工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

啓蟄と腱鞘炎

丸太皮むき
今朝は朝食後メールチェックだけ終えて、ただちにトッラクの人。
行き先は市内の製材所。
島田という地域は昔から製材業で賑わっていたところだ。
これは立地条件からして必然的なものだった。
大井川流域上流には中央アルプスを背後にして豊かな森が広がっている。ここから良質な木材が供給され、これを筏に組み、駿河湾にほど近く、東海道の要所でもあった島田という地点まで搬送されるというルートが歴史的に形成されてきた。
現在はというと、木へんの産業は低迷(70年代、国産材から米国産などの材木へと切り替える大きな政策的転換を図ったため)、ここ島田の製材業も急激に落ち込み、その生産高は往年の数分の一ほど。
製材所には8時前に到着したものの、まだ原木を積んだトレーラーの姿は無い。
しかしほどなく大型のトレーラーがデーゼルエンジン特有の響きを撒き散らしながら入ってきた。
あまりに大きなトレーラーなので、積んである原木も小さく見えるがいずれも60cmを超える2.4〜3mのもののはず。


今日はこの製材所の主人は人間ドックとかで留守。
しかしボクよりも一回りも年上のご夫人が、大型のフォークリフトを軽やかに操作し、降ろしてくれる。
原木もう数人の孫までいる年齢の夫婦がこの大きな製材所を切り盛りしている。
例に漏れず跡取りはいない。
彼らが廃業する頃にはボクも同じ道を辿る年齢になるだろうから良いとしても、これからの若い人はどうするのさ。
さて、問題は皮むき。
太い原木丸太3本。皮むき作業は半日では終えることができなかったが、ボクはギブアップ。
体力は残っていたものの、右手の手首周囲に違和感。腱鞘炎だろう。
ご婦人曰く、この作業を半日も続ければ、箸も持てなくなるさね、と。
案の定、台所に立っても包丁が握れない。
Macキーボードを叩くとびりびりしびれる。
もちろん、鉋掛けなどできるわけがない。
でも皮むきしておかなければ、間違いなく虫害が待ちかまえている。
残りは後日の製材当日にやることにした。
今回は ウォールナット2本と、ミズナラ1本であったが、ウォールナットは皮が厚く、バークと甘皮も一体化しているためか、比較的ラクチンに剥けたが、楢があきませんわ。甘皮が幹と一体化している。
この皮をめくるとプーンと甘酸っぱい香りが立つ。
啓蟄だからね。日射しを浴びてこの樹木の甘皮は、生きていますと主張しているかのよう。
数日後、製材が始まればただちにこの購入への決断が正しかったのかどうかの判定がでる。3〜5年後、家具へとその姿を変えてお客様の元に届けられる。
ウォールナットはかなり値上がりしていたが、恐らくは今後はさらにその傾向を強めるだろうから、逡巡しているわけにはいかない。
スチックゼノールA腱鞘炎を起こしながらも、なお原木に固執するのには理由がある。いや理由など無い。
木工家として、原木の状態からその運命を共にすることで、その生き様を全うさせる責任を全て負うという、自然界における最大の植物資源としての樹木への敬虔なる立場性であり、極めて真っ当な姿だと思うし、
またその結果として、良質な木工家具を制作できるのであれば、これに増したシアワセなどあるまい。
拝金主義が当たり前の世にあって、しかしそれだけではない個人の生き方に深く関わる領域の問題でもあるのかもしれないしね。
今回の丸太に投下した資金はMacBook Airが3台も買えるほどのものではあるけれど、MacBook Airもそうであるように、この丸太購入も十分の価値があることは自身が示さねばいけないだろうね。
啓蟄を越え、明日はさらに春の装いを深めていくだろう。
画像下は、腱鞘炎のための塗り薬、サリチル酸メチル系の消炎剤

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  • 腱鞘炎
    昨年初めてなった時は
    電動歯ブラシもいたかったです
    ポルタレンというものを使ってました
    お大事に〜
    Macはまだ
    未だ無線環境無しです

  • やはり、この時期が丸太を買うには良い時期
    なんでしょうね。

  • kokoniさん、演奏を長時間やったためでしょうか。
    どちらの手に負担が掛かるのでしょう。
    「ポルタレン」調べてみましょう。
    家庭内LAN環境はそれぞれの使用環境で異なりますので、不要であればやらない方が良いです。漏洩のリスクは常にありますので。
    企業も一時は普及が進んだようですが、今は撤退しているところが多いと思います。

  • acanthogobiusさん、どうもです。
    丸太の購入時期というのも、なかなか難しいですね。
    出自が明確なモノであれば、伐採時期を知ることもできますので、選択基準に照らしあわせればOK、
    ただ外材となると、やや不明確。
    今回も2本のウォールナットは、皮の剥け方がずいぶんと感じが違っていまして、産地の違い、伐採時期の違い、なども含め、不明なところもありますね。
    ただ、この後、春から梅雨に欠けて湿潤な時期に移行する前に、ある程度桟干しして、外皮くらいは乾かしておきたいところです。
    今はそういう意味ではぎりぎりのラインですね。

  • >長時間
    学生時代周辺からすると
    そういうわけでもないんですが・・
    やはり年齢的なものかも
    ピアノは右がなりやすいですね
    無線はうちは消極的、みたいです

  • kokoniさん、ピアノ弾きが手を使えないというのは想像を超えて辛いものでしょう。
    恐らくは幼少の頃から鍛え上げてきた God Handでしょから、トラブルのないよういたわりながら奏でてください

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