「木」の大学講座「樹木と人間・動物のかかわり」〜ブナの時間・トチの時間〜
はじめに
私たち家具職人が家具を制作するにあたり重視する事柄の中にあって、その主たる素材としての木材はもっとも大切なものであることは言うまでもありません。
フラッシュ構造のものであれば、フェイスにプリント合板を持ってくれば、そうした課題は回避できますが、広葉樹の無垢材をもっぱらとする私たちには「逃げ」は効きません。
また国産広葉樹の多くの樹種の需給が逼迫する状況下というものは、いよいよ無関心でいることが許されないものとして制作現場の私たちに突きつけられていることも事実でしょう。
しかし、こうした家具制作における持続可能性が危ぶまれる現状を眼前にしながらも、私自身も含め、この問題に深く検証を試みるなどということは少なく、ましてや広葉樹林の生態系へと足を踏み入れることは、実に稀なことであるのが実態と言うわけです。
この度、タイトルの講座が開講され、これに参加させていただくことができ、上述のような問題回避の日々を脱し、1歩、大きく足を踏み入れることで、日本の森の豊穣さと出逢い、多くのことを学ぶ契機となり、そして家具製作者として何某かの展望と可能性、そして勇気を掴み取ることに繋がったように思います。
講座が開かれた、桐の里・三島町
講座が持たれたのは奥会津〈三島町交流センター山びこ〉
福島県は、3.11福島第一原子力発電所の過酷事故で知れ渡った地域ですが、この福島県は東の太平洋側に面した「浜通り」、県庁所在地、福島市、郡山市などがある「中通り」、そして越後山脈と奥羽山脈に挟まれ、猪苗代湖から新潟県境側へ向けて拡がる「会津」と大きく3つのブロックに分けられますが、この会津でも、会津坂下から風光明媚な只見川沿いを西へ向かったところに、日本屈指の豪雪地帯でもありますが、日本最大の桐の産地、三島町があります。
この一帯では田んぼの畦、あるいは少しでも開けた土地など、至るところに桐が「栽培」されており、この桐の植栽が三島町の風土を色濃く特徴付けているといえるでしょう。
林間地では一般に広く見られる製材産業ですが、ここ三島町では桐の製材が多くなるのも必然で、これにともない桐特有の天然乾燥方式である「はざ掛け」(製材された板は交互にX字型に立て掛け、乾燥させる)がよく観られます。
今回の講座では、奥会津の森への探訪も含まれていたわけですが、東北一帯の森はブナ林を中軸とする原生林を特徴とするものの、近代以降、その多くが無計画的な伐採により姿を消す中、この奥会津の国有林はそれまでの反省から禁伐的扱いを受けることとなり、200年〜300年を越える高齢樹が広く分布しています。
また、こうした林業の他、ヤマブドウ、ヒロロ、マタタビなどを素材とした編み組み細工の工芸が盛んなことも特徴とします。
以前、私が数泊世話になった浅岐部落の五十嵐ハナさん(その後、故人になってしまいましたが)のヒロロのバック(カゴ)は、ほとんど美術品とも評価できるほどのクォリティーで驚かされたものです。
座学・ブナの時間
受講内容、その様子などについて少し触れていきます。
会場・三島町交流センター山びこ、ホールには、既に講座資料となる、ブナ類の材サンプルなどが展示され、壁面には講師の一人である太田さん撮影による森林の写真がロールカーテン状に掲げられ、さながら森林に囲まれた会場へと設えられていたものです。
遠く関西からの若い木工家などを含む、40名を越える参加者をはじめ、「木の大学」に古くから関わっている大学教授、デザイナー、そして地元福島の工芸家、林業家など、様々な顔ぶれで埋まったものです。
これまで出席率の悪かった私ですので遠慮もあったわけですが、旧知の方々から「良く来てくれたね」と声を掛けられ、一気にこの方々らとのそれまでの交流が思いおこされ、居心地の良い空間に代わったものです。
開講宣言、講座地元の三島町町長挨拶(代理)などを挟み「木の大学」提唱者・阿部蔵之氏によるガイダンスを受け、いよいよ太田威氏からスライドによるブナ林の実相と、これに纏わる山人の暮らし、民俗文化などの講義を受けました。
多くの著書(写真集を中心とする)を著されてきた太田さんですので、そのブナ林の美しさは格別のモノがありますが、興味深いのは、こうしたブナ林と深く関わって来た山人の暮らしです。美しいブナ林の四季。
猛禽類、熊、鹿、ウサギなどの狩猟に従事する鉄砲撃ち、マタギら、山人の生活。
豪雪地域には欠かせないかんじき作りなどの、生活工芸。
有史以前より、連綿と伝えられてきた、こうした山人とブナ林の関わりは、近代化から、今日に至る過程で急速にその姿を消し、民俗学の書物や、まさにこの太田さんの写真集の中に納められてしまっていることに気づかされる内容でもあったわけです。
こうした近代化の中で急速に失われてきた山の民俗には、近代的な価値観とは異なるかも知れないけれど、人々の営みの本質からすれば、意外にも、そこに真の豊かさがあったのではないのかとさえ覚えるほどの「懐かしい営み」があったわけです。
座学・トチの時間
お昼には、三島町交流センター山びこ敷地内の小さなログキャビンのレストランでカレーと蕎麦を頂いたのですが、蕎麦は注文受けてから、粉を捏ね始めたのでビックリ。
この辺り一帯、蕎麦と言えば混ぜ物無しの10割蕎麦が普通だそうで、風味豊かな蕎麦でした。
そして午後は「トチの時間」ということで、地元で長く木樵をされている五十嵐馨氏の巨樹伐採のスライド、動画などでの解説。
私も数度立ち会いましたので見知っているのですが、その猿のような身軽な木登りと、10数mを越える高度での、STIHLチェンソーを駆使しての巨樹伐採は、まさにイベントと称するにふさわしい事業なのです。動画撮影では、今後は是非、伐採の一連の音も忠実に再現して欲しいものです。
ブゥ〜ン、ブンブン、ブォ〜ッ、キィ〜ン、ブルッ、ブルン、ブル〜ン、キィ〜ン・・・
バリッ、バリバリッ、ド、ドッド〜〜ン・・
見学者から思わず大きな拍手!!
そして伐採後の丸太のバックホーン2台を駆使しての山下ろし、
1つの玉で積載重量が満たされてしまった8tトラックでの運搬作業。
さらには、その後の製材、頒布会と続きます。
(この項、続きます)

【参照】
▼ 三島町 公式Webサイト
acanthogobius
2015-7-2(木) 10:39
フィトンチッドを沢山吸われて、森の力を受け取ったのではないでしょうか?
もう10年以上前、只見町に住む木工仲間と三島町を訪ねたことがあり、
ヒロロ細工を作っている民家を訪ね、ヒロロとシナの皮で編んだバッグを
買ったことがあります。栃の実のボタンが付いています。
3万数千円だったと思います。
今、思い出すと、三島町の交流センターだったかもしれないと思いますが
ヒロロやシナの皮細工のビデオを購入した記憶があります。
また、森へ行きたいですね。
artisan
2015-7-2(木) 22:00
acanthogobiusさん、前段のお話し、以前伺ったことがありましたね。
その木工仲間の方もお誘いすべきだったかもしれません。反省 (-_-)
今後、三島町では同様の企画も立てられると思われますので、
機会があればぜひ参加してみてください。