COP16から見える時代潮流
議定書延長見送りを評価する日本の経済界
先月末からメキシコ・カンクンで開催されていたCOP16[1] 及び京都議定書第6回締約国会合[2] が11日未明に終了した。
会期は10日までだったけど、「カンクン合意」文書が採択されたのは日付が変わり、午前4時だったという。
最近同じような光景があったな、と思い返せば、先の名古屋での生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で我らが松本環境相の採択宣言も会期末を超えた未明のことだった。
国際会議などというのは事務レベルで調整済みのものが本会議にかけられるという了解が全く通用しなくなっているというのが昨今の状況であるらしいね。
会場で賞賛されたのは困難な会議運営を務めた開催国メキシコ外相の手腕についてのみであり、合意内容へは全く良い評価が下されなかったという。
最大の懸案であった「京都議定書」の失効を控えての「延長」問題を含め、全ては棚上げされ、次回南ア・ダーバンへと先送りされた。
この結果にほくそ笑んだのは誰あろう、我らが日本の経済界[3]
変わりゆく時代を象徴するかのような会議だった。
この地球温暖化防止条約を法的拘束力のある数値目標を定めるという画期的な成果をもたらしたのが1997年の京都で開催されたCOP3だったが、今回のCOP16では、この会議をぶち壊そうと活動したのがCOP3開催国の日本だったという皮肉な結果だった。[4] [5] [6]
「京都で先進国は削減目標の数字を出し、大きな痛み分けをした。今、世界は宿題をサボる方法を仲良く話し合っているような気がする」という毎日jpの記者・國枝の徒労感は現場にいた者ならではの告白だろうが、それを共有せざるを得ないボクらとて同じような悲壮感で支配されている。
米国、中国という2大温室効果ガス排出国がブレーキとなっている状況を、さらに日本がこれを固定化させる方向へと軌道修正を図るスタンスというものは、経済界のみならず、菅民主党政権の環境政策の抜本的方針転換なのだろうね。
今国会に提案されている2011年度予算書では法人税の実効税率の5%削減という、まさか民主党の法案とも思えぬ大企業優遇税制へと大きく舵を切ったのが印象的だったが、今回のCOP16における日本政府の姿勢はこれと軌を一にしたもので、環境よりもやっぱビジネスじゃん、という方向性が明確に打ち出されたものだね。
もう、民主党も自滅への道をひた走り、、、という感じだ。
もう泣けてくるどころか、笑えてくるわ。
「環境債務」
ただ良く見てみると、ほとんど国内では報道されていないのだが、開催国地域でもあった中南米諸国の動向は注視していく必要があるように思える。
つまり長年にわたる米国からの影響下、ネオリベ的政治・経済支配から脱し、独自の道を歩みつつある中、気候変動というものを受動的な立場から脱し、「環境債務」[7] という理念を周辺国と共有し、富まざる国々の権利を主張しはじめていることについてである。
恐らくはG8への対抗軸として、こうした南の諸国からの異議申し立てというものが1つの無視できない潮流として顕在化していくだろうことを印象づけた会議であったように思えた。
来年12月のダーバンでは、やり残した宿題とともに、こうした潮流とのギリギリとした駆け引きが繰り広げられていく事だろうと思う。
時代はやはり大車輪を初動させる時のあの軋みを見せていると言えよう。
週末なのでYouTubeから。
COP16開催国・メキシコのミュージシャンって、あまり知らない。
やっぱり、ここはサンタナでメキシコへ帰国してのLiveから
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=ACdwCIld3kE&feature=fvw[/youtube]
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❖ 脚注
- 気候変動枠組条約第16回締約国会議 [↩]
- COP/MOP6 [↩]
- 毎日jp:COP16:経済界は評価 議定書延長見送り [↩]
- 毎日jp:COP16、宿題をサボるな=メキシコ市支局・國枝すみれ [↩]
- jijicom:京都議定書延長、断固反対を=政府に方針貫徹を要求-産業界9団体 [↩]
- 読売:日本、またもや「化石賞」…COP16後ろ向 [↩]
- 【環境債務】気候変動をめぐるボリビアなど南アメリカ諸国政府主導の途上国では主流になりつつある新しい概念。
先進工業国によって生み出された長期にわたる炭素排出(原因)による気候変動の影響の75〜80%(世界銀行によるリポート)は途上国が被っている(結果)
この気候変動による地球規模での危機にあたり、環境悪化という代償を払って開発を進めた先進国には,地球全体への環境債務を負っているとする概念。
「物を壊したら弁償する」という当たり前の議論。途上国での貧困解消,社会開発,所得分配の公正の達成も不可欠であるが,世界全体が開発と環境の両立を図り,人間環境を維持・改善するような持続可能な開発(Sustainable Development)を進めることが課題となっている。 [↩]