹形の特異な姿は書き残しておきたいと思います。
根上がりの部分は大きく横に迫り出し、そこから大きくゆるやかに湾曲しながら、やがては天空へと伸びる、ユニークな形状が少なく無かったですね。

巨岩を鷲づかみするブナ

巨岩を鷲づかみするブナ

あるいはブナによく観られる特徴として、大きな岩にドシッと屹立し、岩を抱え込むように根っこがへばり付き、数トンもあろうという樹を支えているのも少なく無く、樹木の生命力、ブナの強靱な生は感嘆ものです。

また、同じくブナの樹齢の多いものでは、一般には土中に納まっているはずの根が地面から1m近くもせり上がり、その部位だけが苔むして、異様な姿形を見せているのも多く、見慣れていない私には驚かされるものがありました。

またこれは樹種を問わずですが、雷の直撃を受け、樹芯がほとんど焼け落ち、表皮近くの活性部(いわゆる白太部分)を残し、しかし太い枝を大きく左右に伸ばし、元気よく生きている姿にも感銘を受けました。


この一帯はイヌワシなどの稀少な猛禽類、ツキノワグマ、カモシカなど哺乳類の繁殖地としても知られていて、以前、淺岐で暮らす鉄砲撃ち(マタギ)への取材に立ち会ったこともあり、それほどに大変豊かな森であるのですが、今回のトレッキングでは出逢うことも無く、残念やら、安堵するやらでした。

熊の木登り痕

熊の木登り痕

ただ、ルート途上に出逢ったブナの数本には、熊が登ったと思しき、爪痕が鮮やかに残っているものもあり、ちょっと震えました(画像右)

この森は落葉樹林であり、秋の紅葉はまたすばらしい光景を見せてくれるはず。
冬ごもりへ向け、活動が盛んになる熊(ツキノワグマ)にも出逢えるかも知れません(出逢っちゃいけませんが)。

逆にもう少し早ければ、桐の花爛漫に出逢えるはずですね。

機会があれば、ぜひ読者の方にも訪れて欲しい森です。
木工関係者であれば、巨樹伐採、製材後の頒布会なども企画されるでしょうから、実務的にも大いに活用できる場となるでしょう。

現在では国産の広葉樹を入手するのは、意外と難しい時代へと入ってきているようですので、機会があれば積極的にアプローチすることをお薦めします。

新月伐採を試みることもあるようですので、興味深いものがあります。

■ 問い合わせ先:山と木の集い実行委員会

山アジサイ

山アジサイ

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  • カメラアングルや気がつく所がちがいますね。秋口の取材では、一日がかりになりそうです。ブナの瑞々しいベストシーズン、驚きの森林植生、生態、すがすがしい空気を体が受け止めたのですが、原生自然状態は寛ぎそのものでした。奥山現場で味わう最上の森林生命体験ですね。至る所、自然図鑑でした。

    • ・・・参加者のほとんどが、同様の思いに浸ったのではと。

      それと、現地スタッフの方々のさりげないサポート、暖かなもてなしが成功に繋がった大きな要因でもありますね。
      相互の交歓こそ、全ての前提であり、また持続発展への鍵でしょうか。

      プロフェッサー・阿部さんの講義はこれまでのブナへの知見、扱われ方への批評性豊かな強いメッセージがあり、参加者に覚醒と感銘を与えたと思いますし、またこの企画への尽力は並々ならぬものがあったことは、誰しも認めているところだと思います。
      お疲れさまでした。
      そして、ありがとうございました。

      全てを森林資源の保全、国内有用樹の持続可能性と、木材産業の持続発展へ !

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