工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“手作り家具”と機械設備(番外編)

天秤差し

今日はちょっと番外編

この画像「Secretary」、いわゆるライティングビューローと言われるキャビネットの帆立+天板の接合部分の加工途上のもの。

これまでもかなりの数の「Secretary」を制作してきたが、この部分の接合仕口も様々。
様々というのはちょっと違うな、2種かな。

1つは「襟輪付き鬢太留」(=核相欠留め接ぎ)という手法も良く用いる。
これは外側見え掛かりが完全な留めに納まるのでシンプルで美しい。
接合度も比較的堅牢だ。
加工難易度はやや高度というところだろうか。

ただーターマシーンルが無いと難しいだろうね。留め部分の切削加工がキモだからね。
また見付側に仕口がそのまま出てしまうので、共材(1枚の板を必要分割いて)を用意し、これを留め加工し、組み立ててから貼り付けねばいけない。
この手法が少しやっかいではあるね(帆立のこの部分は傾斜しているしね)
しかし守備万端上手くいけば綺麗なものだ。

もう1つがこの画像のような「天秤差し」の仕口。
難易度もやや高度といった程度か。
江戸指物などの伝統工法から考えれば、木口を見え掛かりに出すのは潔しとしない、ということになるので、この仕口はこれに反することにもなるが、いわばクラフト的なアプローチであえてデザインとしての美しさを見せるということでは意味のある手法だろう。
接合度はとても高いものがある。

天秤の最も薄い頂点の部位はわずかに2〜3mm。
様々な考え方があるだろうが、ボクはこの位が美しいと思っている。


画像にあるように、加工途上のこの段階は機械と電動工具で攻めているところ。
これまでは機械だけでやっていたのだが、今回は半分ハンドルーターを使ってみた。
FESTOOLの「OF1400」がとても操作性がよいのでやってみたのだが、期待通りの使用感だった。

少し具体的に記述すると、

  • アタッチメントのフェンスの位置調整が、0.1mmピッチのダイヤル式であったり(逆回転時に遊びがあるが)、その固定のための締め付けも工具無しでOKであったりと、至れり尽くせりの機構。(このルーター、必要な工具はコレットチャックのためのスパナ1本だけ。しかもラチェット機能付き)
  • プランジ昇降も片手でも出来るほどの軽快さ・高精度。モーターの回転もとてもスムースで安定的な運行が可能。
  • 集塵効率がとても高く、ダストの舞い散りもない。
    これによりダストコレクトのプラスチックカバー内の刃の運行がダストによって遮られることなくよく見える。

1つ1つ詳細に紹介したいところだが、木工加工という汚く鈍くさい仕事もここまで快適にできるようになれば、その概念さえも書き換えてくれるのではと思わされるほどの新時代のマシーンだ。

Festoolルーターさて、しかしルーターマシーンと較べた場合どうかといえば、その評価は難しい。
ボクはルーターマシーンを長く使ってきているので、まだまだルーターマシーンの方が使い勝手が良いと感じられる。

しかし機械と電動工具というカテゴリーの異なるものを単純に比較するというのは土台間違っているだろうから、ここではあまり意味のあることではないね。

ところでこの「天秤差し」、機械で攻められるのは材の長さで1,500mmほどまでだろうか。
それ以上は丸鋸昇降盤での安定的な加工は困難となり、全て電動工具と手業ということになる。

天秤の傾斜のジグを作ったりして、それはそれで手業の世界の楽しみを謳歌しながらやれば良い。
例えば「ルームディバイダー」などは2,000mmほどの長さがあるのでその接合仕口は手業ということになる。
手鋸(縦挽きの胴付き鋸など)、手鑿で喜々として楽しみながら加工できればなお良いだろう。

この天秤差しは、もう少し機械で攻めて、後は手鋸、手鑿での仕上げとなる。
こんな手法だから“手作り”な〜んて括りは無効というワケだ。
問題は、如何に高精度に、美しく、スピーディーに加工するか、ということにあるだろう。

そのために機械であれ電動工具であれ、これに寄与してくれるものであれば大いに使いこなすというのが賢明な木工家の考え方と言えるのではないだろうか。

hr

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電動工具、集塵システムの学習
FESTOOL ルーター【OF 1400EQ】レビュー
*記事中一部追記(08/02/09)

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