工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“手作り家具”と機械設備(その15)

機械設備と電動工具の差異および選択基準(その4)

〈加工プロセス〉

〔溝突き、段欠き など〕

家具制作においては様々な工程があるが、この溝突き(大入れを含む)、および段欠きの工程も高い頻度で用いられる。

これらの工程もやはり昇降盤に然るべく適切なカッターを装着して行うのが一般的であり、望ましいスタイルだ。
もちろん、これに代わる溝突き専用の電動工具もある。
あるいはハンドルーター、ルーターマシーンで行うことも可能だろう。

いずれも被加工材の個別具体的な状況に応じて、選択するということになるだろう。
ただやはりこれまでも何度も解説してきたように、昇降盤を用いることが可能な加工材の状況であれば、これを主軸に使いこなすのが基本。

例外的に、加工材があまりにも巨大で、昇降盤上で扱うのが困難、あるいは屋外での作業環境を強いられる、といった特有の環境において、電動工具(溝突き機、ハンドルーター)の出番となるだろう。

アジャストカッター4種傾斜盤でのこのような用途に一般に用いられるのがチップカッターという固有の溝幅を切削する刃物であある。

うちではあまり多様には揃えていない。
・6mm 、9mm 、12mm 、15mm 、30mm といったところ。
 *一部毛引刃の付いていない縦溝専用のものもある

なおこれらの定寸の間を0.1mm単位の幅で調整し、溝を突きたいということであれば、これに最も適合するのがアジャストカッターだ。

これは鋭利な毛引刃と平刃を有した2枚のカッターと、その間に0.1mm単位の間座(スペーサー)を挟み、切削幅を任意に設定できるというもの。
うちでは以下の4種を揃えている (画像.上:左から順に)
■ 3mm〜5.5mm
■ 6mm〜11mm
■ 11mm〜21mm
■ 21〜40mm
これだけあれば、3〜40mmまでを0.1mmステップで調整可能となる。
一般には7″のサイズのもので十分だろうが、画像・中は8″の大きさのもの。


アジャストカッター6-11(画像.中:6〜11mmアジャストカッターと間座)

また、昇降盤では端末がカッターの直径に規定される大きなRとして残ってしまうため、必要に応じて、その残ったR部分をハンドルーター、ルーターマシンで取り去るということも出てくるだろう。

1つの工程において、これらの機械同士、機械と電動工具のコンビネーション的な活用も重要となってくる。

改めて昇降盤の優位性を確認すれば……、

  • 切削能力が他のものより、圧倒的に高い
  • 寸法合わせ、フェンスとの平行性が他よりも確実で簡単であること
  • 安全性が高い

と言ったことが上げられるだろう。

この優位性を必要に応じて補うのが、他の電動工具という位置づけになるだろう。
さて、電動工具での溝突きということであれば、専用の電動工具、あるいはハンドルーターということになる。

ハンドルーター、特にプランジタイプであれば、任意の長さを同一の深さで切削することができるところに優位性がある。
この特性を活かして、傾斜盤での制約を補ってやればよい。
(まず傾斜盤で可能な範囲で加工し、その後にルーターで残ったところを切削する__、ルーターもルーターマシーンが使えればその方が作業性は高い)

なお段欠き作業でのルータービットを選択する上での考え方について簡単に押さえておきたい。

例えば10mmの幅で切削するとした場合、最低でも10mm以上の太さのルータービットを用意すれば可能である。
しかしこの選択では良い切削肌は望めない。

可能な限りに余裕のある太さのビットを使いたい。最低でも望む幅の2倍+α、以上の太さのものを使いたい。

〈加工プロセス〉
〔面取り加工〕

家具制作には面取り加工は重要。

如何に加飾性を排し、ミニマルなデザインで行うのであったとしても、手に触れて過度なエッジを与えるようでは家具の必要条件を満たすとは言えない(背面部分などを、全く面取りしない人もいるようだが、丁寧にいきたいものだ)

面取り工程も、同様に昇降盤で行うのが望ましいだろう。
面取りカッターせめて1分、2分の坊主面取りカッター、角面取りカッターなどは整備しておくのが基本となる。

意外と多くの人がルーターの小さなビットで面取りをする人もいるだろうが、全く問題にならないぐらい切削性能が違う。
ハンドルーターなどに依拠する方には、切削肌、逆目などへの対応力をぜひ較べてみてもらいたい。

なお、言うまでもないことだが、昇降盤で面取り加工をする際には、順目、逆目をよく見て通すことが肝要。その後のサンディングにおいて、イージーさが大きく異なってくる。

ほとんどの人が見知っているように、あるいは体験的に知っているように、一般に角材であれば、1つの角の対角線側は間違いなく反対の目になっていて、判然としない(どちらとも言えない)角が2つ残る、ということになる。
職人はこれを瞬時に判別して、傍目で見ているとただただスムースに淡々と定盤上を運行させるだけなのである(職人の作業における手捌き、腰の動きは実はとても美しいものなのだ)。

またキャビネットの支輪、あるいは台輪などに大きな面取りを施したいという場合は、ハンドルーターではとても危険であり、昇降盤、あるいは縦軸面取り盤に専用のカッターを装着して行いたい。(機械の上での自由な操作が困難な巨大な被加工物ではこの限りではない)
ハンドルーターでこの面取り加工をする際は、良く研がれた刃物を用い、運行の際には被加工材の細胞配列(順目、逆目など)を良く読み、それに応じて運行スピードをコントロールする、あるいは深さを数段階に分けて行うなどの配慮が求められる。
この「深さを数段階に分けて行う」ことは有効だ。

切削対象にもよれば、切削による負荷の大きさにもよるので一概に説明するのは困難だが、美しい切削肌を得るには最後の切削をできるだけ負荷を少なくして、さらっと削るというのが賢明な方法であろうか。
うちでも様々な面取り用のカッターを作ってきたが(これらほとんど全ては特注で作らせたもの)、その一部を画像で紹介しよう。
(画像.下:様々な面取りカッター。左から20φ(10R)丸面カッター、馬乗り仕口用カッター、1分紐面カッター、1分坊主面取りカッター)

*この「“手作り家具”と機械設備」もずいぶんと回を重ねてきたので、今回のエントリーを機にこれを単独のカテゴリーとして設けましたのでご活用下さい。

hr

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